デスペラード ファーストライブ (前編)
今回はライブについての話となっておりますが、例によって、作者の知識は中途半端な俄なものです。一応、Googleを参考に調べてみましたが、余り理解出来ておりません。そんなわけで、今回の薀蓄は中途半端なものとなっております。そこのところを是非ともご了承ください。
とかく世間は煩わしいぜ
あれをしろとか、するなとか
そんなことなど知るものか
そこらの犬にくれてやれ
Oh! Desperado
他人は何とも言わば言え
Oh! Desperado
俺は俺の信じた道を行く
ライブハウス内に曲が流れる。
曲名は『Desperado』
兄貴が所属するバンド『デスペラード』の代表曲だ。
実はうちの兄貴は、この春にデビューしたプロのミュージシャンだったりする。
その縁により、オレ達はこのライブに招待を受け、現在この場にいるのだった。
ひと口にライブと言っても、規模の大小はさまざまだ。
アマチュアバンドが行うライブだと数十万円くらいだろうが、一流アーティストのコンサートだと数億円かったりもする。会場費だけでも、小さなライブハウスの終日レンタルでも、約10万〜20万円が相場なんだとか。
機材費については会場費の中に含まれているケースが多いが、別途でかかる場合もあり、大体2,000円程度。ただ、大きなところでは、音響設備に拘ったり、派手な演出やパフォーマンスをしたりで、数百万円以上掛ける者も在たりする。
また、人件費も必要だ。ライブやコンサートでは、出演するバンドやアーティストのギャランティーだけでなく、運営スタッフや警備員、マネージャーなど人件費も当然かかってくる。人気アーティストであれば、1ステージ100〜150万円ほどが相場のようで、中には数千万円の出演料を手にする者もいる。まあ、そんな連中は、こんなところでライブなんか行なわないだろうけど…。あとは、彼らのギャラや給料に加え、ライブ当日の飲食物や衣装など、別途費用がかかってくるってところかな。
じゃあ、そういった費用は一体どのような方法で集めているのか。
まずは、前回分の収益だ。年一や月一のように定期的に行なわれているライブやコンサートで黒字が出れば、その際の収益を使って次回分の開催費用に充てている。ただし、収益が支出額の2倍以上を上回るケースは少ないため、全額ではなく開催費の一部に充てるというのが定番だな。
次に協賛金。小さなライブだとつかない場合があるけど、大々的に行なわれるコンサートではスポンサーがバックについてくれることが多く、その協賛金をもとに開催が施される。大手有名企業のみならず、非上場企業がスポンサーとなり、出演するアーティストとともに知名度をあげていくといったケースもある。
他にも寄付金。チャリティーコンサートなんかがいい例だろう。その純益で福祉事業に貢献することに使われる。まあ、今回は関係ないな。
最近では、クラウドファンディングという方法もあるらしい。
なんでもこれは、インターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達するといった方法なんだとか。
なんだかの企画を起ち上げ、その賛同者と共に、ライブを開催、支援するということらしい。
個人的集団企画?
それとも私的集団企画による、大集団での協賛?
要するに、ファンクラブ協賛のライブってイメージでいいのか?
