修学旅行 ‐到着するまで8時間-
中間試験が終わった。
今回の試験結果は、良好だったと言っていいだろう。
あ、美咲ちゃんの話な。
オレ達の方は、いつものように問題無し。
真彦が英語で苦労してたくらいで、それ以外は全員、平均点以上を維持している。
そして、オレも最近、英語の成績が上がってきている。
2月から、ジョージさんに英語を習い始めた成果が出ているということだろう。先の学年末試験と今回の中間試験、90点台後半を叩き出している。
ただ、学校の授業と実践とでは、多少の齟齬が有るためか、完璧とはいかず、ここまでが限界のようなのだが。
やはり、授業本来の目的は、実用的英語を習得するための基礎知識を得ることで、行き成り実践で通用させることを前提としていないということなのだろう。
で、話を戻して美咲ちゃんだが、今回は全て赤点無しで、当然、追試も無しだった。と言っても、やはり赤点ギリギリなのだが…。
ともかく、漸く努力が実り始めたということだろう。
否、この後、修学旅行が有るからと、教師陣の採点が甘くなっているだけかもしれないんだけど…。
そう、この後、修学旅行が待っているのだ。
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集合時間は朝7時。
今日は修学旅行当日だ。
今回の修学旅行の行き先は、京都、奈良、大阪。
3泊4日の予定で行なわれる。
引率教師達の下、各クラス毎の点呼が行なわれている。
これが終われば、出発式。
と言っても、旅行中の諸注意が行なわれれるだけなのだが。
そのせいか、まともに聞いている奴は少なく、殆どの奴が馬耳東風と聞き流しだ。
その多くは、やはり、今回の旅行への期待感故か、そっちの方に意識がいかず、周囲との話に夢中で、教師達から注意を受けている奴がちらほらと見受けられる。
オレも、朝が早かったせいで、いささか睡眠不足気味。そのため、やはりオレも当然聞き流しだ。
別に、期待で昨晩寝れてないというわけではない。
だってなぁ……。
出発予定時間は8時。
生徒達が次々とバスへと乗り込んでいく。
今回の修学旅行は、全行程がバス移動により行なわれる。
通常は、駅から新幹線で移動。現地のバスで各地を巡るのが一般的なのだが、我が校は諸事情によりその方法を採っていない。
おかげで、京都まで約8時間、ずっとバスの中ってわけだ。
しかも、3泊4日のうち、2日が移動で潰れるわけで、実際に観て巡れるのは、僅か2日のみとなる。
これじゃ、期待も半減だ。
それでも、他校よりは、まだマシなのかもしれない。
中には、うちと同じ理由で、県内で済ませたり、日数を削るどころか、修学旅行自体を中止するところもあるんだとか。
贅沢は言えないわけだ。
そんなオレに対して、バスガイドさんはハイテンション。
「皆さんのクラス担当と成れて、とっても感激しています。
だって、あの『御堂玲』くんと、『花房咲』ちゃんのいるクラスだし。
同じバスガイド仲間達の間で、熾烈な争いがあったんだから」
気持ちは解るけど、それってどうなんだ?
他の連中は『おまけ』だって言ってる事に気づいてないのか?
この人、大人の割に意外とアレなのかもしれないな。
「それでは皆様、右手をご覧下さい」
早速、ガイドが始まったようだ。
でも、この辺で説明の必要な名所って在ったかな…?
「それがあなたの右手です」
ガクっときた。
いや、これはネタで、客の心を掌握もうという、お約束の手法のひとつか…。なかなか演る。
「手相に於いて、左手は過去、右手は現在や未来を表す手相だとされています。
人差し指の付け根と親指の間から、手首に向かい弧を描きながら伸びている線が生命線。
手のひらの真ん中あたりを、中指に向かって縦に走る線が運命線。
薬指の付け根くらいから、手のひらのほうに向かって伸びている縦の線が金運線。別名、太陽線とも呼ばれてます。
因みに、財運線は小指の下に縦に刻まれています。得たお金を大切に使い、きちんと貯蓄ができるよう導いてくれる相です。
他に、覇王線という、手の平のほぼ真ん中あたりで、太陽線、財運線、運命線が交わって途中から1本の線になり、熊手のような形になっている手相を持つ人が極稀にですが在るそうで、もしあったら将来大きく成功するといわれています」
まさか、ここまで演るとは…。
若しかすると、手相占いの趣味が有るのかもしれないけれど、それにしてもよく調べたものだ。
高々、ネタひとつにここまでするとは、ガイドさんも大変だ…。
そんなガイドさんの、どうでもいい薀蓄話だったり、また、剽軽で愉快な話だったりと、飽きさせない軽快な話で時間を繋いでいくが、やはりそれだけでは限界がくるわけで……。
「風の囁きが教えてくれる」
「大地の鼓動が物語る」
「穢れた罪を光が暴く」
「悪を裁けと天が命じる」
現在は、ビデオで時間を繋いでいた。
やはり、リトルキッスと御堂玲に対する忖度というわけで、放送されているのは『学園騎士団』2本である。
う〜ん、こうして第三者目線で見るのは、何度であっても恥ずかしい。未だに慣れることがない。
……出来れば、二度と見たくはなかった……。
今回の手相については、勝手ながら、占い師の『紅たき』さんの解説をGoogleより抜粋させて頂いております。紅さん、申し訳ございません。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




