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世の男全てがこんなのばかりってわけじゃない……ですよね?

 年が明けて早半月。間が開き過ぎたと慌てての投稿です。なお、次話はまだできておりませんのですみませんが暫くお待ちください。


【お知らせ】

 実に勝手ながら事情により今回の話で打ち切りとさせていただくことと致しました。

 ここまで読んでくださった皆様方には期待を裏切る形となってしまったことをお詫びさせていただくとともに、長きに亘るご愛顧のほどを感謝させていただきます。

 申し訳ありませんでした。そしてありがとうございました。[2025/05/26]

 

 裁判第二回期日。その日の話し合いは決裂に終わった。


「ふざけてんのかってんだ、全く。寝言も大概にしやがれっ!」


 相手側からの和解条件に憤慨するオレ。

 というのも、四葉側の提示した条件ってのが──。


 四葉幸房は加藤香織の親族に和解金1000万円を支払う。

 四葉幸房は加藤香織の所属するプロダクションに和解金1億円を支払う。

 四葉幸房は加藤香織と婚姻を結び妻として迎え入れる。


 他にも条件はあったけど取り敢えずこんな感じだ。

 これ、絶対にふざけてるだろ?


 それでも香織ちゃんの親父さんはこれを受け容れようとしていた。忌々しそうではあったけど。

 裁判が長引けばそれだけ香織ちゃんが世間の目に曝されることになるわけだし、それを嫌って早期決着をと考えたのだろう。

 あとは香織ちゃんの今後の結婚を考えてか。キズモノの女性となるとやはり影響はあるんだろうし、現実を鑑みて泣く泣く妥協ってことなのだろう。


 でも、オレは納得できない。できるわけがない。これのどこに納得ができるというのか。

 そもそもだ、香織ちゃんを妻に迎える?

 一俔(いっけん) (※1)潔く責任を取っているようにみえるけど、当の香織ちゃんがいつそれを望んだ? 

 これが成り立つのは本人がそれを望んでいる場合だけであって、そうでなければそれは苦行の上塗りだ。香織ちゃんをこれ以上傷つけてどうするってんだよ。

 だいたいこれが認められるというのなら、世のストーカーどもは嬉々として既成事実を作りに(はし)るぞ。

 なんかの漫画であった「高嶺の花も泥に塗れりゃ二束三文。孕んでしまえばタダ同然(※2)なんてのは現実じゃあり得ないってんだ。


 とまあ、今のは香織ちゃん個人の立場に立ってみての反論だ。

 そして今度は香織ちゃんを与るするJプロダクションとしての反論。

 和解金1億円? ナメてんのか?

 香織ちゃんが年間に稼ぎ出す金額を解った上での発言かよ?

 香織ちゃんの元所属先大東プロによるとその年間売り上げは100億円に迫るというけど、こいつらそこのところは敢えて無視か?


 というわけでうちの弁護団に相談した結果、事務所からの請求額は200億円なったわけで。

 香織ちゃんの活動期間を大学4年間と考え年間売り上げを50億円で単純計算したうちの事務所の損失額なわけだけど、多分香織ちゃんなら年間約100億円は維持できていたんじゃないだろうか。なので400億円で請求するべきだとオレは思っている。


 ……うん、本当は解っている。相手がいかな四葉グループ三男といえど無茶な要求だということは。

 でも望む結果を得るために多少無理な吹っ掛けをするのは交渉の基本だろ? 況してそれに理論上の正当性があるのならなおさらだ。

 多分200億円は通らないだろう。普通、個人じゃ絶対に無理な金額だし。


 だが引くつもりはない。それを承知で押し通す。

 だってオレは事務所を背負ってるんだ、ここで引けば事務所が侮られることになり、今度他のタレント達が香織ちゃんと同じような被害に遭う可能性も上がってくる。

 美咲ちゃんが、レナ達が香織ちゃんと同じ目に遭う?

 冗談じゃないっ、そんなこと絶対に許せるものか!

 というわけだ。なので絶対に退くわけにはいかないのだ。


 幸いなことにうちには優秀で信用できる弁護団が就いてくれている。ならば彼らを信頼して任せておけば良いだろう。

 あの男、四葉幸房に可能な限りの破滅を齎してくれると信じて。


          ▼


 心無いやつというのは案外とどこにでもいるものだ。それはオレ達のような未熟な若者世代だけでなく、分別のあるはずの大人達でであっても例外ではなかった。


「全く、女なんてものはいつかは穴が()くもんなのに世間は大袈裟に騒ぎ過ぎなんだよな。

 だいたいそれで大金貰って当人は財閥に嫁げるってんだから良い話だろ? 何が不満だってんだか。

 俺が親ならよくやったって金持ちのボンボンを咥え込んだ娘を褒めてやるね」


 深夜のとある番組における男性コメディアンの香織ちゃんの事件を揶揄した台詞だ。


 ネタであり本気で言っているわけじゃないのかも知れない。だが、それでも言って良いことじゃないってことは解らないはずがないはずだ。こんな被害者を(あざけ)り笑い者にするようなやつが許されて良いわけがない。


 即時テレビ局に抗議の電話を架ける。続けてそのコメディアンの所属する事務所へも。

 時間は遅いけどそんなことなんて知るものか。


 全く、この業界はどうかしている。

 娯楽こそが正義で個人の尊厳はそのための消耗品? 他人の不幸は蜜の味?

 冗談じゃない。そんなことを言うやつはいったい何様のつもりだ。

 そういや「お客様は“神様”です」なんて言葉があったっけ。もしかするとそれが始まりだったのかも知れない。そんな風に持て囃された世間がきっと勘違いし、そんな考えが娯楽を提供する側とされる側の双方に根付いてしまったのが不幸の始まりだったのだろう。

 実際さっきの問い掛けをすれば「俺様♡」なんて(あざけ)て応えるやつがいそうだ。


 くそっ、世の中本当に病んでやがる。



 翌朝、例の放送をしていたテレビ局と問題のネタをやったコメディアンがその局の朝の番組で謝罪を述べていた。

 もちろんうちの事務所にも局とその事務所から謝罪があった。


 この業界に良心はまだ残っていたようだ。

 もしかするとオレの考え過ぎで世間が悪意を娯楽のひとつとして受け容れたわけじゃなかったのかも知れない。娯楽のために個人を弄ぶことを良しとしているわけじゃないのかも知れない。


 そうであってほしい。そうでなければこの世は闇だ。

※1『一俔(いっけん)』と表記していますが『一見』のことです。見るわけじゃないのに『一見』というのに違和感があったので『(うかが)う』を当て『一俔』としております。


※2 なんかの漫画でやってたと思うんですが、多分言い回しとかは違います。

 周囲から交際を反対されたカップルが説得の非常手段として持ち出す手法の定番の一つがこの『既成事実を作る』ではありますが、言い方を変えて客観的に見れば正に外道の行ないですよね。

 そんなわけで当事者同士の合意があってでさえ受け容れられ難いのが現実です。

 でも、それでもと理性を越えて執着してしまうのが愛というものなのかも知れませんね。


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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