表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/420

デスペラード ファーストライブ (後編)

 すいません、遅くなりましたが、なんとか今日中に投稿できました。時間を決めての投稿に挑戦と思ったのですが、まだまだ難しいようです。ですが、それでも、一日一話の維持くらいは……。

 地震、雷、火事、親父

 この世に災い数あれど

 威圧、暴力、悪巫山戯

 お前の物は 俺の物

 うちの兄貴はまだ酷い

 こんな不条理あるものか

 BASTARD!

 こんな兄貴はいらないぜっ

 BASTARD!

 オレの前から消えてくれっ!


 ライブハウス内に曲が流れる。

 曲名は……、これって、確か『BASTARD!』じゃなかったっけ。

 オレの兄貴に対する悪口に、葉さんが手を加えて曲を付けたやつだ。実際に歌ってみると、こんな感じになるのか…。


 他の客の反応はどんなものだろうか?

 気になったオレは周囲を見回してみた。


 マジか……?


 こんな巫山戯(ふざけ)た歌詞のくせに、周りの奴らはノリノリだった。

 もしかして、歌詞なんてどうでもいいのか…?


 真彦の反応も周囲の奴らと変わらない。

 ただ、他の三人は、美咲ちゃん、天堂、そして由希の反応はというと……。


「はははははっ。も、もうっ、純くんったら…。

 ぷふっ、くくっ……」

「はは……」

「ぷふっ…、な、なによ、これ。

 よ、よく、こんなの…、仁さんが認めたわね…。

 …っぷくくっ」


 三人揃って笑っていた。

 と、いうか、美咲ちゃん、オレの名前を出すのは()めてくれ。

 天堂も苦笑いなんかしてないで()めてくれよ。

 …否、それだと返って目立って良くないか…。

 …なら、それが正解なのか?

 あと、由希。お前、本当はオレのこと、気づいているんじゃないか? いや、積極的に訊くのもなんか怖くて訊けないんだけど……。



「みんな、今日のライブに集まってくれて、ありがとうっ。

 知ってるかもしれないが、今日は俺達のプロ初ライブだ。アマチュアの頃から応援してくれているファン、そして今日が初めてっ奴、そんなみんなの期待に応えるため、これからもがんばっていくんで、みんなっ、よろしくっ!」


 曲が終わったところで、このバンドのリーダーである、ボーカルの恭さんのMCが入った。


「はははははっ。恭ってば、やけに気合いが入ってるじゃない。

 もしかして、リトルキッスの花房咲ちゃんが、観にきてくれてるかしら?」

「御堂(れい)くんも来てくれてるぜ」


 そこに、ドラムの葉さんと、ベースの烈が続く。

 明らかに、それを狙っての、ふたりの招待だよな。


「もしかすると、早乙女純ちゃんも来てるくれてるかも」

「いや、どうかな。あの子は普段、余り人前に姿を()せないらしいからなぁ」

「でも、案外、こっそり観にきてくれてるかもよ」


 さらに烈さんが、早乙女純についても言及するが、兄貴によって否定され、そこに葉さんのフォローが入る。


「そうだな。じゃあ、気合いを入れて、次の曲、いってみようか」


 そして、恭さんが纏めてところで、次の曲へと入った。


 …と、ここまでは良かったのだが……。


 はあっ⁈

 いったい何考えてるんだよっ⁈

 ここにきて、なんでそんな曲なんだよっ⁈


 …そう、始まった曲は、選りにも選って『Little Lover』だったのだ。


 この曲は、一言で言うと、リトルキッスの同名曲の替歌である。

 その具体的な歌詞については、ちょっと勘弁してほしい。何故なら、その内容は、幼女嗜好の変態がその性癖の素晴らしさを説くといった、幼女嗜好者(ロリコン)の、幼女嗜好者(ロリコン)による、幼女嗜好者(ロリコン)のための讃美歌といった態の曲なのだから。


