才ある者の義務って…… -Unlimited Black Works-
四知という言葉がある。
『天知る地知る我知る子知る、何ぞ知るもの無しと謂うや』というやつだ。
これは『後漢書の楊震伝』の言葉で、解り易く言うと『天が知ってる。地も知っている。我も知ってる。あなた(子がこれに該当する)も知っている。これだけ知ってる者が在るというのに、何で他に知る者が無いと謂えるのか』となる。
要は『どんな事でも、善し悪し抜きに知れ渡る。増してや悪行ならばなお』といった意味だ。
天地はともかく、そこには自分と相手以外居ないわけで、殆ど屁理屈みたいなもんだ。
ただ、風の噂 (天地がこれに該当するのか?)という言葉もあるし、何より、これだけ迂闊というか、口の軽いというか、そんな人間の持ち掛ける話を、真に受ける奴が間抜けという話だろう。
もちろん、自分の口から漏れたりもするのだが…。
なんで、こんなことを言い出したかと言うと…、
バレた。
とは言っても『JUN』の方である。
流石に『早乙女純』の方だと、ここまで落ち着いていられない。
原因は、あの口の軽い女。
千鶴さんだ。
例によって、JUNへの曲の無心を早乙女純にしに来た時に、迂感り口を滑らせたのだ。
「えっ? なに? 知らなかったの?
純が知ってるんなら、咲だって知ってると思ってたのに」
全く悪怯れた様子が無えな。
もう当分、曲なんて作ってやらねえ。
まぁ、もともとその気なんてないんだけど、それでも偶にって気になることも、ないではなかったのに。
「そう言えば、純ちゃんは彼と親しかったんだよね」
「うん。でも純ちゃん、なんで今まで、教えてくれなかったの?」
天堂も美咲ちゃんも、どこか不審そうだ。
それとも不信なのか?
「そりゃ、決まってんだろ。
今の千鶴さんみたいなのに群がられたって、鬱陶しいだけだからな。
何より、まだ中学生だって、みんな忘れてるんじゃねえの?」
「まあ、確かにそうだね」
オレの言い分に、天堂が、納得だと頷いている。
そうだろ、そうだろ。それが普通だ。
「あら、そうとは限らないんじゃないかしら。
才ある者の義務って言葉もあるくらいだし、才能は世の役に立ってこそだと思うけど」
ス○イダーマンかよ。
千鶴さん、勘弁してくれよ、全く…。
「『責任なき力は、力ではない。責任なき力は、無責任にすぎない。(ピーター·ドラッカー)』ってか。
冗談じゃない。そもそも、なんの責任だっての。
自分の人生、自分で選んで何が悪いってぇの。
滅私貢献なんてクソ喰らえだ」
全く、非道い言い分だ。悪質なんてもんじゃない。
「じゃあ、私達のことも迷惑だったりするのかな?」
いや、美咲ちゃん、そんな心配そうな顔しなくたって大丈夫だって。
千鶴さんとは大違いだ。
「否、それは気にし過ぎだ。
あいつはあいつで、好きで行ってんだから」
なんたって、美咲ちゃんのためだ。
嫌なんてことあるわけがない。
「そうそう、余計な気づかいよ。
なんてったって、私達の仲だもの、嫌なんて言うわけないじゃない」
その通り。
但し、千鶴さん、あんたは駄目だ。
そもそも、何時そんな仲に成ったんだよっ。
「へ〜、そうなんだ。
こりゃ、早速、功さんに報告しなきゃ」
だから、千鶴さんに向かって、ニヤリと哂ってみせる。
「なんで、ここで、彼が出てくるのよっ」
そりゃ、当然、釘を刺すためだ。
「ぷっ、純ちゃん、あんまり調戯っちゃ悪いよ」
そんなことを言いながらも、美咲ちゃん達も笑っている。
だって、バレバレだもんなぁ。
「そんなことより、何時までも隠せないんだから、気にしたって、無意味なのよ」
平然を装いながら、話を逸らそうとする千鶴さん。
いや、ちょっと待て。
なんか聞き捨てならないこと言わなかったか?
「そもそも、お兄さん達、『デスペラード』? だったかしら。
彼らがプロデビューすることになった時点で、隠すのが難しくなってるのよ。
彼らの周りの人間なら、メンバーの弟の純くんと『JUN』の関係性を疑ったとしても、不思議じゃないでしょ」
なるべく考えないようにしていたけど、やはりその可能性はあるか…。
実際、千鶴さんは、そうやって男鹿純に辿り着いたわけだし……。
…………まあ、それはもう仕方がないか…。
どうせなら、前向きに考えよう。
将来、それで生きていくって手もあるわけだし。
オレの場合は、それが周りより早いだけ。
そう考えることにしょう。うん。
…でも、中学生でそれは、やっぱり辛倒いよなぁ……。
今回、作者にとって、やたらと嫌な名言が出てきました。
才ある者の義務。この手の言葉は少なくなく、
『もしあなたが、わざと自分の能力以下の存在であろうとするならば、私はあなたに警告する。 あなたは残りの人生、ずっと不幸せになるだろう』―アブラハムマズロー。
『責任とは、偉大さの代償である』―ウィンストン・チャーチル。
『大いなる力には、大いなる責任が伴う (With great power comes great responsibility.)』―ベン・パーカー「スパイダーマン」より。
これらって、作者にとっては許容不可。
最後の台詞なんて、当人が口にすれば、ただの自己陶酔。周りが口にすれば、滅私貢献の強要。全く、ろくなものに思えません。
『能ある鷹は爪を隠す』と、私的に臨機応変でと行きたいものです。
『伝家の宝刀』も、抜けば錆つくわけですから、使う場面は選びたい。だったら、まずは自分優先でしょう。嘗て、世界の守護者を自任する、我が同盟国の大統領だって「自国(○メリカ) 優先」なんて、世界に向けて堂々と言っていたわけだし。
やはり、自分の能力は、他人のためよりもまず、自分のために使ってこそ。その結果として、他人のためになることが理想だと思う次第です。
だから、その逆を他人に求めるなんて、他力本願の無責任。無能が無責任の免罪符になるわけじゃない。他人に何かを求める前に、まずは自分自身が努力をするべき。でなければ、神様ですら『天は自らを助ける者を助ける』なんて気にもならないのでは?
あと、話は少し変わるのですが、力に就いて気になる言葉が…。
『力なき正義は無能であり 正義なき力は圧制である。力なき正義は反抗を受け 正義なき力は弾劾を受ける。それゆえ正義を力を結合せねばならない』―パスカル
真理だと思うけど、それだけに恐い。
だって、大抵、『正義』って、価値観の押し付けを強行した勝者の言葉だから…。
なので、調子に乗って、こんな戯言を…
『神、正義』とは、口にした途端、邪まなものに墜ちるものである ―戯言士
…………、我ながら、痛い。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




