修学旅行 ‐???? ……だめだこりゃ-
黄昏の空が赤く染まる。
天衝く炎に紅蓮に染まる。
「ああ、城が……。
我が歴史あるグランストリアも、最早これまでか………」
「ミルドレウス殿下、今はまだ、そのようなことしている場合ではありません。一刻も早くこの場を立ち去らないと」
崩れ落ちるミルドレウス皇子に、側近の少女が叱咤の声を掛ける。
側近ともなれば、彼以上の疲労があろうものを、それでも、それを感じさせない強い意志が、まだその瞳には残っていた。
そして、それは彼を取り巻く他の従者達も同じ。なんとしても、彼とその妹の身の安全を確保しようと、その思いには、忠誠には、一切の揺るぎさえ見られなかった。
「でも、これからどうすれば良いのでしょう…」
不安そうにしているのは、彼の妹、ブプレリア様。だが、ただ悲嘆に昏れているわけではなく、これからのことを懸命に思案しているようだ。
「殿下、姫、ここは我らが、まずこの周囲を偵ってまいりましょう」
「シーゲル殿、レオ殿。それは我らが調べてまいりました」
ブプレリアの側近二人を遮ったのは、突如現れた二人の少女だった。
「河内守とヒマワリか。で、状況は?」
気を持ち直したミルドレウス殿下が二人に問う。
二人はミルドレウス殿下の側近であり、特にヒマワリは諜報活動を受け持つ忍びの者である。
「状況は芳しいものとは言えません。
オーサカの居城を落とした徳田方の軍勢は、今も追っ手を緩めておらず、既に陛下とお后様は奴らの手に掛かり、そして今なお、殿下達を探し続けております。
最早、一刻の余地もございません。急いでこの場を離れるべきでしょう」
緊迫感が走る。そして、それは間違いではなかった。
「そう易々と逃がすと思ったか、この愚か者め。
お陰で、こうして、ミルドレウスの元へと辿り着けたわ」
現れたのは、敵方総大将の将軍、徳田。
彼の後ろには、数千の軍兵が控えている。そして、それは、さらに数万と増えていくことだろう。最早、万事休す、絶体絶命の危機である。
「こりゃ、もう、覚悟を決めるしかないな」
「考えようによっては、状況を引っ繰り返す絶好のチャンスじゃない。なんたって、敵総大将でのこのこと出て来たんだし、このまま殺っ着けちゃえば良いわけでしょ」
息を飲む、親衛隊隊長。
それに対して楽感的な意見を述べるもうひとりの側近の少女。
確かにもう選択肢など無いであろう。乾坤一擲に賭けるしか無い。否、懸けるしか無いのだ。
「覚悟は良い、由宇?」
へ? 由宇? オレのこと?
気づけば、オレの姿は…、
えぇっ⁈ なんでスカートなんか履いてんだよ⁈
しかも、殿下も姫様も、何処かで見た覚えのある学生服だ。いったいいつの間に…?
いや、それよりもなんで学生服?
しかも、続く台詞がまた奇怪しい。
「いくよ、由宇」
そして、やはり、何処かで聞いたあの台詞…。
「風の囁きが教えてくれる」
「大地の鼓動が物語る」
「穢れた罪を光が暴く」
そう、オレの心を抉るあの台詞だ。
「ちょっと、純ちゃん。早く。続き、続き」
あぁ、なんとなく解ってきた。
だから、こんなわけ解かんないことになってるわけだ。
そこから、乱闘が始まった。
そりゃもう、やはり出鱈目、めちゃくちゃ、意味不明。理解しようというのが間違いというものだ。
だって、小藪や大西、日向に朝日奈が、当然、由希だって暴れ捲くっている。
「吹っ飛べっ、飛○在天!」
真っ先に戦闘に繰り出した、殿下の側近の女。そいつの正体が由希だった。
そして、やっぱり……。
敵の兵士達が、股間を押さえて泡を吹いていたとだけ言っておこう…。
次に親衛隊連中。なんか奇妙しなことに拘って…いる? 殆ど悪ノリ状態だ。
「疾きこと風の如く。加速領域!」
とまあ、こんな感じだ。
因みに、こいつが河内守こと朝日奈だ。
いったい、何処から取り出したのか、木刀で敵兵達を、何処ぞの隠密奉行宜しくシバき捲くっている。
「徐かなること林の如し。静寂の世界」
こいつはシーゲルこと小藪。
どうやら、敵の唱える魔法を封じているらしい。
だけど、これって意味が違うぞ。
いや、それよりも、この世界って、魔法なんてものが存在してたんだな…。
「侵掠すること火の如く。
灼き尽くせっ。閃熱魔法!」
こいつは女忍者?ヒマワリこと日向。
そうすると、これは火遁の術ってことになるのか?
