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寿司食いねえ

 店の暖簾を潜りかけ、突然くるりと背を向けたオレ。

 高階が訝しそうにオレを見るけど、その理由について説明してもまた心配して気遣われるだけなので適当な理由で誤魔化すことにする。


「悪い。せっかく高階が誘ってくれたラーメン屋だけど、なんか急に別の物が食いたくなってさ。

 もしかして高階は昼はラーメンの気分だったか? だとすると本当に悪いことしたな。

 かといって今からあの店に引き返すのも体裁が悪いし、別のラーメン屋で我慢してくれないか?」


 多分あの時は適当に店を選んだだけで本当はラーメンに拘るつもりがないだろうと解っているけど、それでもやっぱり一応はな。


「え、いえ、あの時は偶々(たまたま)あの店が目に着いたからそこを選んだだけで、特に拘りとかがあったわけじゃないので先輩の好みで構いません」


 やっぱりそうか。

 高階が気にしていないと解って気は楽になったけど、別の物が食いたくなったなんて理由をつけたからには今度はオレが店を選らばないとな。

 さて、何が良いだろうか。(あま)り時間を掛けると不審がられるしさっさと決めてしまわないと。


          ▼


 オレが選んだのは寿司屋だった。といっても時価いくらなんていう高級品を出すブルジョア向けの店ではなく、安価な品がコンベアに載ってくるくると回ってくるプロレタリア向けの全国チェーン店だけど。

 オレも高階も学生なんだし選べる店なんてこんなもんだろ。それに文句があるやつはそういう高級店に連れて行ってみやがれっていうんだ……ってか誰か奢りで連れて行ってください。


 冗談はともかく、これでも一応寿司屋は寿司屋だ、それなりに格好はついたはず……だよな。

 一皿の値段がだいたい税込150円(黄色)~290円(黒色)、中には値段の固定されていない皿(白色)もあるけどこれも高くて370円と基本的に安価だ(※1)

 オレ達庶民の客にとってはリーズナブルではあるけれど果たして店側にとっても同じことがいえるのか、ちゃんと採算が取れるのかなんて(たま)に考えるけど、そこはオレなんかが余計な心配するまでもなく企業努力でクリアしているのだろう。

 まあそれは置いておくとして、一人当たりの食べる量はだいたい男性で10~14皿、女性で5~9皿と聞く。大柄な高階だと男性並みに10~14皿ってことも考えられるけど、それでも高く見積もって5000円あれば十分にお釣りがくるってものだ。因みに一般的には食べるだけだと2000~3000円ってところらしい。


 高階の頼んだ品を見れば、いか、甘えび、厳選めばち鮪、いかと昆布の磯和え軍艦、サイドメニューの店内仕込の海鮮ポテサラ(ガリ入)の5品。サイドメニューのサラダを除けば全て150円の黄皿で、サラダにしても160円とどれも安い物ばかり。オレが奢るって言ったというのに合計金額760円って…。


「いえ、別に遠慮っていうわけじゃなくて、普通に好きな物を頼んだだけですから。

 だいたい先輩って女の子がどれだけ食べると思ってるんですか」


 遠慮は無用と気遣ったところ逆に責められてしまった。

 なるほど確かに安価ではあるけど選んだ品は悪くはない。品数が気にはなるけどオレじゃ女の子の食事量なんて解らないし、本人である高階が十分というのなら本当にそうなのかも知れない。遠慮ならこんな風にオレを責める必要なんてないしな。


「悪かったよ。通常女性でも5~9皿は食べるって聞いていたから高階もそれくらいは食べるだろうと思って遠慮してると思ったんだよ」


 本当は男性並みに食べると思っていたことは黙っていた方が良いだろうな。今のでこれだけ拗ねているんだからバレたら本当に怒りそうだ。


「でも、サイドメニューにあったラーメン、本当に頼まなくてよかったのか?」


「先輩っ!」


 あ、やっぱり怒った。

 高階も冗談だって解ってるみたいだから反応もそれに応じたものだけど、本気で言っていたらやっぱり高階も本気で返してきただろう。


 しかしオレの分も合わせて2000円と少しって、本当にこの手の寿司屋って安いよな。

※1 これらの値段はとある都市部の回転寿司店の2023年6月の価格だそうです。税込で黄色150円、赤色210円、黒色290円、そして価格の固定されていない白色とのことですが (地方部の店ではさらに20~30円安いそうです)、その手軽な価格はやはり庶民にはありがたい話です。

 ところで最近の回転寿司はタッチパネルでの注文式で回転レーンで流れてくる形式ではないって知ってました?


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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