リトルキッスの活動戦略 -やはりアイドルは清純派-
4月も後半、いよいよGWが近づいて来る。
GWと言えば、去年はタレント発掘オーディションが行なわれ、天堂が芸能界デビューすることとなったわけだが、今年はそれは行なわれない。
どうにもあれは、ただ、天堂をデビューさせるためだけに行なわれた企画だったらしい。
いったい、どんだけだよ、天堂…。
じゃあ、今年は? ってことになるんだけど、新たに何かする必要はないってことになっている。
今は、去年デビューしたばかりの、リトルキッスと御堂玲に力を注ぐというわけだ。
でも、この三人、今年、高校受験を控えた中学三年なんだよなぁ。
特に美咲ちゃんの場合、そのことは非常に重要な問題だ。なんてったって、あの成績だし…。
そうなると、出来るだけ仕事量を減らし、その上で人気を維持、いや向上を求められるという、矛盾する難題を熟さなければならなくなる。
天堂の方は知らないけど、リトルキッスの方は、一応、方針は決まっている。
今年前半で、曲の収録やCM出演の依頼を熟し、それらでこの一年を繋ぐという戦略だ。
これなら、後半は時間が取れるし、その上で世間へのアピールも出来る。
だって、一度の収録で、後は延々とそれらが流れるだけでいいんだから。
そんなわけで、今、オレがするべきことは、曲の作り溜め。
学校で、昼の休憩時間を使って、曲制作に勤しんでいたのだった……が…、
「純くん、何してんの?」
そんなオレに声を掛ける奴が在た。
選りにも選って、美咲ちゃん。
なんてことを……。
傍には、由希や真彦も在るってのに…。
否、こんな所でこんな事してるオレも悪いんだけど。
これは、こいつらにもバレたかもしれないな…。
この際だし、こいつらの意見も聞いてみるか。
「ちょっと、早乙女純に頼まれてな。
リトルの曲に就いて、オレ達世代の意見を聞きたいんだとさ」
一応、保険として、依頼を受けたってことしておくか…。これで納得してくれれば儲け事だ。
「おおっ! つまり、オレ達が誰よりも先に、リトキスの曲を拝めるってわけか」
ハイテンションになる真彦。
いや、そんな反応されると、こっちも恥ずかしくなるんだけど。
但し、顔には出さない。…出てないよな?
「へぇ〜、こんなにあるんだ。
確か、これらを作った『JUN』さんって、仁さん達の曲も作ってるって言ってたわね。ふ〜ん」
おい、なんだ、その「ふ〜ん」はっ。
バレたのか? バレてんのか?
「同じジュンでも、純とは偉い違いだな」
皮肉を言う真彦だが、つまりは気づいてないってことか。由希とは違って鈍感な奴だ。
一方、何か言いたそうに疼々というか、難々といった感じの美咲ちゃん。
それを天堂が、視線で抑えるている。
本当、頼りになる奴だ。
頼むぞ、天堂。
「あれ? 夏の曲って、海がお約束だと思ったんだけど、無いんだな」
やっぱりか。
真彦の言うように、普通は夏と言えば海だよなぁ…。
「別に、必ずしもそうとは限らないだろ。
ここにあるように山だってありだ。
海に拘るのは、スケベな男共の、欲望塗れの意見に過ぎないと思うんだけどな」
敢えて断言する。
だって、リトルキッスにそんなイメージを着けたくないからな。
「そうよねえ。偶には、純も良いこと言うじゃない」
由希の意見に、美咲ちゃんも頷いている。
「いや、純、男のお前がそれを言うか?
なぁ、天堂。お前だってそう思うだろ」
「い、いや、それは……」
真彦、幾らなんでも、思春期の男子に、それは酷ってもんだろ。
…てか、天堂。お前もやはり男だったんだな…。
「ああ、嫌だ嫌だ。これだから男って…。
一層のこと、純みたいに去勢いじゃえばいいのに」
「去勢いでねえっ!」
人聞きの悪いこと言ってんじゃねえっての。
冗談にも程があるってんだ。
「ぶふっ…。ちょ、ちょっと、由希ちゃん、下品だよ…。ぷっ」
美咲ちゃんまで…。
「冗談はともかくとして、やはり意図が有ってのことなんだろうね」
さり気なく、話を元に戻す天堂。
ここは当然、それに乗るべき。渡りに舟だ。
「そりゃ、当然有るだろ。
海の快活な『開放感』ってのは、さっき言ったように、欲望を刺激する『卑猥』さにも通じて『下品』でもあるからな。
それに対して、山の清涼な『静寂感』ってのは『清純』なイメージだ。
こっちの『上品』さだって、十分に魅力的なはず。
少なくとも、オレはこっちの方が好みだな」
つまり、こういった理由だ。
あと、美咲ちゃんを、あんな連中の視線に晒したくないってのもあるし。
まさか、中学生相手に欲情しないとは思うけど、世の中には、少女嗜好といった特殊嗜好者も在るからなぁ…。
そして何より、一番の理由は、言うまでもない。
男のオレが、どうして、水着姿を晒せるのかって話だ。一発でバレバレじゃないか。
そんなこと出来るわけがないのだ。
「まあ、確かに純の言う通りよねぇ。
昔は清純派アイドルなんて言葉もあったみたいだし。
同じ女の子としては、下品なのより、こっちの方が好感を持てるわね」
なるほど。同じ女性の意見は貴重だ。
なんてたって、ファンは男共だけじゃないからな。
そこのところを解ってないと、とてもじゃないが、上なんて目指せないってものだ。
「確かにな。
開けっ広げ過ぎて、下品なのは、流石に退くってもんだよなぁ」
「ああ、それに純くんが言うように、やはり清純な女の子ってのには、惹かれるところが有るからね」
うん、同性の男に対しても好評だ。
因みに、真彦に続いた、後の台詞は天堂のもの。
最近では、美咲ちゃんに倣って、オレのことを純くんと呼んでいるのだ。
…男にそんな風に呼ばれても、気色悪いだけだけどな…。
聞き耳を立てていただろう、騒つく周囲の女子達を窺ってみたけど、天堂の台詞に否定的な子達はみられない。(当然かもしれないけど)
どちらかといえば、そうあろうと意識し始めた(?)のか、そういった様子さえ、見て取れる。
これなら、この路線でも行けそうだ。
聖さんにも相談してみることにしよう。
結果、聖さんもオレの意見を支持してくれた。
クラスメイト達からのリサーチが、説得力を発揮したらしく、織部さんからの否定的な意見も出てこなかった。
まぁ、夏の水着撮影の話を、どうやって躱そうかと、頭を悩ませていたところだったので、こうしてイメージ戦略に沿った活動方針という名分が出来るのは、渡りに舟だったのだろう。
こうして、リトルキッスの活動戦略が確定したのだった。
作中のアイドルのイメージに就いては、あくまで作者の価値観です。別に他の路線を否定するつもりはありません。
あと、山に清涼感が有るなんて言ってますが、最近、夏の最高気温が40℃近くと最早避暑地なんて言えない状況。なので、あくまでイメージとなっており、いささか残念です。と言っても、そんな所に住んでいるわけじゃないんですが。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




