デスペラード ファーストライブ (後編)
すいません、遅くなりましたが、なんとか今日中に投稿できました。時間を決めての投稿に挑戦と思ったのですが、まだまだ難しいようです。ですが、それでも、一日一話の維持くらいは……。
地震、雷、火事、親父
この世に災い数あれど
威圧、暴力、悪巫山戯
お前の物は 俺の物
うちの兄貴はまだ酷い
こんな不条理あるものか
BASTARD!
こんな兄貴はいらないぜっ
BASTARD!
オレの前から消えてくれっ!
ライブハウス内に曲が流れる。
曲名は……、これって、確か『BASTARD!』じゃなかったっけ。
オレの兄貴に対する悪口に、葉さんが手を加えて曲を付けたやつだ。実際に歌ってみると、こんな感じになるのか…。
他の客の反応はどんなものだろうか?
気になったオレは周囲を見回してみた。
マジか……?
こんな巫山戯た歌詞のくせに、周りの奴らはノリノリだった。
もしかして、歌詞なんてどうでもいいのか…?
真彦の反応も周囲の奴らと変わらない。
ただ、他の三人は、美咲ちゃん、天堂、そして由希の反応はというと……。
「はははははっ。も、もうっ、純くんったら…。
ぷふっ、くくっ……」
「はは……」
「ぷふっ…、な、なによ、これ。
よ、よく、こんなの…、仁さんが認めたわね…。
…っぷくくっ」
三人揃って笑っていた。
と、いうか、美咲ちゃん、オレの名前を出すのは止めてくれ。
天堂も苦笑いなんかしてないで止めてくれよ。
…否、それだと返って目立って良くないか…。
…なら、それが正解なのか?
あと、由希。お前、本当はオレのこと、気づいているんじゃないか? いや、積極的に訊くのもなんか怖くて訊けないんだけど……。
「みんな、今日のライブに集まってくれて、ありがとうっ。
知ってるかもしれないが、今日は俺達のプロ初ライブだ。アマチュアの頃から応援してくれているファン、そして今日が初めてっ奴、そんなみんなの期待に応えるため、これからもがんばっていくんで、みんなっ、よろしくっ!」
曲が終わったところで、このバンドのリーダーである、ボーカルの恭さんのMCが入った。
「はははははっ。恭ってば、やけに気合いが入ってるじゃない。
もしかして、リトルキッスの花房咲ちゃんが、観にきてくれてるかしら?」
「御堂玲くんも来てくれてるぜ」
そこに、ドラムの葉さんと、ベースの烈が続く。
明らかに、それを狙っての、ふたりの招待だよな。
「もしかすると、早乙女純ちゃんも来てるくれてるかも」
「いや、どうかな。あの子は普段、余り人前に姿を現せないらしいからなぁ」
「でも、案外、こっそり観にきてくれてるかもよ」
さらに烈さんが、早乙女純についても言及するが、兄貴によって否定され、そこに葉さんのフォローが入る。
「そうだな。じゃあ、気合いを入れて、次の曲、いってみようか」
そして、恭さんが纏めてところで、次の曲へと入った。
…と、ここまでは良かったのだが……。
はあっ⁈
いったい何考えてるんだよっ⁈
ここにきて、なんでそんな曲なんだよっ⁈
…そう、始まった曲は、選りにも選って『Little Lover』だったのだ。
この曲は、一言で言うと、リトルキッスの同名曲の替歌である。
その具体的な歌詞については、ちょっと勘弁してほしい。何故なら、その内容は、幼女嗜好の変態がその性癖の素晴らしさを説くといった、幼女嗜好者の、幼女嗜好者による、幼女嗜好者のための讃美歌といった態の曲なのだから。
女性なら…否、女性でなくても、嫌悪を抱くだろう。実際、由希なんかは露骨に顔を顰めている。
この曲について知っている美咲ちゃんにしても引きぎみだ。
この『引く』っ言葉だが、この場合どういった字を当てるべきなんだか…。
表情が引き攣るから、『引』をつかったけど、それなら『攣』も『攣く』だよな。
それとも、乾いた笑いを浮かべるから『干』か。そういえば『干す』も『干』だったな。やり過ぎて、業界から干されなけりゃいいけど…。
……とりあえず、この場に居たくなくないから『退く』の『退』だな…。
そういうわけ……じゃないけど、オレはこの場から、離れることにしたのだった。
オレが戻って来た時には、別の曲に替わっていた。
但し、演ってたのは同じ路線の曲だった。
その曲名は『YOUをFUCK!』
某有名アニメの主題歌の替歌だ。
しかし、やはり酷い。
なにが「指先ひとつで昇天」だよ。
『地獄に堕かせる』んじゃなくって、『天国に昇かせる』ってか。下品過ぎるぜ、葉さん。
これじゃ『世紀末救世主』じゃなくて、『性器待つ求性主』だ。
漫画のファン達が怒るぞきっと。