他にも、株式なんかにも似ている気もする。
まあ、いろいろなパターンがあるらしいので、一概に何ともいい難いな…。
そうやって資金調達を行なうわけだが、ライブやコンサートを実施する際にかかる費用はさまざまで、数十万円の規模から、数千万円、数億円単位にまで幅広い。低予算でできることを実行するのか、お金がかかってでもハイクオリティなものを提供するのか、その選択は人それぞれだろう。……まあ、金が集まればの話だけど…。
でだ、兄貴達の場合だけど、まあ言うまでもなく、前者である。
なんてったって、今年4月にプロになったばかりで、しかもその経緯が経緯なのだ。その実力は「海のものとも山のものともつかぬ」というのが一般的な評価なのである。行き成り大金を注ぎ込もうなんて、誰だって思わないってわけだ。
そんなわけでの、ライブハウスでのライブなのである。
そう、アマチュア同様の企画ライブなのだ。
さて、その企画ライブとはどういったものかを説明しよう。
企画ライブとは、自分たちで出演アーティストやライブハウスを決めてイベントを行うライブのことである。ここでは、単独ではなく、自分達主催で、他のアーティストと共にライブを行なうものとして話を進めることにする。
さて、この企画ライブだが、自分達が主催者となって音楽イベントを開催するので、ある意味自分たちの実力を示すことができるイベントとも言える。
大抵のアマチュアは、まずここからのスタートだ。
兄貴達にとっては、最早お馴染みのイベントでもある。
出演者を自分たちで決められるのというメリットは、その成功率を高め、満足感の高いライブにすることも可能だろう。
但し、デメリットもある。
まずは時間の問題。
音楽以外にも、やることがたくさんあり、多くの時間を割かなくてはならないという点だ。
企画ライブでは、イベント会場の選定から出演アーティストへのオファー、必要に応じてイベント会社などとの連携など、数多くの工程をこなさなくてはならない。
ライブのための練習に時間を使いたくても、出演の3〜4ヶ月前から準備に追われることになるのだ。
次に金銭的な問題。
ライブハウスのレンタル費用については、先にも述べたが、平日でも10万円以上、土日であれば更に高く15〜20万円ほどかかりる。
しかも、企画ライブは自分たちで発案して運営するので、チケットが売れなければ非常に大きな赤字となる可能性もあるのだ。
加えて自分たちで制作したCDやグッズなど、商品販売も狙うのなら、より資金は多く必要となる。
この辺、兄貴達はどうしてたんだろう…。
まあいいか、その辺のことは置いておこう。
今度はライブの準備についてだ。
企画ライブを開催するにあたって、ライブのコンセプトは非常に重要になってくる。
どんなライブにするのかを決めることによって、次のことか決まってくる。
開催場所、ターゲットとする観客、ライブのタイトル、出演アーティスト、予算などだ。
せっかく自分たちで費用をかけて、一からライブを作り上げていくのであれば、自分たちが実現したいコンセプトをしっかりと打ち出すべきである。
きちんとコンセプトが決まっていないと、出演者にもいいバンドが集まらないからな。
コンセプトが決まったならば、次は会場の選定だ。
これについては、やはり事務所や地元からアクセスしやすい場所だろう。
なんたって機材の運搬なども大変だからな。
それに地元の人が来やすい場所という意味でも、近場を選ぶことは大切だな。まさか、わざわざ遠い他所から来るなんて、そんな物好きなんて在ないだろうし。
他にも会場の収容可能人数、ステージの広さ、楽屋の広さやなんかも考える必要があるだろう。
後は、決めたコンセプトに合っているかだ。
場所によってはジャンルが限定されていたりするらしい。兄貴によると、出演者の縄張りなんてものもあるらしく、アウェーだといろいろあるんだとか。なにが『いろいろ』かは敢えては訊いていない。漫画のような答えが返ってきそうだったし…。
場所が決まったら、次は日時。会場を押さえるのに3〜4ヶ月掛かるってのは話したっけな…。
他の出演者へのオファーも必要だ。
出演バンドにはチケットノルマが振り分けられる。
チケットノルマとは出演バンドに課せられる『売らなければならないチケット枚数』のことである。
