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修学旅行 ‐リトルキッス? with 御堂玲 オン ステージ-

 修学旅行2日目、奈良での宿泊先は旅館だった。

 そう、旅館だ。


「やっぱりこういう所に来たんだ。泊まるんならホテルじゃなく旅館だよなあ」


 オレが陶酔に浸るのも解って欲しい。


 数々の世界遺産に囲まれて、長閑な自然に溶け込む町並みの中に建つ、風情ある木造建築。

  しかも、内部も素晴らしい。

 強さと美しさを兼ね備えた日本屈指の良質な木材が、内装やインテリアといった様々なところに活かされている。きっと、吉野スギや吉野ヒノキといった名木…、いや、それとも銘木か? そういった物が使われているのだろう。

 流石は日本最古の林業地、奈良の旅館。

 ああ、最高だ……。


「んなの、どうでも良いだろ。

 それより、颯々(さっさ)と風呂済ませちまおうぜ」


 ああ、この感動を何故解ってもらえないのだろう。

 オレは真彦に連れられて、風呂場へと向かうことになった。


          ▼


「ちくしょー、露天じゃないのかよーっ」

「当然だろ。そうじゃなきゃ、この人数で入れるかっての。

 何より、女子達だって()るんだ。そんな外からまる見えみたいな場所()使うわけねえだろ」

「いいじゃねえか、少しくらい夢見たって」


 ここは普通の室内大浴場だった。

 それにしても、真彦め、全く呆れた奴だ。

 これが昨日、大西達を(いさ)めようとしていた男とは、とてもじゃないが思えない。


 そりゃ、オレだって、露天風呂に憧れは有るが、だからといって、こいつのような邪なものじゃない。断じてない。絶対にない。欠片程もない。

 …………ってことはないかもしれないけど……。

 一応、オレだって、健全な思春期の男子なわけだし……。


「……まぁ、解らないじゃないし、聞かなかったことにしておいてやるよ」


「おおっ⁈

 純っ、やっぱりお前も男だったんだなっ。

 男の娘疑惑があったから、もしやと思ってたんだけど、やっぱりお前も健全な男だったってことか」


「誰だよ、そんなこと言ってたヤツは」


 このヤロー、先程(さっき)の同情を返せ。


「おい、そんなに怒るなよ。

 それにそんなの決まってんだろ。

 由希だよ、由希」


 くそっ、あいつか……。


「そもそも、あんな()引き受けるから、こんなこと言われるんだよ」


 そう、この後の19時からの夕食時に行なわれる宴会、そこで各クラスの代表が、それぞれ場を盛り上げるべく出し物をするのだが…………。


「仕様がないだろ、クラスで決まっちまったんだから……。

 なぁ、あれって軽く、いじめだよなぁ……」


「……ノーコメント」


 どういう意味だ、真彦。

 それに、天堂も苦笑いするだけで、肯定も否定もしないでいるし…。


 全く、友達甲斐のない奴らだ。


          ▼


 夕食時の宴会が始まった。

 オレ達のクラスの出し物は、リトルキッスと御堂(れい)によるディナーショー(?)ということで、このイベントに於ける主役(取り)を務めることになっている。

 これは全クラス一致の要望で、美咲ちゃんと天堂もこれを受け入れている。しかも、前向きに。


 但し、これには早乙女純は出演しない。

 それでは、正体を隠せないからだ。

 だって、その間、長くに亘って居ないとなると、疑われるのも当然だろう。特撮ヒーローのようにはいかないのが現実だ。


 では、その穴埋めを誰がするのか。


 そこで白羽の矢が立ったのが、何故か男のオレ。

 早乙女純と親しいので、誰よりも彼女のことを理解しているので最適だというのが理由と言う。


 でも実際は、嫉妬からくるただの嫌がらせだよな。

 これって、いじめじゃないの?

 なのに、なんで教師達も許可出してんの?

 担任の徳田はノリノリだし、学年主任の坂本も、ただ笑ってみてるだけだし。

 なんなの? オレが何したって言うんだよ?


 ともかく、こうしてオレが早乙女純役に抜擢されたのであった。



「じゃ、早速準備に入らないとね」


 由希とその友人が、オレの腕を引っ張る。

 確か、この由希の友人、優美って言ったか、嘗てオレに演劇で女役を演らせた奴だったはず。

 ヤバいぞ、これは。

 このまま、こいつらにメイクをされたら、最悪、早乙女純の正体がバレ兼ねない。


「なんだ? オレのメイクに付き合うって、お前ら男子便所にまで附いて来る気か?

