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JIHAD

 随分と大層なサブタイトルですが、実はJIHADは聖戦ではなく努力というのが本当の意味。宗教と戦争が絡んだため聖戦というイメージの方が広く知れ渡るようになっただけのようです。

 ということで今回のサブタイトルは己にできる努力です。もちろん最後には戦いが待っていますが。

 なお、今回の作中にこのワードは出てきません。

 香織ちゃんの名に懸けて。

 由希からの辛辣な激励を受け、立ち上がったオレ。

 解決法はオレが一番よく知っている?

 そんなことを言われてもオレにできることなんて精々が曲を作ることくらい。

 でもそれで今まで何度か困難を乗りきってるんだ、今回だってこれでやってみせる。

 まあ実際の裁判は弁護士頼りなんだけど、それでもオレの作る曲がきっとなんらかの効果を齎すはず。そう信じてとにかくやってやる。

 というわけで、今回初めての自主休講(サボり)。代返は誰か適当なやつに頼むとして……取り敢えず伊丹辺りでいいか。


          ▼


 ノートパソコンを取り出し早速作業開始。

 曲の内容?

 そんなの決まっている。今回の件においてオレの怒りは疾っくに沸点を超えているんだ。いくらでも歌詞は湧いてくる。

 それじゃあ早速始めるか。



 光を失なったこの闇の世界

 悲しみと絶望が心で渦を巻く

 幸せの過去が身を蝕まさせる

 笑顔さえ奪って涙で濡らさせる

 お前を狂わせた歪な影が笑う

 全ては戯れと(あざけ)笑う

 この広い世界 天地に神々はどこにもいないのか

 Wrath of God 神の裁きよ

 Wrath of God やつに降れ

 我が心 闇に囚われる前に

 Wrath of God 神の怒りよ

 Wrath of God やつに降れ

 我が心 闇に染まりきる前に



 う~ん、ちょっとストレートだけど心情的には正にこんな感じだよな。実際許されるならあいつを直にぶち(のめ)してやりたいところだし。

 ああ、本気で黒い衝動が湧き上がってくる。

 本当、なんで神様はこんなやつを野放しにしてるんだろうな。


 あ、ヤバい。今度は神様に対してまで怒りが湧いてきた。

 取り敢えずこの曲『Wrath of God』はこれでいいとして、次は『Curse of God』で作ってみるか。今回の香織ちゃんの受難を許した神様には文句を言いたいところだし。もしもこれが運命だっていうのなら間違いなく神様の呪いみたいなもんだしな。


 帰宅後もまたこんな感じで、とにかく湧き上がる感情に委せて次々と曲を書き上げていった。

『Raging Storm』『Pyromancer』『Avenger』『Duel』といった怒りや復讐心を主題に据えた曲、『Lost Paradise』『守れなかった約束』『君のためのレクイエム』といった嘆きの曲。

 久々に曲作りに没頭し、気づけば朝を迎えていた。


          ▼


「ちょっと純くん、酷い顔してるけど大丈夫っ⁈」


 駅で出会った美咲ちゃんの第一声がこれだった。


「ああ、昨晩から曲作りをしてて寝てないから多分そのせいかもな。

 まあ所詮は一晩程度だし、このくらいどうってことねえよ」


 言われてみれば朝の身嗜みで鏡を見たとき目下に隈ができてたような気がする。でもだからって美咲ちゃんが心配する程のことじゃない。


「それならいいけど、でも無理しちゃダメだよ。みんな心配してるんだから」


 みんな…か…。

 そういや最近まともに顔を見たことがなかったな。

 この度の件でオレも随分と凹んだし、周囲を気に掛ける余裕を失なっていたようだ。

 でも一番傷ついているのは香織ちゃんだ。オレなんかのことよりもそっちの方を気遣ってやってほしい。


「うん。それはそうなんだけど…。

 なんていうか、そっちの方はちょっとデリケート過ぎて私じゃ声を掛けづらくって…」


 オレのことよりも香織ちゃんをと頼んでみればこんな返答が返ってきた。


 まあ、そうだよな。

 いくら周りが心配をしていても、香織ちゃんからみれば他人事だからなんとでもいえるんだってことになるよな。特にそれが同じ女の子からの憐れみとなれば却って屈辱的に思うだろうし。

 痛みってのは結局は本人だけのものだもんな。


「一応瑠花(るか)さんとか、香織ちゃんと仲の良い友人とかでフォローをしてくれてるみたいだけど、今はそれだけが頼りなんだよね。

 友達なのになにもできないって本当に牴牾(もどか)しい (※1)よね」


 なるほど、香織ちゃんと距離感の近い同性ならば慰めの言葉も多少は効果があるかも知れない。特に瑠花さんは香織ちゃんにとって姉のような存在なわけだし、そこに期待したいところだ。


「まあな。

 でも美咲ちゃんだってきっと無力なんかじゃないはずだ。

 実はオレも美咲ちゃんと同じでずっと(ふさ)ぎ込んでいたんだけど、由希のやつに言われてな。それで取り敢えずはできることをと曲作りを始めたんだ。オレにはそれくらいしかできないし。

 てか美咲ちゃんが由希をオレに(けしか)けたんだろ。それでオレがこうして動いてるんだから美咲ちゃんだって十分役に立ってるよ」


 美咲ちゃんが由希の手を借りて鬱ぎ込んでいたオレを諭し、そしてそんなオレが落ち込んでいる美咲ちゃんを諭す。

 ひとりじゃなにもできなくたって、お互いに力を合わせて支え合えばきっと無力じゃないはずだ。


「ということで、まずはオレ達が今までの生活を取り戻すことだ。じゃないと香織ちゃんが悲しむからな。

 そしてその上でやつをぶち(のめ)す。

 もう二度と香織ちゃんを泣かせないために。

 香織ちゃんの尊厳を取り戻すんだっ!」

※1『牴牾(もどか)しい』は『牴牾(ていご)』という言葉を使った当て字です。他にも『(もど)かしい』とも書かれますが『牴牾しい』が一般的とのこと。

 個人的には『(もど)き』の方でいい気がするんですけどね。それっぽいけどなんか違うって感じで。


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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