修学旅行 ‐純一行、京都を巡る-
今回の京都に纏わる薀蓄は、Googleやウィキペディアを参考にしておりますが、なにぶん俄知識のため、詳しい事はよく判っておりません。そのため、齟齬等がみられる可能性がありますので、そこは嘲笑って許して頂ければ幸いです。
修学旅行生の朝は早い。
6時起床、7時朝食、そして9時にはチェックアウト。
中には、それ以前から起きている奴もいて……。
「よし、僕のターン。
3マナ払って、琥珀色の少女を、マジックアンバーに換装。
隻眼の女魔術師に攻撃だ」
「くそっ、ならば、オレのターン。
4マナ払って、最果ての魔鎗を、灰色の死神に装着。
そして、バトルっ。マジックアンバーを撃破だ!
……残念だったな。これで勝負ありだ」
何事かと思えば、小藪と大西がカードゲームで対戦していた。
いったい何時からやってんだ?
昨日もこっそり、遅くまで起きていて、携帯で深夜アニメ見てただろうに…。
全く、おかげで目が覚めたじゃないか。
「なんだよ、まだ5時半じゃねーか。
もう少し寝かせといてくれよ」
悪いな真彦、これは単なる腹癒せだ。
だって、ひとりだけいい気分で寝ているのを見てると縋々なぁ……。
眠そうに目を擦る真彦を連れ、洗面所へと向かうと、そこには天堂がいた。
「やあ、おはよう」
「なんだよ、お前もかよ。偉く早いけどどうしたんだ?」
「決まってるじゃないか。朝の身嗜みさ。
男子だって身嗜みは大切だろ」
なるほど、これがこいつのモテる秘訣か。
見たところ随分と手が込んでいるようだ。
まるで女みたいだな。
実際、美顔クリームみたいな物等使ってるようだし…。
うん、オレには真似出来ないな。
否、早乙女純の時は別だけど。
流石にこの時ばかりは手抜きが出来ないからな…。
「なんだ、糞かと思っ……たたたたっ」
「朝からデリカシーの無いこと言ってんじゃないわよ」
気づけば真彦が、何時の間にか現れた由希に、背後からアイアンクローで釣り上げられていた。
「最っ低ぇ」
「天堂くんが、そんなのするわけないじゃない」
その傍には、同じ班の日向と朝日奈も在た。
って、おい、朝日奈。
幾らなんでも、それは幻想の持ち過ぎだ。
天堂だって人の子なんだから、糞くらいするだろうに…。
オレの考えが判るのか、由希達がオレの方をも睨んでくる。
真彦のせいで、跳んだ迸りだ。
「それより美咲ちゃんは?」
「あの子なら、まだ寝てるわよ」
「意外だな。こういうことはしっかりしてると思ったんだけどな」
仕事の時なんか、オレよりも先に来て準備してたくらいなのに…。
「あの子、昨日、結構テンション高かったからねぇ…」
なるほど、それなら頷ける。美咲ちゃんって、そういうところが有るからなあ…。
「そう言えば、昨日は面白い話をいっぱい聞けたわね」
「そうそう、早乙女純の事とかぁ…」
………、何故オレの方を見る?
いったい、何を話したんだ…?
「はぁ…、自覚ないんだ……」
「これじゃ、早乙女純も苦労するわね…」
三人揃って溜息を吐いてくれる。
本当、いったい、なんの話をしていたんだか。
全くもって、理解不能である。
「まぁ、純じゃ仕様がないよな…」
真彦、お前までもか……。
傍では天堂までもが、真彦に頷いていた。
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「京都と言えば、8世紀の平安京遷都以降、明治までの約千年もの間、日本の都であり続け、日本の中心地として繁栄し、今なお受け継がれる伝統文化が、暮らしの隅々にまで浸透しています。地理的には三方を山に囲まれた盆地となっており、夏の暑さと底冷えする冬の寒さが特徴的です」
ガイドさんの案内の下、いよいよ本格的に修学観光が始まった。午前中は、まず京都である。
「ええ、こちらに見えますは、かの有名な金閣寺…」
「ああ、正式名称『北山鹿苑禅寺』
室町幕府3代将軍、足利義満が応永4年(1397年)に、西園寺って貴族の山荘を譲り受け別邸をおいたもので、当時は北山殿と呼ばれていたんだが、義満の死後、その法号『鹿苑院殿』に因んで改名し、臨済宗相国寺派の寺院となったという経緯がある。大本山相国寺の境外塔頭で山号は北山。本尊は聖観音となっており、建物の内外に金箔が貼られていることから『金閣寺』とも呼ばれるようになったわけだ。要するに、権力者による顕示欲の代表例だな。
ただ、こんな凄い歴史的建造物だけど、昭和期に放火により全焼してて、本来の金箔装飾は喪失し、復元後の装飾はイメージ優先だったりするんだと。しかも、その犯人はこの寺の弟子ってんだから酷い話だよなぁ。
あと、そのせいで国宝になり損ねてんだと。
まあ、その代わり、平成6年にユネスコにより世界文化遺産『古都京都の文化財』として登録されているけどな。
文化財としては、絹本著色足利義満像、木造不動明王立像、大書院障壁画等、後は庭園ってところか」
「…………、へ、へぇ〜。よ、よく知ってるわね」
「まあ、一応は学業だから。多少の事は前以て調べてるって程度で、ガイドさん程じゃないですよ」
「……………………」
「ええ、こちらに見えますは、蓮華王院本堂。
元は後白河上皇が自身の離宮内に創建した仏堂で、蓮華王院の名称は千手観音の別称『蓮華王』に由来します。
ここは日本一長い木造建築として知られる本堂をもつ寺院で、1,001体もの千手観音像が祀られています。本堂の柱間が33あることから「三十三間堂」と呼ばれるようになりました。仏像の尊顔はそれぞれに特徴があり、1,001体ある千手観音像の中には会いたい人に似た像が必ずあるといわれています。
全長120mもの軒下を南北に矢を射通す『通し矢』が、保元元年(1156年)から……」
「あ、ここ知ってる。
確か、ここを9秒台で駆け抜けると、神の領域に近づけるんだよねっ」
「何、それ?」
「……………………、こ、今度はボケ要因まで…。
この達、手強い……。」
「「????」」
どうしたんだろう、ガイドさん。なんか、様子が変だけど?
まあ、いっか。
相手は大人で、その道のプロだ。オレ達が気にしても仕方がないよな。
よく判らない状態のガイドさんの下、オレ達はその後に従うのだった。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