会場の大きさによっては、メジャーデビューしているバンドでもない限り、それだけのお客さんを呼ぶのは難しい。だからこそ、必ずチケットノルマを設定して出演者全員でお客さんを集めてもらわなければならない。考えようによってはブラックだけど、ここまでに掛かっている費用はタダではないのだ。そんな綺麗事なんて言ってられないのである。誰だって赤字は嫌だからな。これは絶対。駄目なら自腹だ。
他にもこういう問題もある。
数ヶ月前から出演交渉をするため、開催日が近くになってから出演予定のバンドがスケジュールが合わなくなり、キャンセルされるケースもある。
そうなってしまうと、今更チケットノルマ付きで代わりに出演してくれるバンドを探すのは難しく、損害が出てしまう可能性が高い。
それに備え、万が一キャンセルが出たとしても金銭的な被害を抑えるられるよう、あらかじめキャンセル代を決めておく必要がある。
その際に、金額だけではなく、キャンセル可能な期日も合わせて設定しておき、口頭で伝えるのではなく、書面やメールに残しておくことで、トラブルを回避することも考えておかねばならないだろう。
それが済んだら、タイムテーブルも決めなければならない。
出演者達の、出演の順番とその時間だ。
基本、自分達がトリを務め、残りを他の出演者で埋めていく。
否、それは単に適当に埋めていけば良いというものではなく、よく考えた上で決めなければならない。特に一番最初の出演者は大事だ。ここでライブ全体の印象が決まるので、トップバッターはしっかりと考えて選ぶことが必要なのである。
他にも、男女のバランスだったり、ジャンルのバランスだったりと、そういうことも考える必要があるだろう。コピーバンドのライブの場合、同じアーティストのコピーをする可能性どころか、演奏する曲が被ってしまうなんてこともあるしな。その辺の調整も考えないとマズい。
そんな苦労をしながら、タイムテーブルを決めていくわけだ。
ここまで決まったらライブの内容はほぼ確定。
次は漸く告知である。
この告知はライブの集客を左右する重要な局面なので、手を抜かずしっかり行なわなければならない。
それさえ済めば、後はライブハウス側でチケットを作成してもらうだけ。
出演者達に、ノルマ分のチケットを渡せば、そこで準備は終了だ。
こんな感じで行なわれるのが企画ライブである。
ただ、兄貴達『デスペラード』の場合、一応はプロであり、金銭面での問題はまず無い。(とは言っても、先に述べたように、大して金は掛けていないようだが)
機材についても、事務所側である程度は用意してくれているはずだ。(贅沢を言わなければだけど)
他のスケジュール管理等も、ある程度はマネージャーの藍川さんが相談に乗ってくれているらしい。
そういったわけで、兄貴達は、自分達のことに専念出来ているはずで、それなりにレベルを上げているらしい。
と言っても兄貴の言に過ぎないのだが…。
「はぁ〜、凄いわね。
仁さんって、本当にプロになっちゃったんだ」
「ああ、しかも結構上手いしなあ。
しかし、まさか、あの仁さんがなぁ…」
うん、由希や真彦の言うとおりだ。
本人の前じゃ、認めないけど、一年前とは大違いにレベルアップを果している。
たった一年で、ここまでレベルが変わるとは思ってもみなかった。
流石は恭さん、リーダーの面目躍如といったところか。それともマネージャーの藍川さんの手腕によるものか。とにかくプロの名に恥じぬ実力を身に付けたと言えるだろう。
「流石、純くんのお兄さん達だね」
「僕としては少し羨ましいかな」
そんなことなど知らないだろう美咲ちゃんと天堂は、素直に兄貴達を称賛している。
「いや、純は関係ねえだろ。
というか、こうなるといよいよ、純と同じ兄弟とは思えないよな」
「純も少しは見習わないとねぇ」
それに比べてこいつらは…。
いや、知らないんじゃしょうがないけど……。
……知らないはずだよな…。
少なくとも真彦の方は、オレが『JUN』とは気づいてないはずなんだが…。
このふたりには、以前にオレが作曲しているところを見られているからなぁ…。
その時の反応だと、由希が微妙な感じで、真彦の方はまるっきりて感じだったんだけど。今のこの反応ってどう考えればいいんだろ…。
そんなことをオレが考えているうちに、曲は別のものに替わっていた。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




