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プロの世界との距離感

 やはり会場前方は人が集中していたためオレ達は後方で位置取ることに。まあチケット毎でエリア指定があるわけだし、安いチケットのオレ達じゃこれも当然ではあるのだが。

 ただ、それはオレ達にとって必ずしも悪いことばかりではない。花房咲に早乙女純、加藤香織、御堂(れい)といった現役アイドルが一緒とあれば人目を引かないわけがないんだから、それがステージへと逸れてくれているこの状況はプライベートで来ているオレ達にとっては却って都合が好いわけだから。

 まあだからってこの香織ちゃんのオレの腕を取りべったりと甘えて撓垂(しなだ)れ掛かってくるのは勘弁願いたいところなのだが。多分早乙女純への対抗意識なんだろうな。


「あっ、男鹿先輩っ!」


 そんなオレにどこからか声が掛けられた。

 あれは誰だ、誰だ、誰だ。

 あれは──。


「いや、そういうのはいいですから。だからそういう著作権に関わるネタに(はし)らないでくださいよ、もう」


 それはまさかの奈緒子だった。

 そして相変わらずのツッコミ。なんでこんな古いネタを知ってるんだよ。


「男鹿先輩、他の先輩方もお久し振りです」

「うわぁ、偶然とはいえここで先輩方と逢えるとは幸運です」


 で、奈緒子がいればやはり高階も一緒なわけで。

 あと(つい)でだけど今日は満智子も一緒だ。


「お前らがここにいるってことは、今日のライブってChocolate Sundayの連中も出てんのか?」


「はい、それで今日は三人で愛ちゃん達の応援に来てたんですけど、先輩方は?」


 一応予想どおりの答えではあるが、前のライブからまだ一週間。こんな短い間隔だけどこいつら練習とか大丈夫なのか?

 まあ余計な心配ってことで気にせず流すことにするけど。


「ああ、中学の頃の知り合いが出るっていうんでな。要するにお前らと一緒だよ」


「へぇ~。

 で、てことはやっぱりその人達ってプロを目指してたしするんですか?」


 この満智子の疑問は当然なのかも知れない。オレの知り合いってことは即ちJUNの知り合いってことになるわけだし。


「どうだろうな? 確かにそれらしいことは言っていたけど、とても本気とは思えない軽さだったしな」


 正しいところはちょっと違う。真彦はともかくあのふたりの場合、仮にそのが有ったとしても本気というのは認めたくない。だって初めて逢った時、随分とこの業界をナメきったことを言ってたしな。


「あ~、つまり、本来ならば縁遠い世界だけど、変に身近にそういう人がいるせいで距離感が可怪しくなってるってわけですね。

 で、先輩としてはどうするつもりなんです?」


「どうもしねえよ。とはいえ一応は知り合いだし、偶にこうした応援くらいはしてやるけどな」


 奈緒子のやつ、解りきったことを訊いてきやがる。そういう公私混同なんてしねえっての。

 そりゃあSCHWARZの件じゃコネが皆無とは言えないけど、それでも周囲に実力を示した上でのプロデビューだ。そこがこいつらとは違う。

 つまりこいつらが本気でプロを望むってんなら、いや、それはこいつらに限ったことじゃないけど、まずは実績を示してからだ。


「え? どういうこと?

 いくら男鹿くんが香織ちゃんやリト……美咲ちゃんや早乙女さん達と親しいといっても、ただそれだけでしょ? だったら男鹿くんが言う以上のことはできないと思うんだけど」


 鵺野(ぬえの)が戸惑い気味に河合へと問い掛ける。

 まあ当然だろう。この中で唯一オレのことを知らないわけだから。


「まあ、ちょっとばかりこいつは特殊でな、その気に──」


「ああ、鵺野の言うとおりだ。

 それにあいつらがなにを思っているにしても、それでどうするかはあいつら自身が決めて、そして自身の責任においてすることだ。オレ達他人が横から口を挿むべきじゃない。

 だからさっきも言ったようにオレ達にできるのは精々その決断を応援してやることくらいなんだよ」


 河合のやつ、なに余計なこと言おうとしてんだよ。変に他人の情報を開示しようとするんじゃねえよっ。SCHWARZの男鹿純としてならまだしも、プロデューサーJUNの情報に関してはまだ一部を除いては公にしないことになっているのを忘れたわけでもないだろうに。まあ、そうはいっても今じゃ知ってるやつも少なくはないから今さらな話ではあるんだけど…。


「うわぁ…。この子、こんな可愛らしい顔してる割に言うことは大人顔負けなくらいに真面目だぁ…」


 おい、なんだよそれ。

 幸い勢いでなんとか話を逸らせたようだけど、でもこの反応は納得がいかない。なんで真面目な話で引かれなきゃならないんだよ。


 ……くそっ、鵺野のやつ(この子)、なるほど河合の従姉妹だ。

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