悪夢
お待たせしました。少しではありますがストックができたので投稿します。
でも、記念すべき400話目がこれって…。
短いため今日はもう一話投稿します。
誰かがオレに話し掛けてくる。
誰だろう。その顔はぼんやりと霞でも掛かっているかのようではっきりとしない。
いや、その霞み具合は次第に晴れていき徐々に輪郭が露となってきた。
その顔をよく窺えばどこかで見覚えのある人物。
あぁ、藤屋さんだ。懐かしいなぁ。
でもこの人って去年コロナで死んだはず…。
つまりこれは夢ってことか。それでもこうしてまた逢えたのは嬉しい。この人にはなにかと世話になったからなぁ。といっても早乙女純としてなんだけど。
……って、あれ? ならなんでオレは早乙女純の格好でなくオレ本来の姿なんだ?
まあいっか、どうせこれは夢なんだし。
しかし、なんの理由で現れたんだろう?
見ればなにか必死に訴えているようだし、つまりなにか伝えたい大事なことがあるってことか。
でも、残念なことにその声はなぜか聴こえない。これだけ鬼気迫った表情で必死に伝えようとしているというのに。
その隣には申し訳なさそうに佇むひとりの女性。
顔はなぜか暈けてはっきりとしないが、泣いているということだけは解る。
誰なんだろう。オレのよく知る人物なのはなんとなくで判るのだが。
多分藤屋さんが訴えているのは彼女に関する大事なこと。
でもなんなんだろう? 全く心当たりがない。
だがしかし──。
激しい電子音が鳴る。
オレの意識はこの世界から離れ、そして目の前に現実の世界が訪れた。
▽
早朝突如の緊急連絡。
駆け出したい気持ちを抑え、人足の無き廊下を急ぎ足で進む。
なんだ⁈ いったいなにが起きた⁈
香織ちゃんが都内病院へと緊急搬送?
混乱するオレの前に突如影が飛び出してきた。そしてその右拳がオレを吹き飛ばし、壁へと強かに叩き付けた。
脳震盪を起こしそうな頭を持ち上げ、痛む頬を押さえながら立ち上がる。
いや、そんなことなどどうでもいい。それよりも確めなければならないことがある。
目の前には怨めしそうにオレを睨み付ける伊織。そしてその傍に佇むのはおそらくはその両親だろう。
「……いったい……いったい、なにが起こったんですかっ!?」
「ざけんなっ! 全てはお前のせいだろうがっ!」
再び伊織の拳がオレの鳩尾を捉えた。
腹這うオレの頭を掴む伊織を男性が背後から取り押さえる。
「お前のせいで……、お前のせいで姉ちゃんがぁ……」
涙声と伴に崩れ落ちる伊織。
オレへと注がれる複雑そうな一堂の視線。
……こんなの……絶対になにかの間違いだ。
香織ちゃんが……ホテルで自殺を図っただなんて──。