こっちは小藪と違って、本来の意味通りで容赦がない。おぉ、怖ぇ。
「動かざること山の如しっ。
押し潰せっ! 須弥山落とし!!」
で、たった今、超巨大な岩山を召喚したこいつが、レオこと大西だ。
一応、動いちゃいないけど、こっちも小藪と同じと思う。
本来『風林火山』とは、軍を操る際の心構えのことだ。でも、ここでそれを言うのは無粋ってものだよなぁ、うん。
あと、オレの隣りで、戦場の様子を窺うこの男、親衛隊隊長の真彦である。
正直言って、途中から忘れていた…。
…うん、こっちの方が『徐かなること林の如し』を正しく実践しているよな…。
そうなると、残りは自然と決まってくる。
ミルドレウス皇子が天堂で、ブプレリア皇女が美咲ちゃんってことだ。
ただ、何故だろう、ふたりの格好はファンタジー系皇族のそれではなく、あの学園騎士団の制服なのだ。
そして、それはオレも同じ。……但し、由宇だから当然、女性用だ……。
本当に、何故……。
ともあれ、こいつらが暴れ捲くった結果、残すは敵総大将の将軍、徳田。
名前から判っちゃいたけど、やっぱりうちの担任の徳田だった。
「動く雷震ことの如し。電撃魔法剣!」
そしてそれは、ミルドレウス皇子、否、学園騎士団の姿だから、新堂陽介か? とにかく、天堂によって実にあっさりと倒されたのであった。
「お、おのれ、口惜しい…。
この私が、お前らごときにヤラれるとは…。
だが、このままでは終らん…。
出でよっ、英霊召喚っ!」
えぇっ⁈ まだあるの?
もう、いい加減飽きたんだけど。
「ワシを呼び出した不届きもんは、おまんらかの?」
現れたのは、学年主任の坂本。
「ええいっ、先手必勝っ。滅・昇○拳!!」
だが、非道い。出て来た直後に、由希の容赦の無い必殺技が決まった。
戦いに於いては、相手に何もさせないうちに勝利するのが、有効戦術の一つとはいえやはり酷い。
「コラっ、なんばしょっとかぁ、このバカチンがぁ」
ははっ…、由希の攻撃が全く効いていない。
なんかの補正でも効いてるんだろうか。
そう言えば、英霊召喚とか言ってたし。
でも、何の英霊気取ってんだ?
だが、オレの考察もここまでだった。
「ふっ…、漸く私の出番ってわけね。
知り難きこと陰の如し」
なるほど、確かに美咲ちゃんの出番はなかったけど。
……ちょっと待て。
風林火山を知ってたこともだけど、それよりも…。
知り難きこと? まさか……。
「不測効果魔法!!」
やっぱりっ!
突如、世界が歪み始めた。
空も大地もなにもかも。空間さえもが例外じゃない。
おい、どう収拾を着ける積もりだよっ。
……うん、だめだこりゃ。
「カッーーーートっ!!」
行き成り現れた優美に、後頭部を思いっ切り叩かれ、目の前が暗くなった。
そういや、美咲ちゃん達の班にこいつも在たんだよな…。
そんなつまらないことを考えながら、オレの視界は暗闇に閉ざされたのだった。
そして…………。
▼
「ちょっと、いい加減起きなさいよ。
もう、学校に着いてんだから、早くしないとガイドさん達に迷惑よっ」
後頭部の痛みに目を開けると、そこに居たのは由希だった。
まあ、こんな乱暴な起こし方をするのは、こいつくらいのもんだしな…。
つまり、解り切ったことだけど、先程までの事は、当然の如くオレの夢である。
まあ、昨日までの疲れもあるし、何より片道8時間だ。寝てたからって何が悪い。
……それにしても、我ながら馬鹿な夢を見たもんだ。
きっと昨日のSSJの影響だろう。
それにしてもなんてセンスなんだか…。
はぁ…、どうせなら、もう少し真当物な夢を見たかった……。
今回の話は、正直、かなり悪乗りした、悪巫山戯で作っております。しかも、序盤であっさりネタバレすること間違い無し。と言うわけで、作者の悪乗りを、読者方にも楽しんで頂けたらいいなぁ…、なんてつもりの回です。でも、今回に限らず、作中のネタって結構、変なものが多いし、果たして通用してくれているのか……。
例えば『静寂なる世界』なんて、とあるジャンルでは、正反対なくらいに掛け離れているらしいし…。
ただ、須弥山の方は特に考えはありません。でも、なんとなくで調べてみると、作者本人の知らないだけで、ネタとして成立してたものも、今まであったし、今回もそうだったりして…。
ごめんなさい、途中で真彦のことを忘れてました。そんなわけで、後から慌てて追加しました。哀れ真彦。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




