攻勢防御はやはりロック限定のイメージだよなぁ…
由希に諭され嗾けられたように曲を作り捲ったオレ。但しその殆どが怒りをぶつけたようなハードロックか、嘆きを吐き出したかのようなロック風バラードで、結局は全てがSCHWARZの新曲ということになった。
いや、だってこんな殺伐とした曲をリトルやフェアリー、瑠花さん達といったアイドルに歌わせるわけにはいかないだろ?
BRAINにしてもそうだ。こいつらも知性派を売りにしてるってのに、いきなりこんな凶悪路線なんてあり得ない。
親会社である星プロでいいんならデスペラードとかでもいいんだけど、それくらいなら当然SCHWARZで使おうってなるわけで。
「いや、だからってこの数はないだろ? こんだけ曲があれば多分アルバムが一枚できるぞ」
SCHWARZメンバー達を集め、そう告げたところ早速河合から突っ込みが入った。
「へぇ~、察しがいいじゃねぇか。
そのとおり、これからアルバムを作るん
だよ。
歌詞を見れば解るだろうけど、これは香織ちゃんの件があってできた怨み辛みを綴った曲、いわば裁判を戦うのための曲だ。ならば裁判に間に合うように完成させる必要があるだろ」
そう、これは香織ちゃんの裁判を勝つための曲。これらの曲で香織ちゃんとオレ達の無念と憤り、その他全ての感情を世間に訴えかけて、世論を味方にやつと対決をしようってわけだ。
周りにはいつものように負担は掛けるけどそれでも退くわけにはいかない。悪いけどここは敢えて強行する場面なんだ。
「ま、しょうがねえよな。ひとりの女の純情と尊厳を踏み躙ったくそ野郎に鉄槌を下すんだ。当然最後まで追い詰めるつもりなんだよな?」
最初に理解を示したのは木田だった。
でもなんで? こう言っちゃなんだけどこいつと香織ちゃんの接点なんて精々がオレくらいのものだろ?
「知らねえのか? 女の敵は世界の敵なんだよ」
はあ? なんだそれは? 天堂でもそんなこと言わねえぞ。
「ああ、木田のやつ、最近彼女ができたらしくって、その子が香織ちゃんのファンだったんだよ」
「いいだろ別に。
ただ自分の女が同じ被害に遭ったらと思うと他人事に思えなかったってだけだよ」
瓶子の説明にツンとした感じで応える木田。でも案外素直に認めたな。
「うわ、ひとり暮らしを始めた途端彼女持ちって。
乱れてるなあ~」
一方、虎谷のこのツッコミはどうなんだよ。お前の脳内はそんなことでいっぱいか?
これだから思春期の男子ってやつは…。
まあ、変に拗らせて今回の四葉幸房みたいなやつになるよりは遥かにマシだけど。
「冗談はともかく、これからのSCHWARZの戦略といった点を考えればこれは十分にアリでしょう。
香織ちゃんの不幸を利用するのは気が引けますけど、でもそれがJUNさん達のSCHWARZの役に立つというのなら彼女も本望でしょうからね」
ここで結論を纏めるべく会話に入ってきたマネージャーの景山さん。
その非情な意見も然ることながら……っていうか、その言い方ってなんか香織ちゃんが死んだみたいじゃないか。
「そして私個人的な話をするなら──。
恋愛という女の子としての夢を追いかけながらもこの業界でアイドルという夢をも追いかける。香織ちゃんはそんな険しい道を突き進みながらも、遂には業界トップクラスに駆け上がり、恋慕うJUNさんの下へと移籍を果たした。
だというのに、公私共に成功を収め、いよいよどちらもこれからが大詰めの本番というところだったのに…。
それをあんな横槍で全てを台無しにされたのです。これを誰が憤らずにいられますか。
当然彼には相応の報いを受けてもらうべきで、彼女の庇護者でありながらもそれを許してしまった我々は、せめて彼女のためにもその讐を討つべきでしょう」
あ……。冷徹な意見を述べたかと思ったら本音の方はこれだったか。
そうだよな。この人ってこういう人の想いにはとことん感情移入する人だった。やっぱり熱いわ、景山さん。
「そうですよねっ!
あんなに一途で健気な香織から、その純情を嘲笑うように純潔を奪い、結果彼女の積み上げてきた全てを台無しにした、そんな男を許せるわけがありませんよねっ!」
はは…。熱い人間はここにもいたか。
まあ藤森さんの場合、香織ちゃん限定かも知れないけど。
香織ちゃん、本当に愛されてるんだなぁ。
共感を示す藤森さんに気を好くし、景山さんがさらに続ける。
「ええ、そのとおりです。
そして今、話に出てるのはSCHWARZですが、他のタレント達においても可能であればこの路線を活動方針としていくべきでしょう。
これはもう香織ちゃんひとりの問題ではなく、うちの事務所の沽券に関わる問題です。
舐められたままじゃうちのタレント達を守ることなんてできませんからね。
ですから、このような不埒な行為をする者は何人であろうと許さない、そういう態度を世間に知らしめることが必要なのです。
そういうわけですから、今後のためにも彼は見せしめとして徹底的に叩くべきなのです」
うおっ⁈ 黒いっ!
ちょっと恐いぞ、景山さん。
オレも過激だなんだと散々言われてきたけれど、客観的な立場で見ると確かにこれは恐ろしい。
でもこの意見にはオレも賛成だ。元々オレもそういう持論の人間だし。
やっぱり人間の在り方ってのは、普段は温厚、だけど怒らせるとヤバいっていうくらいが多分丁度良いんだろうな。
さすがに触らぬ神に祟りなしって避けられるのは困るけど、それでも障らぬ神に祟りなしって侮られるよりはマシってもの。
恐れられるのでなく畏れられる、そういう人間でありたいものだ。
とはいえだ──。
「さすがにそれはやり過ぎですって、景山さん。それじゃうちのタレントのイメージぶち壊しです。
特にアイドルなんてそうでしょ?
今日癒しが求められる中、凶悪イメージをつけてどうするんですか。
というわけで、そういうのはロックバンドのSCHWARZだけで十分です。
ロックならそういうのをやったところで怪訝しい話じゃないですしね」
暴走気味な景山さんに制止を掛ける。
いくらなんでもそれは行き過ぎというものだ。
ともかく、黒い話はオレ達SCHWARZで受け持つということで本来の流れだったアルバムの話に戻した。
先ほどまでの話で解るだろうけど、当然反対意見なんてものは出なかったため話はスムーズに進行。スケジュールが決まってところで今日はお開き。
暴走するであろうと思ってたオレが逆にブレーキ役になるなんていう予想外なことで少し精神的に疲れたけど、それでもこれで一歩前進。
見ててくれよ香織ちゃん。陰からだって構わないから。
そして待っていろ四葉幸房。オレ達の曲で必ず目に物を見せてやる。




