本当はアイドルって大変なんだぞ ……多分 (前編)
すみません。作者の都合上、今回は前振りだけになってしまいました。結果、中身は素空間です。まあ、中身が無いのはいつものことって、嘲笑われるかもしれませんが…。そう言うわけで続きは次回となります。
6月に入った。
曇然とした、明暗定か成らぬ空模様が日々続き、それに引き釣られ、こちらの気分まで憂鬱になりそうになる。
そう言えば、去年の今頃は、毎日のように千鶴さんが作曲依頼に来ていたよなぁ。
まあ、最近は、控えてくれているみたいだけど。
その辺は、オレ達が受験生ってことを理解してくれてるってことかな。
それに彼女も同じ受験生……じゃなかったか…。
よく考えたら、千鶴さん所属の学校はエスカレーター式だった…。
うちの学校は普通の公立だし、オレ達の場合、千鶴さんみたいにはいかないんだよなぁ…。
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ホームルームの時間のことだった。
今日の議題は進路の話。
先日、進路調査が行なわれたのだが、その結果、将来芸能界入りしたいなんて生徒が少なからずいたため、美咲ちゃんと天堂から、その業界に纏わる話を是非聴きたいという話となった。
でも、このふたりじゃ参考にならないよなぁ…。
まずは天堂、『御堂玲』の場合。
「僕の場合だと、まずは去年のタレントオーディションだね。
そこで、いろいろな審査を受けて、その後にデビューという形かな」
やっぱり……。
こいつは、こんなに簡単そうに言ってるけど、まず、出場するための書類選考を忘れている。
それに、それを果しても予備審査が待っている。
これを突破して、漸く、出場となるのだ。
そこで初めて、自分のアピールが出来るのだが、そこでも厳しい審査が待っている。
ここで審査員達の目に留まる芸がなければ、容赦なく篩い落とされるのだ。
そしてそれは、例え優れた資質の持ち主であったとしても例外ではない。
あくまでも、審査員の目に留まることが第一で、それがなければ、評価も糸瓜皮も無いのだから。
あ、念のため、ただ目立てば良いってもんじゃねぇぞ。そんな奴は当然、問題外だからな。
で、そこでなんとか、審査員達のお眼鏡に適ったとしても、まだ安心は出来ない。
寧ろここからが本番なのだ。
何故なら、そこで選ばれるのは、男女の主席と次席をあわせて最大4名なのだから。
そして前述した条件を満たせない者は選ばれない。
つまり、該当者無しなんてこともあるのだ。
たが、天堂はこれに該当しない特殊な例外だった。
何故なら、去年のそれは、天堂が選ばれることだけを前提とした茶番劇だったからである。
他は、男女ともに該当者無しだったしなぁ……。
本当、どんだけなんだよ、こいつ…。
ただ、そんな天堂でも、儘ならないことは有る。
歌手活動に於いては、どういったわけか、これといったヒットがみられなかったのである。
しかも、天堂自身に問題があるわけではなかった。
実際、歌唱力は悪くない。
曲に恵まれなかったというわけでもないと思う。
何故なら、こいつに曲を提供したのは、ひとりやふたりではないのだから。
なのに、結果は今言った通り。全く芽が出なかったのだ。
そのため、今の活動は、モデルやCM、後は俳優業が少しとなっている。
でも、それ以外に就いては順調なのだ。
芸能界は甘くないってことを言いたいのなら、こいつはまず、不適切過ぎて参考にはならないだろう。
続いて、今度は美咲ちゃん。
『リトルキッス』の『花房咲』の場合。
「ええっと、私の場合は……。
あんまり、参考にはならないかも。
だって、純ちゃんって凄いパートナーに恵まれてて、純く…『JUN』さんみたいな凄いライターも支いててくれるし、もちろん、プロデューサーの聖さんとか、マネージャーの織部さんとか、事務所のみんなが良くしてくれてるし、ファンの人達だって私みたいなのを応援してくれてるし。
多分……ううん、絶対、私ひとりじゃ、今みたいにアイドルなんてやってこれてないと思う。
だから、こんな幸運に恵まれた私じゃ、やっぱり参考にはならないんじゃないかな」
「ははっ、美咲ちゃんらしい。
でも、そんなところが美咲ちゃんの良いところなんだよなぁ。
多分、他のファン達だって同じように思っているはずだ。でなきゃ、今のこの人気が説明出来ないしな」
「ああ、その通りだ」
「流石は、俺達の花房咲だ」
真彦の称賛に、クラスのみんな賛同する。
当然、オレも同意見だ。
誰より最も間近で見てきたんだ。そのことは、オレが一番知っている。
だから絶対、間違いない。
誇って良いぞ、美咲ちゃん。
実際、美咲ちゃんの努力はよく知っているし、知られている。
学校では、ただアイドルという存在としてだけでなく、日々努力する姿がよく見かけられているのだ。
最近では苦手としている勉強方面だって成長が見られている……はず。一応、中間試験では結果を残しているわけだし。
うん。ちゃんと努力に就いては理解してもらえてると思う。
ただ、クラスの奴らの聴きたいことってのは、芸能界でのことなんだよなぁ……。
「う〜ん、芸能界での苦労話って言っても……。
やっぱり、みんな周りの人達に頼ってばかりで、私としては特に思い当たらないんだよね。
ごめんね。頼りにならなくて」
否、無いってことは無いんだよなぁ…。
でも、良いんだろうか、内部事情なんか話しても……。
とはいえ、このままってわけにもいかないし…。
「あっ、じゃあ、これは人伝の話だけど良いか?」
結局、オレはそれに就いて話すことに決めたのだった。
※前書き、及び作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