念のため言っておく。兄貴達『デスペラード』には、オレも幾らか曲を提供しているけど、この曲は違う。断じて違う。
この曲の歌詞を作ったのは、オレではなくって、葉さんだ。基本、デスペラードの作詞作曲は彼女が担当しているのだ。
せっかく見てくれは美人なのに、中身がこれじゃなぁ…。
やっぱり兄貴と連んでいるだけあって、彼女も同じ変人ってことか…。もったいない。
おっと、本来の目的を忘れるところだった。
オレが帰ってきたのは…、否、帰ってきたと言うのはある意味正しくないかもしれない。
何故なら、今のオレは『早乙女純』なのだから。
「あんたら、いい加減にしとけよっ。
ここには女性だっているってのに、いつまでそんなセクハラ紛いな曲、演ってんだよっ!」
オレは、デスペラードのメンバーに向かって吠えていた。
とはいっても、ちゃんと理性は残っている。至って冷静だ。
その証拠に曲が終わるまで、ちゃんと待っていたんだから。
オレは、これでも常識人なのだ。
幾らなんでも、そんな営業妨害みたいなことはしない。
それに、一応、マネージャーの藍川さんの許可だってもらっている。だからこそ、こんな真似が可能なのだ。そうじゃなきゃ、今頃、外に摘み出されていることだろう。……あの人、なんか怖いしな…。
「そんなこと言われてもねぇ」
それに応えた葉さんは、オレとは対照的だった。
「だって、私達は『デスペラード』よ。
あなただって、言葉の意味くらい知ってるでしょ。
だから、そんなこと気になんてしないのよ」
デスペラード。それは無法者、命知らず、犯罪者等を意味する英語である。
米国のロックバンドの、イーグルズの同名曲の邦題である『ならず者』が訳として有名だろう。
「まあ、そう言うなよ。相手は年下の女の子だぞ。
流石にそれは大人気ないだろう」
「ふふっ、冗談よ。
でも、せっかくこうして出て来たんだし、ついでに一緒に演っていかない?」
な……、まさか計算尽くか…?
葉さんの笑みがなんだか妖しい。
藍川さんが許可を出してくれたのも、これを狙っていたんじゃ……。
結局、相手の思う壺だったようだ。
オレはおろか、美咲ちゃんまで、ゲスト出演する羽目に……。
すっかり忘れていた。大人ってのは、強かで灰汁強いんだった。本当は悪道いって言いたいところだけど…。
一応、曲については気を使ってくれていたようだ。
あれ以後、あの手の曲は出てこなかったのだ。
まあ、それでも、兄貴達のちょい悪系路線は変わらなかったのだけど。
では、どんな曲を演ったかというと、
まずは『Kill Kill Kill』
この曲については、オレ達の『Kiss Kiss Kiss』が元となっているため、よく知っている。
歌詞の方も、内容がアレなものじゃなかったこともあり、興味半分で美咲ちゃんも覚えていた。
そんなこともあっての選曲で、この曲はオレ達との共演となった。
いかにもヤンキーといった感じの曲で、美咲ちゃんには不似合いな曲だと思ったんだけど、美咲ちゃんは
やけにノリノリ。
実はこの手の曲も案外嫌いじゃないらしい。
イメージが壊れやしないか心配だ。
兄貴達、デスペラードの方も負けちゃいない。
というか、その兄貴なんだけど…。
サブのボーカルを務めていた兄貴がシャウトしていた。
「KillKillKillKillKillKillKillKill、Killっ!」
なんだ? この息の切れんばかりのKill連発は?
後で聞いた話によると、一秒間に何回Killを言えるかのチャレンジで、何だったかの漫画の影響なんだとか。
そして最後の締めとなった。
この曲には、というか『Kill Kill Kill』以外の曲には、オレ達、リトルキッスは参加していない。
あくまで、このライブの主役は、兄貴達、デスペラードだからだ。
それにしても『Break the Fate』か…。
実はこの曲も、この春に放送された学園騎士団の挿入曲として使用された、オレ達リトルキッスの『Brave and Faith』が原曲だ。
う〜ん、こういった気づかいは、やっぱり大人ってわけか。
まあ、ならず者を気取ってみても、そこはやっぱりプロなんだなぁ。
こうして、兄貴達、デスペラードのプロ初ライブは、無事盛況のうちに終わったのだった。
今日一日でいろいろなことが解った。
結構、クセはあるけれど、この分なら余計な心配は必要なさそうだ。
意外にも、兄貴も上手くやってそうだし。
リーダーの恭さんに、デスペラードの他のメンバー達。そしてマネージャーの藍川さん。これからも兄貴のことよろしく頼みます。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




