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やるなら真っ向勝負だぜ!

 調子に乗って作中で作詞の真似事をしておりますが、学がない人間のやることなため英語部分はいい加減なものとなっております。なのであまり触れずに流してくれると助かります。

 ツッコミを入れたくなるかも知れませんが、できれば個人の心の内だけで勘弁してください。

 OBK(オービーケー)のステージはこれでもかって程の盛り上がりをみせた。

 いろいろと制約の多い社会人バンドだというのに相も変わらずの実力の発揮。いかにアマチュアとはいえさすが長年バンド活動を続けてきたベテランだけのことはある。


 そして迎えたオレ達SCHWARZのステージ。今日のトリっていうこともあるけど、この中で唯一のプロということで観客達の、いや会場全体からの期待が懸かる。

 これに加えて先ほどの締めでの『Heaven or Hell』。普通対バンでやるやつの、しかも次のやつの代表曲をそこでやるなんてあり得ないってのに。

 どうしてくれんだよこの空気。


 うん、解ってる。瓶子も言ってたが『プロならこれくらい笑って上回る余裕をみせろっていうメッセージ』ってことに違いない。なんとも厳しい先輩だ。


 当然この挑戦は真っ向から受けて立つ。

 緊張もするけど、そんなことよりも(たかぶ)りの方が上だ。

 魅せてやるぜ、プロの実力ってやつを。


 ……と意気込んだはいいけど、その前に…。

 いや、ビビったってわけじゃないけど……ないはずなんかだけどな。こういうのはリトルのときで慣れてるはずだし…。



 用を足し手を洗う(つい)で、もう一度鏡で姿の確認。


 メイク──化粧落ち無し。

 衣装──乱れ無し。……いかがわしい意味じゃないからな。そっちの場合の表現は着衣だし。

 鬘──セットOK。ズレは無し。


 最後に仮面を装着したところでもう一度全体のバランスを確める。

 以前はアニメキャラのお面だったけど今回はちゃんとした衣装としての仮面だ。

 オペラ座の怪人でお馴染みの顔の右片面を覆うファントムマスク。当然白一色の無地だ。

 なお、鬘を取ったら白髪が数本といった演出はしていない。洒落としては面白そうだけどな。


 良し、完璧だ。それじゃ急ぐか。みんな待ってるだろうしな。



「悪い、待たせたな」


 転換時間には間に合っているけど、やはりこういう時間は短い方が良い。況してやオレの場合シンセサイザーの持ち込みだし、時間が喰う分余計に気を遣うべきだしな。


「全く、リーダーがこれかよ」


 呆れたように河合が責めてくる。

 癪だけどオレに非があるだけに反論できないのが悔しい。


「珍しいよね。さすがの男鹿さんも今日ばっかりはやっぱり緊張したってことなんだろうね」


 ……くっ、よもや虎谷にフォローされるはめになるとは。でもやっぱり否定できない…。


「それよりも、予定変更はちゃんと解ってんだろうな?」


 それよりもこっちの方が問題だ。OBK(オービーケー)のせいで予定が狂ってしまったし。


「ああ、そこは大丈夫だ、任せとけって」

「うん、練習は嫌って程してきてるし、今さらその程度どうってことないよ」


 瓶子と虎谷から問題ないと返ってきた。

 なんとも頼もしいことを言ってくれる。


「ま、虎谷もこう言ってんだし大丈夫だろ」


 木田からも同様の返事が返ってきた。

 てか自分じゃなく虎谷基準かよ。


「頼むから程々にしておいてくれよ。俺の立場だってあるんだからな」


 河合は別の心配かよ。でもこれならこいつも問題なしだな。


「よし、それじゃいくかっ!」


 全ての準備が整ったし、メンバーの緊張も巧い具合に(ほぐ)れて結構好い感じだ。


 よし、これならいけるぜ!


 ~♬

 君は高嶺のBeauty Lady

 俺は底辺、Dirty Boy

 風に揺られる気ままな君を

 いくぜ、この手にGet on with you!

 Heaven or Hell,Heaven or Hell,Heaven or Hell

 勝負を懸けろ!

 ~♬


 本来は締めの予定だった『Heaven or Hell』を敢えて一曲目に変更。余韻の残るOBK(オービーケー)の『Heaven or Hell』にぶつける形だ。

 やはり挑戦を受けて立つってんなら当然真っ向勝負だろ。


 ~♬

 君が微笑むCasual Smile

 女神が嘲笑(わら)うSarcasm Giggle

 俺はニヒルに勝負を懸けるぜ

 いくぞ見ていろ乾坤一擲!

 Heaven or Hell,Heaven or Hell,Heaven or Hell

 君をこの手に!

 Heaven or Hell,Heaven or Hell,Heaven or Hell

 全てを掴め!

 ~♬


 二番はメインパートを河合と交替、今度はオレだ。

 異なる音域による表現の広さ、これこそツインボーカル体制のSCHWARZの利点。

 当然オレは女声バージョン。

 ZENZAバンドの亜姫のボーカルを知ってるファンには懐かしく、今の河合のボーカルでしか知らないファンには新鮮に思えることだろう。


 ~♬

 Get up and Feel the Heart

 What you want is There

 Bet on Be Heat Heart

 Get Everything to Give in to you!

 ~♬


 そしてトドメに間奏部分でアドリブ歌詞の挿入だ。

 まあこれは曲を作ったやつだけに許された特権ってやつだよな(※1)


 ……はは、さすがにこれはメンバー達も驚いたか。幸いミスは無いけど、後で文句を言われそうだ。


 だがそれだけの効果はあったようだ。

 今までと違った改良バージョン(?)の曲に会場の大盛り上がり。

 そして曲が終われば耳を(つんざ) (※2)ような大歓声が。

 うわぁお。

※1 作った人物に許可なく勝手に曲を改変すると著作権上問題が生じます。

 実際とある演歌歌手が前奏のアドリブを入れた件は有名ですよね。本人はその場限りのつもりだったそうですが、なんか周囲は放っておいてくれなかったようで、それを受けて作詞家が大激怒。結果暫くは封印のハメになったとか。

 本当著作権問題は大変そうです。

 ……え? お前が言うな?


※2『(つんざ)く』とは『強い力で物体を突き破る』という意味。比喩表現としては結構聞く言葉ですが詳しい意味まで知りませんでした。中国古典とか(もちろんこんな作者なので読むのは水滸伝とか封神演義とかです)じゃ結構出てくる漢字なのに…。

『劈』を使った言葉には、物語の始まりを意味する『開巻劈頭』なんて四字熟語があるそうです。残念会ながらこれも初めて聞きました…。


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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