トリは誰だ?
ライブ当日の日曜日。
今日はいつもと違い日中のライブ。
会場は11時30分、開演は12時、閉演は15時50分の予定となっている。
これまで18時~22時のライブしかしたことがなかったせいだろう、河合達メンバーはどこか違和感を感じているようだ。
まあ、オレの場合はリトルキッスをやっていた時が基本日中だったのでそこまで違和感を感じることはない。……って、当時は義務教育を受ける未成年女性という扱いだったわけだしそれと一緒にするのも変な話か。
で、オレ達の出番はというと──。
「なんで俺達が四番目なんだよ? これでも俺達はプロだぞ」
そう、オレ達の順番は四番目。河合が不満を零すのも無理はない。
「まあそこは仕方ないだろ。なんてったって無理を言って参加させてもらってるんだから」
というわけで、本来この四番目をやる予定だった人達に頼み込んで代わってもらったのだから贅沢なんて言える立場ではないのだ。
因みにその相手とはオレのよく知る社会人バンドOBKの三人。「連休前の仕事の調整がキツかったから丁度好かった」なんて笑って言ってくれてたけど、それだけにその努力を無駄にさせてしまったことが申し訳ない。一応それなりの誠意を尽くした説得で譲り受けたのではあるが、それでもやはり負い目というものは残るのだ。
さて、そんな今日のライブの対バン相手達だけど、見知った顔がいくつか。
まずはトップバッターの『NATURE』。
以前一度共演しただけだっていうのにオレ達のことを覚えていてくれたようで、随分と丁寧な態度で接してくれたのだった。なんともできた女子高生達だ。
「はあ~、前観た時も思ったけど、あの子達、相変わらずレベルが高いよなぁ。そういう意味じゃ、ここ『DRAGON KINGDOM』のレベルの高さってのがよく解るぜ」
出番を終えた彼女達を見て、木田が感嘆の声を洩らす。
まあそうだろうな。彼女達の『God knows…』、以前よりレベルが上がってたし。同じギタリストとしてはそんな難易曲に挑むギター担当の子に思うところがあるのだろう。
「へえ、随分と殊勝なことを言うじゃねえか。まさかアイドル気触れからそういう言葉が出るとは思わなかったぜ」
掛けられた言葉に振り向いてみれば──。
「なんだ、お前らも出てたのか」
誰かと思えばマスタードボムの……えっと誰だっけ?
「ギター担当の八房だよっ!
全く、名前くらい覚えとけよ」
あ、そうなんだ。
正直、メンバーのひとりって程度の認識で、他のことなんてまるっきり気にしたことなかったから知らなかった。
「いや、それよりもその格好。お前、本当に男鹿だったんだな」
辛島がオレを見て沁々と言う。
「ああ全くだ。こいつ、絶対に外見詐欺だろ」
「しかもこれであの声ってんだもんな。
本当、こうして直で目にしても知らなきゃ絶対に解らないよな」
「まさかそういう趣味じゃねえだろうな?」
八房に他のふたりも……こいつらもやっぱり知らないんけれど、これならオレもそのことにさほど罪悪感を持つ義理も無いな。てか最後のやつ、殴ってやろうか。
「痛っ⁈」
……って殴ってた。
「黒瀬と一緒にすんじゃねえよっ!」
まあ良い。どうせ否定する序でだ、構わない。
「しかしそうか、お前らが今日のトリなんだな。
でもそうなると、その前は誰がするんだ?」
さらりと流すように瓶子が言う。
確かにそれはオレも気になる。
まさかあいつらじゃないだろうな?
「ああん? お前らタイムテーブル確認してないのかよっ⁈」
辛島が忌々しそうに喰って掛かってくる。どういうことだ?
「ああっ、くそっ!
なんでプロの俺達を差し置いてあいつらなんだよっ⁈ そんなの絶対に可怪しいだろっ!」
メンバーのひとりが毒突く。
…って、え? なに?
これって本気でもしかして…。
「落ち着けよ増田。納得いかないのは俺も同じだけど、決まっちまってるんだから仕方ないだろ」
窘める辛島だけど、一緒に不満を口にしてたんじゃ意味ない。
「俺らを前座扱いしてくれんだ、その分しっかりと恥を掻かせてやろうぜっ」
うん、不服を言うよりも行動で示す。こいつの言い分が正しい。
「ああっ、宍戸の言うとおりだっ。
『RIDE』のやつらに目に物を見せてやろうぜっ!」
うげ…。まさかとは思ったけど、マジであいつらなのかよ…。
でも、まあそうだろうな。そうでなきゃあとは二番手と三番手しか残ってないわけだし、あれだけデカいこと言ってたやつらがこんな前半に出るとは思えない以上他に考えようがない。そう思いタイムテーブルを確認すれば確かにそのようになっている。
「……うわぁ…。マジだ。本当にそうなってる。
ここのオーナーってそういう考えなんだ…」
新人といえどプロが出るとなったらそっちをトリに回しそうなものなのに、敢えてそっちを前座扱いとは。つまりあいつらはそこまで安定した実力が有るってことなのかよ。あり得ねえ…。
……て、あれ?
「あ、いつの間にかステージが終わってる…」
しまった。こいつらに拘わってる間に二番手のやつらのステージを観損ねた。




