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必須事項とその対策

 今さらですがこの作品に出てくる固有名詞は極一部を除いて実在のそれらとは一切無関係です。ありがちな名前を安易につけているため被ってしまう可能性がありますが当方としては全く悪意等はありませんので御容赦のほどお願い致します。

 ライブハウス『DRAGON KINGDOM』。最大収容人数600人というライブハウスの中ではそこそこの規模を誇るハコだ。オレ達が高校時代にお世話になっていた『WYVERN(ワイバーン)』の三倍だな。

 なんでも聞いた話によると『WYVERN』のオーナーとここのオーナーは昔『RED DRAGON』とかいうバンドを組んでプロで活動していたことがあったんだとか。で、引退後そのメンバーのうちのふたりが開いたのがこれらのライブハウス。なるほど名称は当時のバンド名に因んだものか。

 そんな彼らの親交は今でも続いており、以前オレ達SCHWARZが『DRAGON KINGDOM』から出演依頼を受けたのもその縁からだったりする。

 なんでこんな話をしているかといえば、まあ、あれだ。例の月末のライブにコネでSCHWARZを捻込ませてもらったってわけだ。その代償として年内に一度、それぞれでワンマンライブをすることになったのだが、これって得をしたのは果たしてどちらだったのか…。


「全く、随分と大人げないことをしたものだね。まあ気持ちは解らないでもないけれど」


 ううぅ……。景山さんの視線が痛い。


「まあでも一応ワンマンの仕事が二件取れたわけですし……って、すみません……」


 熱血な上に真面目。融通が利かないってわけじゃないけど……この人、案外とやり難い。


「それよりも、学業への影響は大丈夫なんですか?

 特に所長の場合、他のユニットのプロデューサーとしての仕事だってあるんですから、そういう余計な仕事を入れると負担になるだけなんですから、気をつけてくださいね」


「ちょっと、その所長ってのはやめてもらえませんか景山さん。できれば普通でお願いします。

 それと学業と他の仕事については、まあ大丈夫だと思いますよ。プライベートの時間が多少削れますけどそれだけです」


 オレについては物事にある程度余裕を設けてスケジュールを組んでいるし、今のところ授業にも余裕でついていけてるので全く以て問題ない。なのであとは河合達だ。


「まあ確かにな。今んところ仕事は余裕を持って組んでるし少し増えたくらい問題ねえよな。授業に置いていかれるとかもないし。

 基本授業を削るようなスケジュールを組んでないんだから、そっちの方でも余裕はある。真面目にさえ出てりゃ、最悪多少削っても大丈夫だろ」


「そりゃあ、さすがにまだ一ヶ月も経ってねえのにサボっただなんだってのはねえだろ?

 そんなことやってたら癖になるのは誰もが解ってるだろうしな」


 瓶子も木田も問題無し。当然河合だって──。


「と、当然だろ。怠いけど休まず出てるからそっちの方は問題ねえよ」


「おい、なんで(ども)ってんだよ?

 まさか休んだりとかしてねえよな?」


「ねえよっ! そんなの同じ講義取ってんだから解るだろっ!」


 まあ、そりゃあそうか。同じ講義で同じクラス。確かに解らないわけがない。

 同じ内部進学だったことが幸いしたな。


「なんか怪しいよね。

 男鹿さん、リーダーとしてしっかり監視頼みますよ」


「おい、虎谷。そりゃあいったいどういう意味だよっ」


「言葉どおりそういう意味だろ。

 ま、疑われるのは日頃の行ないのせいだな」


「はは、男鹿も責任重大だな」


 虎谷や木田達はこう言っているけど、実際の河合にはそんな心配はない。不真面目な言動は多いけど、こういう約束事は守るやつだし。

 だからあるとすれば授業内容についていけてるかどうかの心配くらいか。まあそうは言っても今のところそう難しい内容じゃないけどな。


 とはいえ実は、必須科目の第二外国語が問題なんだよな。

 河合は同じ漢字圏だから難易度が低いと中国語を選んだようだけど漢字自体が解らないとな…。あと日本と中国とでは同じ文字でも微妙に意味が違ってたりするし。

 なお、オレが選んだのは韓国語。やはり隣国の言葉くらい理解できるようになりたいしな。実は文法が日本語と似ているので難易度が低かったりする。難はハングルを新たに覚える必要があるってことか。ここで河合達と意見が分かれたんだよな。


 というわけで、これについては同じ中国語を取った木田と協力してがんばってもらうしかない。因みに瓶子、美咲ちゃん、香織ちゃんが天堂が同じ韓国語。但し同じクラスなのは香織ちゃんだけ。

 う~ん、こっちの方も問題だ。

 今度勉強会でも開くか。


「まあ、ライブの方は大丈夫だろ。やることは今までと同じだし、そっちの方は散々やり込んでるしな」


 こう言えるのは全てこいつらに基本をしっかりと叩き込んでくれた恭さんのお陰だ。

 その甲斐あって極端な話、今のこいつらはいきなりでもある程度のことならできるようになっている。

 とはいえやはり曲合わせや練習はするに越したことはなく、結局はそれが演奏の良し悪しに影響する。


「まあそうは言っても今さら新たにすることもないか。突発的な参戦なんだし、そこまで本格的なことを考えてるわけじゃないしな」


 アルバム発表は6月だし、先行販売とかも考えてない。結局は今までと同じだ。

 正直この前の『WYVERN(ワイバーン)』での凱旋ライブみたいなことは考えてないし、それならこんなもんでいいだろう。


「つっても手を抜くつもりは無いんだろ?」


 瓶子が馬鹿なことを訊いてくるが、そんなの答えは決まっている。


「当然だ。あんなやつらにナメられたままじゃオレ達SCHWARZの沽券に関わるからな。

 それにそれはオレだけじゃなく、お前らだって同じだろ?」


「ああ、あいつら散々俺達のことを見下した上にコネ頼りのバンドなんて言いやがったしな」


 オレの返事に木田が肯く。

 瓶子や虎谷と違いあの場にいたわけだから、それは即ち直に侮辱を受けたというわけで、そりゃあ憤慨もするってものだ。


「そういやあの場って、美咲さんや香織さん達もいたんですよね? その上でそんな台詞を吐いたって言うんですか?」


「ああ、それに河合の彼女もな。

 てか、河合とその彼女を見てあいつらが喧嘩を吹っ掛けてきたのが発端だな」


「いや、だから彼女じゃないって」


 木田の言葉に虎谷が状況を確認してきたので改めてそれを肯定する。

 河合の件は(つい)でだけれど、しかしこれも十分な理由だ。


「……へえ、そうでしたか。

 つまり彼らはそういう状況で、敢えてそのように振る舞ったというわけですね。

 なるほど、ならば所長を始め皆さんの言い分は至極尤も。これを放置すればあなた方SCHWARZだけでなくプロデューサーJUN、強いては我が事務所自体への侮辱を認めることになります。

 ならば我が社運を懸けてでも、かの身の程知らずの不埒者共にそれを思い知ってもらわなければなりません」


 ひぇっ!

 か、景山さんの背後から、何か不穏なオーラがっ……!


 や、ヤバい。今回のライブ、甘い覚悟じゃオレ達の方がヤバそうだ。


「よ、よしっ、それじゃ早速特訓だっ!」

「「おうっ‼」」


 オレ達は揃って速攻でスタジオへと向かった。

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