 ()めた方が良いぞ。痴女なんて噂が立っても知らないからな」


「「な…」」


 由希達が動揺している隙に、オレは一気に男子便所へと飛び込んだ。


 だって、下手すりゃ、逆にオレの方が女子便所へと連れ込まれ兼ねないからな。多分、こいつらなら容赦一切無しにやる。

 オレの名誉が懸かってるんだ、そんなことなど認められない。

 その場を逃げ出すように…ではなく、それは正に逃走だったのだ。


          ▼


 で、現在、便所の個室。

 だって外だと、他の使用者が居兼ねないし…。

 やはり人前で女の衣装に着換えるってのは、なんだか抵抗があるからな。


 それが済んだら、今度は洗面台だ。

 メイクとなるとやはり鏡と洗面台は必要だ。便所が化粧室とも呼ばれる理由である。

 いつもと違い、今回は如何にも『女装です』といった装いが必要だ。『早乙女純』ではないのだから。

 なので、程々に滑稽な方が良い。

 何より、ウケ狙いなら、本気の女装と結びつかず、所詮は男ということになり、『早乙女純』と同一視されることもない。

 あと、鬼塚さんみたいな(やつ)が出て来ないとも限らない。あれは未だ思い出したくもない黒歴史だ。あんなことはもう二度と御免だ。


          ▼


「だはははははっ、お前、マジで純かよ。オモロ過ぎるぞ。うぷっ…くく」

「ちょっと、真彦く…んっぷ…ふふふ」


 こいつら……。

 狙い通りとはいえ、なんかやっぱり腹が立つな…。

 ともかく、真彦と美咲ちゃんは問題無し。


「う〜ん、もう少し真当物(まとも)なものになると思ってたんだけどなあ」

「うん、後、もうちょっとってところなのよねえ。

 純にしては、よくがんばってるとは思うんだけど」


 優美(?)に由希、余り本気で評価しないでくれないか。なんか悲しくなってくるぞ。


 こうなりゃ、もうやけくそだ。ちくしょう。


「この程度で抑えてるんだよ。じゃねえとお前ら女子の立場がないからな。

 多分、オレが本気を出したら、日本有数の美少女が出来上がるぞ、きっと」


 ただ、この一言は失敗だった。

 オレの挑発は、もろに由希達、雌虎の尾を踏む行為だったのだ。地雷を踏み抜いたとも言う。


「へぇ〜、言うじゃない。じゃあ、どんなもんか見せてもらおうじゃない」

「あ、じゃあ、わたし、手伝うね。

 これでもメイクは得意な方だし、任せといて」

「じゃ、行きましょう、優美」


 オレの腕を取り、この部屋を出て行こうとする由希。

 それに優美が続……って、美咲ちゃんまで⁉


「えっ…………て、ちょっと待て。

 何処へ連れてくつもりだっ」


 ま、まさか……。


「決まってるじゃない。当然、化粧室よ。

 あ、心配しなくても大丈夫。

 今のアンタなら、誰も男だなんて思わないから……多分」

「ちょっと待てっ、化粧室って、要するに便所じゃないか!

 しかも、多分ってなんだ、多分って!」

「男のくせに細かいことに拘んのねぇ」

「男だから拘んだよっ!」

「ちょっと、由希ちゃん、優美ちゃん。

 急がないと時間になっちゃうよ」


 ちょっと、美咲ちゃん。言うべきことが違うだろっ。


 ……結果、オレは彼女達の手に掛かることになったのだった…………。



 いよいよ、オレ達の出番。

 ステージ(?)へと向かう。

 会場が俄に沸き立つ。

 流石は美咲ちゃんに天堂。

 否、『花房咲』と『御堂玲』だ。


「Booooo!」

「早乙女純への冒瀆だ!」

「なんで早乙女純役が男なのよ!」


 但し、やはり一部の男女からヘイトが向けられた。

 もちろん、対象はオレだ。

 ただ、他にも反応はあった。


「誰だ? あの美少女は?」

「否、あれは男らしいぞ」

「マジか?」

「はははははっ、男の娘かよっ」

「変態だな」


 幸いにも、早乙女純の正体に気づいた奴は()ないようだ。

 由希達やクラスの奴らにも怪しまれなかったことで、大丈夫とは判っていたが、やはり多少の心配はあったのだ。だから、これで(ようや)く安心出来た。


 それと最後の二人、顔は覚えた。後で殴る。



 オレ達のステージは盛り上がった。

 花房咲、御堂玲といった、アイドルふたりの出演ということもあったのだが、オレに対するヘイトも最早無くなっていた。

 本物並の歌唱力とダンス、そしてパフォーマンス。

 どれを採っても早乙女純本人そのもの。

 それも当然。なんたって本人なんだから。


 それにしても皮肉なものだ。

 まさか、早乙女純の代わりの人間が、当の本人とは誰も思わないだろう。

 なぜなら、今回の早乙女純役は、男の娘としての男の役なのだから。

 自分で言っててわけが判らなくなってくるが、もう一度改めて言うと、男として『女の役をする男』を演じたというわけだ。


 多分、こんな機会はもう無いだろう。

 そのせいか、自分で判る程に悪乗りした感がある。


 ともかく、オレとしては、記憶に残る一晩となったのだった。

※作中の『(いさ)める』ですが、『諫める』だと目上の人物に『懇願』するという形になり、全く強制力を持たないことから、ただの口先だけの戯言に過ぎなくなるため、余り使われることのない、『力尽く』の『強制力』を持つ『禁める』を使用しました。


※作中の『真当物(まとも)』ですが、本来は『真面』と書きます。これは『()()』が転じたものらしいです。[出典:語源辞典形容詞編]

 また『()(とも)』が語源という説もあります。『真艫』とは、舟の船尾の正面のこと、または、その船尾の正面に受ける風のことをいいます。つまり、そこにその追い風を『まとも』に受け、真正面に進んでいくというわけですね。[Google 参考]


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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