お弁当
二限目の講義では木田と佐竹と香織ちゃんが合流。先ほど一緒になった鵺野に驚きの声を上げている。まあここでもあの自己紹介をしたんだから当然といえば当然だろう。
で、鵺野の方もやはり…。
「ええーっ⁈ 早乙女純に加藤香織っ⁈」
ここからのやり取りについては省略。佐竹が眉をヒクつかせながら誤解を解き、香織ちゃんが嬉々とした笑顔で誤解を広げようとしてたとだけ言っておこう。
講義内容がまだ大した内容でなくて幸いだった。
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二限目が終わり昼休憩。
というわけで昼食を摂りに学食へ。
うわぁ……。解ってはいたけどやっぱり凄い視線が…。
「あっ、純く~んっ!」
そして先に来ていた友人達がオレ達に対して手を振るのを見てまた哄めく。
まあ相手が美咲ちゃん──国民的アイドル花房咲──じゃそれも当然な話か。
「ええっ⁈ 嘘っ⁈
あの子って花房咲でしょ⁈
男鹿くんって花房咲とも知り合いだったのっ⁈」
そして鵺野も当然こうなるわけで。
「おいおい、今さら驚くことか?
俺達も彼女も同じ内部進学なんだから面識が有ったって可怪しくはないだろ」
「ええっ⁈ 男鹿くんだけでなく聡ちゃんもっ⁈」
呆れたように言う河合に対し、鵺野がさらに驚愕する。
「ま、外部から入学した人間からみればこんなもんだろ。俺達内部進学組が馴れ過ぎなんだよ」
こんな風なことを言う木田だけど、こいつだって面識ができたのはオレが軽音楽部に顔を出したのがきっかけだろうに。
「花村さんでこれだと、天堂くんと会ったときが見ものよね」
佐竹も初めて逢ったのが高校でだけど、こいつは別格だ。なんたって初対面でも殆ど気にした感じはなかったし。…って、あの頃の佐竹は今以上に尖っていたからなぁ…。
「はは、確かにあの御堂玲だもんな」
とはいえ佐竹の言うとおり、それは確かに楽しみだ。但しその場合──。
「でもその場合、河合への熱が冷める可能性も出てくるんだよな。実際、中学の時、それで彼女にフラれたやつもいたし。まあ、そいつはそれがきっかけで新しい彼女ができたから却って好かったんじゃあるけど」
……でもその子ってちょっとばかり性格がアレだったんだよなぁ。武士のやつ、今でも上手くやってりゃ好いけど。
各々がメニューを手に美咲ちゃん達に同席する。
美咲ちゃん以外のメンバーとしては、瓶子と斑目。天堂と取り巻きの朝日奈、向日は演劇学科と学科が違うこともあり入学以来大学で顔を見てないとのこと。体育学部の由希に至ってはなおさらだ。
「あ、でも鳥羽くんと小鳥遊さんには会ったよ。ただ私達と違ってお弁当を用意してたみたいで、どこか別の場所で食べるからって挨拶をしたら居なくなったけど」
ははは……。あいつら本当に相変わらずだな。
「ねえ、やっぱり私も次からはお弁当を作ってこようかしら」
「いや、そんなのいいって、香織ちゃん。
だいたいただでさえ学業と仕事の両立で大変なのにそんな無理をして倒れたらどうするんだよ。頼むから余計な心配をさせないでくれ」
相変わらずといえば香織ちゃんもだ。こういうところは意地らしく健気だとは思うけど、だからって心配させられるのは困る。
「もうっ、純くんったら本当優しいんだから。
でもこれくらいなんともないから大丈夫よ。だから私の好きなようにさせて」
「……それじゃ仕事の暇な時に無理のない程度でな」
本当香織ちゃんには参ったものだ。でも好意で望んでることだし、それを否定するってのもな…。
取り敢えずその分仕事量の調整をマネージャーに頼むこととして、あとは……。
仕方ない、伊織に看てもらうこととするか。多少気が引けはするけど、でも受験があるってわけじゃないしな。野球部にしてもうちの高等部じゃそんなに期待はできないだろうからそう問題は無いだろうし。
「うわぁ…。男鹿くんって口じゃあ否定してるけど、実際は甘々のツンデレだったんだ。
まあこんな風に健気に尽くされてれば、そりゃあ絆されるのも解るってものだけどね」
「誰がツンデレだっ。横から変な口を挿んでんじゃねえよっ」
と鵺野には否定をしてみたものの、絆されている自覚は確かにある。
でも、これはあくまでも友人としてであってそれ以上の感情なんてものはない。
「ねえ聡ちゃん、私も倣ってお弁当作ってきた方が好い?」
──て、おい、オレのことは無視かよっ!
「よせよ、おい。
てか、男鹿、お前のせいで余計な飛び火を喰らったじゃねえか。どうしてくれんだよっ」
「知るかよっ。
そんなことよりもそっちこそこの子の誤解をなんとかしてくれよっ」
というわけで、オレに加えて河合までがラブコメ路線に突入?……って冗談じゃない、そういうのはこいつらだけでやってくれ。
でも、香織ちゃんの気持ちと世間の誤解、これって本当にどうしたもんだろうな……。




