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そう、時期が悪かったんです

 今回のデートのその後の話で純と高階のデートの話は終わりです。まあデートといって終始もろくなものではありませんでしたが。

 ともあれ一応切りがついたのですみませんが再び休みます。

 高階とのデートの影響は幸いにしてなさそうだった。噂は高校内部だけに収まってくれたようでネットにまで拡がってなさそうだし、実際のデートもオレの化粧のせいか黒瀬以外に気づかれた様子もない。

 どうやらオレの心配は杞憂に終わってくれたようだ。


「ふ~っ、取り敢えずこの分なら安心しても大丈夫か。すみません景山さん、余計なお手間を掛けさせて」


 パソコンの置かれたデスクへとばったりと凭れ掛かるオレ。そのまま椅子の上でぐったりと脱力し、燃え尽きたと真っ白になってみせれば洒落になるのかも知れないけど、そんなことを実行しようなんて思う気力もない。


「すみません。せめてもの気晴らしにでもと思ったのですが…」


「え? どういうことですか?」


 オレの謝罪に対し謝罪で返してくる景山さん。どういうことだ? 


「いえ、実はこの度の休養は私が言い出したことで。

 ですが却ってこんなことになってしまい、本当に申し訳ございません」


「え? 美咲ちゃんじゃなかったんですか?」


 あれ? 高階は美咲ちゃんに頼まれたって…。


「彼女には私が頼んだんです。といってもまさかそれがデートの斡旋だとは思いませんでしたけど」


 ははは…。まあそうだよな。

 さすがに景山さんはオレ達なんかと違ってその辺のことは解ってそうだし。多分美咲ちゃんには親しい友人何人かでオレを誘ってって感じで頼んでたんじゃないだろうか。


「でもそれなら、景山さんは悪くないじゃないですか。なんで景山さんが謝るんです?」


「いえ、ですが …」


 そう、景山さんは悪くない。なのになおも謝罪を続けようとする。


「今回の件、時期が悪かったのは確かですけど、でも誰もがオレのことを思っての行動だったんです。それを責めるだなんてオレにはできません。

 だから景山さんも謝らないでください。オレも謝るのをやめますんで」


 本当はオレが悪いんだからと言いたいところだけど、それではお互いが悪いと言って譲らない水掛け論になるだけ。ならば不本意だけど双方が謝罪を引っ込めることでこの話は終わらせるべきだろう。


「ですが、変装をしてたというのならあのままでもよかったんじゃないですか? せっかくのデートだったのでしょう?」


 終わりのつもりだったんだけど、確かに謝罪合戦は終わったんだけど、でも景山さんはまだ引き摺っているようだ。

 …まあ、デートだもんなあ。


「まあ、確かにそれはそうなんですけど…、でもなんていうか、香織ちゃんにしてもそうなんですけど、オレってまだそういうのってよく解らないんです」


「……えっ?」


 うっ…、やっぱりか。景山さんがフリーズしてしまった。


「可怪しいですか?

 でもそうなんです。

 一応思春期を迎えた男子なんでそういった興味がないわけじゃないけど、身近な女性相手にそういった欲求をぶつける気にはなれませんし、かといって見知らぬ相手とそういう関係になる気にもなれない。

 ……って、今のは性欲の話ですけど、これが恋愛面にも影響しているようで……。

 ほら、やっぱり恋愛ってなると……その……いずれはそういうことをってことになるわけでしょ?

 でも先ほど述べた理由で抵抗があって友人以上って気になれないんです。相手をひとりの人間として認めると、そんな対象として見ることが相手に対する侮辱に思えて失礼に感じる……いや、それ以上に自身の価値観を否定する矛盾に思えて、それでどうしても親しい相手ほどそういう気持ちにはなれないんです」


 自分でも解ってはいるんだけど、こういう倫理観が沁み着いているんだから仕方ない。多分もうこれはどうにもならないんじゃないだろうか。


「う~ん、なるほどね。それが純くんの恋愛観か…」


 ()()()…か…。どうやら景山さんは職場の人間同士ではなく人生の先輩として話を聞いてくれる気のようだ。


「その年齢に似合わない倫理観は……いや、感受性の強い年齢だからか…。

 ともかくその相手をひとりの人間として尊重するという考えは立派だと思うけど、でもそれは少しだけ間違っている。相手が女性だってことを忘れている」


「はっ⁈ どういうことですか、景山さん⁈

 オレは相手が女性だと思うからこそ──」


 わけが解らない。どこがどう間違っているというんだ。

 だが、オレのその反論は途中で遮られた。


「そう、そこが問題だ。

 君は相手が女性である前にひとりの人間であるという。

 でもそうじゃないんだ。ひとりの人間であると同時にひとりの女性でもあるんだ。

 君はそこをみていない。それこそが君の問題なんだ」


 ……は? なんだそれ?


「君は本気で彼女達のことを考えたことがあるのか? 彼女達の立場で考えたことがあるのか?」


 当たり前だ。だからこそ彼女達を大切に扱っているんじゃないか。誰からも傷つけられることがないように。


「君は女性の幸せがなにか知っているかい?

 それは愛する男性と共に一生を生きていくこと。愛する男性の子供を産んで育てること。そうやって明るい家庭を築くことこそが女性の幸せというものなんだ。

 といってもまあこれは女性に限ったことじゃないけどね」


「そんなことは言われなくたって解ってますよ。だからこそ友人としてそんな相手が彼女達に現れるまで守ってるんじゃないですか」


 景山さん、なにを解りきったことを言ってるんだ? そんなことは言われるまでもなく重々承知してるってのに。


「そう、そこが君の間違いだ。

 彼女達は言ってなかったかい。君にそれを望んでいると。

 君にひとりの女性として受け容れられることを望んでいると」


 い、いや、それはそうだけど……。


「でも、未来のことなんて誰にも解らないじゃないですか。将来彼女達が誰と結ばれるかも解らない。なのにおいそれと彼女達に手を出すなんてできません」


 そう、だからこそ友人として節度のある付き合いをしているのだ。未来に約束のできない以上そういう付き合いなんてできるわけがない。


「はあ……。そういうことか。君の覚悟の問題だったか。

 なるほど、君の言うことは間違ってない。それだけに彼女達が不憫だ。

 まあ、これもまた時期が悪かったということか……」


 ……なんだよ。なんでそんな失望の溜め息なんて…。


 はあ……。相談なんてするんじゃなかった…。

 今回は純の恋愛観についての話だったわけですが、堅いことを言ってても結局はヘタレだったというオチです。

 こんな主人公じゃこの作品、恋愛ものなんてジャンルは絶対に無理ですよね。(笑)


 ……ヤバい。なんか読者が離れていっている気が…。

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