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犯人判明

 香織ちゃんの無期限活動休止の発表は世間を騒然とさせた。

 当然だろう。この春できたばかりのJプロダクションに香織ちゃんが踊躍歓喜(ゆやくかんぎ)で移籍してきたのは有名な話で、そんな香織ちゃんがこんな発表をしたわけだからそりゃあ訝しく思わないわけがない。そしてマスコミの耳はやはり敏く、その原因についてもいくらか勘づいているようだ。

 で、そうなると遠回しな質問でその真相を探ろうとしてくるわけだが、中にはそんな遠慮もなくダイレクトにそのことに触れてくる者達もいるわけで。

 以前なら未成年だからという言い訳も立ったのだけど、今年高校を卒業し大学生となった香織ちゃんにそれはもう当て嵌まらない。成人年齢が20歳から18歳になった弊害というわけだ。全く、彼らも女性がそういう被害を受けたと察しているのなら配慮があって然るべきだろうに。

 当然だけどその問い合わせに対してうちの事務所はノーコメント。傷ついた香織ちゃんを面白半分の見世物なんかにできるものか。

 とはいえ彼らマスコミを放置して変な騒ぎにになるのは好ましくない。ならばある程度は妥協し、彼らの協力を得てその辺のコントロールを考えるべきだろう。それに彼らからいろいろと情報を得られる可能性だってあるしな。なんてったって彼らはその道のプロだし。

 もちろんオレ達だってなにもしないわけじゃない。表立ってとはいかないが事務所側でも密かに情報を集めているし、裁判の準備だってしている。

 件のホテルにも問い合わせた。それにより香織ちゃんと一緒だった男がが何者が判明した。


 四葉幸房。それがその男の名前だ。

 その日香織ちゃんが収録に参加していたバラエティー番組のスポンサー企業のひとつ、四葉グループの三男らしい。おそらくは番組の関係者なのだろう。

 この男、一部では女遊びが激しいことで知られており、今までにも仕事で知り合った女性タレント何人かに手を出したことがあるという。その割にはそういう話を聞かないところをみるにその辺は巧くやっているということか…。

 香織ちゃんはそのときの記憶が曖昧だと言っていたから、おそらくは気づかぬうちに酒でも飲まされ酔い潰されたか、もしくは何かの違法な薬(ドラッグ)を盛られたかだろう。

 ただ、あくまでもこれはオレの臆測に過ぎない。

 香織ちゃんの言じゃ今は不本意でもそのときは受け容れてしまったというから、双方の合意だったと言われれば否定しきれない。これを覆す確たる何かが見つからなければ裁判に掛けてもこちらの望む結果を得るのは難しいだろう。


「しかしそんな噂のある男なら香織ちゃんも警戒していただろうに、どうやってこいつは香織ちゃんと接触しホテルに連れ込んだんだろうな……」


 今日は事務所会議室にてこの件について協議中。といっても今はまだ情報の整理しているのに過ぎないのだが。そして疑問点も相変わらず。

 香織ちゃんの性格からしてそういう輩に安易に気を許すとは思えない。仮令(たとえ)相手が何者だろうとそういうのはきっぱりと断わるだろうし、そいつからはさっさと離れていくはずだ。


「それなのですが、実は彼には協力者がいたことが判りました。

 よりにもよって相良芳江。大東プロで香織の先輩だったアイドルです」


 は? なに? どういうこと?

 香織ちゃんのマネージャーの藤森さんからの報告に耳を疑う。


「藤森さん、それって確かなの?」


「ええ。本人の口からそう聞きました。

 動機は香織への嫉妬。

 一般的に恋愛を禁止されることの多いアイドルでありながら熱愛宣言を認められ同性からの支持を得て人気を博したこと。ただでさえ辟易とするような惚気話を事ある度に聞かされて内心苛立ちを抱えていたようです。

 しかも相手が業界で注目を集めている若き音楽プロデューサーのJUNで、そのJUNが所長を務める新設事務所Jプロダクションに早々に移籍を決めたことも気にいらなかったとのこと。

 そんな中、四葉幸房の噂を耳にし、芳江の方から協力を持ち掛けたそうです。

 ただ、まさか香織がそれで自殺を図るとまでは思っておらず、それで恐ろしくなって打ち明けて来たというわけです」


 悔しそうに、そして申し訳けなさそうに告げる藤森さん。そういやこの人も香織ちゃんに伴い移籍してきた人なので元所属先の人間のやらかしに責任を感じているのだろう。

 でも藤森さんが悪いわけじゃなく、それを責めようつもりはない。悪いのはその相良芳江って子だ。そりゃあ気持ちは解らないでもないけれど、だからといってこういうのはダメだ。

 そして一番悪いのは四葉幸房。そういうのはそういうことをよしとする相手を選んでからにすればいいのに、よりにもよって選んだのは恋愛に身を焦がす女性の香織ちゃん。他人の物ほど欲しくなるって心理かも知れないが、だからといってそれは許されない。


「で、その相良芳江でしたっけ? その子はオレ達に協力してくれそうなんですか?」


 正直その子に思うところは多いけど、しかし今はなんとしても味方に就ける必要がある。もちろんその子には反省を促すし、それなりの罰は受けてもらうつもりだけど今は我慢すべきところだろう。


「ええ、一応は反省の態度を見せているのでこちらもそれなりの配慮をするということで協力の約束を取り付けました」


 そう語る藤森さんだけどやはり香織ちゃんと間近に接していた分思い入れが深いのだろう。その口調には多分の毒が感じられ、その忌々しさが察せられる。


 そうだよなぁ。香織ちゃんってちょっとアレだけど基本的には良い子だし。そんな子をマネージャーとして任されていたんだ、さぞかし可愛がっていたものと思われる。

 なのにそんな子の一途で健気な恋がこんな形で踏み(にじ)られた。 それも元同じ事務所の仲間がそれに加担 (※1)したっていうんだからなおさら腹も立つってものだろう。

 そしてこの度の取引の持ち掛け。この強かさに余計腸が煮え繰り返る。


 あ、駄目だ。オレまでが…。

 落ち着けオレ。

※1 一般的に『加担』と表記されるこの言葉は『荷担』とも書かれその意味合いは『物事に協力すること』と、ほぼ同じです。

 強いて違いを挙げるなら『荷担』は『荷を担う』ことで『加担』はそれに『加わる』こと。積極性の違いだそうです。[Google 参考]

 ということでここでは『加担』の方を採用しております。


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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