 女性なら…否、女性でなくても、嫌悪を抱くだろう。実際、由希なんかは露骨に顔を顰めている。

 この曲について知っている美咲ちゃんにしても引きぎみだ。


 この『引く』っ言葉だが、この場合どういった字を当てるべきなんだか…。

 表情が引き()るから、『引』をつかったけど、それなら『攣』も『攣く』だよな。

 それとも、乾いた笑いを浮かべるから『干』か。そういえば『干す』も『干』だったな。やり過ぎて、業界から干されなけりゃいいけど…。


 ……とりあえず、この場に居たくなくないから『退(しりぞ)く』の『退』だな…。


 そういうわけ……じゃないけど、オレはこの場から、離れることにしたのだった。



 オレが戻って来た時には、別の曲に替わっていた。

 但し、()ってたのは同じ路線の曲だった。

 その曲名は『YOUをFUCK!』

 某有名アニメの主題歌の替歌だ。

 しかし、やはり酷い。

 なにが「指先ひとつで昇天(ダウン)」だよ。

 『地獄に()かせる』んじゃなくって、『天国に()かせる』ってか。下品過ぎるぜ、葉さん。

 これじゃ『世紀末救世主』じゃなくて、『性器待つ求性主』だ。

 漫画のファン達が怒るぞきっと。


 念のため言っておく。兄貴達『デスペラード』には、オレも幾らか曲を提供しているけど、この曲は違う。断じて違う。

 この曲の歌詞を作ったのは、オレではなくって、葉さんだ。基本、デスペラードの作詞作曲は彼女が担当しているのだ。

 せっかく見てくれは美人なのに、中身がこれじゃなぁ…。

 やっぱり兄貴と(つる)んでいるだけあって、彼女も同じ変人ってことか…。もったいない。


 おっと、本来の目的を忘れるところだった。

 オレが帰ってきたのは…、否、帰ってきたと言うのはある意味正しくないかもしれない。

 何故なら、今のオレは『早乙女純』なのだから。


「あんたら、いい加減にしとけよっ。

 ここには女性だっているってのに、いつまでそんなセクハラ紛いな曲、演ってんだよっ!」


 オレは、デスペラードのメンバーに向かって吠えていた。

 とはいっても、ちゃんと理性は残っている。至って冷静だ。

 その証拠に曲が終わるまで、ちゃんと待っていたんだから。

 オレは、これでも常識人なのだ。

 幾らなんでも、そんな営業妨害みたいなことはしない。

 それに、一応、マネージャーの藍川さんの許可だってもらっている。だからこそ、こんな真似が可能なのだ。そうじゃなきゃ、今頃、外に摘み出されていることだろう。……あの人、なんか怖いしな…。


「そんなこと言われてもねぇ」


 それに応えた葉さんは、オレとは対照的だった。


「だって、私達は『デスペラード』よ。

 あなただって、言葉の意味くらい知ってるでしょ。

 だから、そんなこと気になんてしないのよ」


 デスペラード。それは無法者、命知らず、犯罪者等を意味する英語である。

 米国のロックバンドの、イーグルズの同名曲の邦題である『ならず者』が訳として有名だろう。


「まあ、そう言うなよ。相手は年下の女の子だぞ。

 流石にそれは大人気ないだろう」

「ふふっ、冗談よ。

 でも、せっかくこうして出て来たんだし、ついでに一緒に演っていかない?」


 な……、まさか計算尽くか…?

 葉さんの笑みがなんだか妖しい。

 藍川さんが許可を出してくれたのも、これを狙っていたんじゃ……。



 結局、相手の思う壺だったようだ。

 オレはおろか、美咲ちゃんまで、ゲスト出演する羽目に……。

 すっかり忘れていた。大人ってのは、強かで灰汁(あく)()いんだった。本当は悪道(あくど)いって言いたいところだけど…。


 一応、曲については気を使ってくれていたようだ。

 あれ以後、あの手の曲は出てこなかったのだ。

 まあ、それでも、兄貴達のちょい悪系路線は変わらなかったのだけど。


 では、どんな曲を演ったかというと、


 まずは『Kill Kill Kill』

 この曲については、オレ達の『Kiss Kiss Kiss』が元となっているため、よく知っている。

 歌詞の方も、内容がアレなものじゃなかったこともあり、興味半分で美咲ちゃんも覚えていた。

 そんなこともあっての選曲で、この曲はオレ達との共演(コラボ)となった。

 いかにもヤンキーといった感じの曲で、美咲ちゃんには不似合いな曲だと思ったんだけど、美咲ちゃんは

やけにノリノリ。

 実はこの手の曲も案外嫌いじゃないらしい。

 イメージが壊れやしないか心配だ。


 兄貴達、デスペラードの方も負けちゃいない。

 というか、その兄貴なんだけど…。


 サブのボーカルを務めていた兄貴がシャウトしていた。


「KillKillKillKillKillKillKillKill、Killっ!」


 なんだ? この息の切れんばかりのKill連発は?


 後で聞いた話によると、一秒間に何回Killを言えるかのチャレンジで、何だったかの漫画の影響(マネ)なんだとか。



 そして最後の締めとなった。

 この曲には、というか『Kill Kill Kill』以外の曲には、オレ達、リトルキッスは参加していない。

 あくまで、このライブの主役は、兄貴達、デスペラードだからだ。


 それにしても『Break the Fate』か…。

 実はこの曲も、この春に放送された学園騎士団の挿入曲として使用された、オレ達リトルキッスの『Brave and Faith』が原曲だ。


 う〜ん、こういった気づかいは、やっぱり大人ってわけか。

 まあ、ならず者を気取ってみても、そこはやっぱりプロなんだなぁ。


 こうして、兄貴達、デスペラードのプロ初ライブは、無事盛況のうちに終わったのだった。



 今日一日でいろいろなことが解った。

 結構、クセはあるけれど、この分なら余計な心配は必要なさそうだ。

 意外にも、兄貴も上手くやってそうだし。


 リーダーの恭さんに、デスペラードの他のメンバー達。そしてマネージャーの藍川さん。これからも兄貴のことよろしく頼みます。

※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