大学での新たな友人
森越大学には経済学部、経営学部、商学部、社会学部、文学部、芸術学部、体育学部の七つの学部が存在する。まあなんていうか前半はともかく後半をみれば解ると思うがいわゆるオタク色…もとい趣味色の強い学部の揃った大学である。
元は経済学部、経営学部、商学部だけの大学だったが、のちに社会学部、文学部を増設、遂には若者の夢の支援なんてことを謳い出し、残る三学部ができたとのこと。
…これって、見ようによっては夢見がちな若者を喰いものに大学運営をしてるだけだよな。学費だって決して安くないし…。
とはいえオレ達のような者には都合が良いことには違いなく、オレは芸術学部へと進むことになったわけだ。
美咲ちゃんや天堂、鳥羽、河合達も同じだ。言うまでもないが香織ちゃんも。
…でも、香織ちゃんの場合、オレが理由なんだよな…。
同じような理由で朝日奈と向日も天堂を追って芸術学部へ。
高校進学の時もそうだったし、もう今さら驚くこともない。
小鳥遊もやはり同じような理由だ。こいつは鳥羽と付き合ってるしな。
でも大丈夫か? 大学は高校の時以上に目立つはずだし、さすがに人前でイチャイチャってことは…。
まあきっと大丈夫だろう。その辺のことはこいつらだってちゃんと弁えてるはず…だよな…。
他にも斑目と佐竹が一緒だ。
多分斑目は周囲に流されて。
佐竹もそれに付き合うという形…というのは建前で実際はオレ達と同じ。なんてったってその正体は二代目早乙女純なわけだし。
ただ、オレとしては秘かに美咲ちゃんのサポートをしてくれることを望んでいる…んだけれど、多分解ってくれているよな? 期待してるぞ。
オレ達の中で唯一違う学部へと進んだのが由希だ。もちろん選んだのは体育学部。
まあ当然だな。空手道場のひとり娘なわけだし。いずれは跡取りってことになるんだろうからな。
辛島達や安能達については知らない。でも多分同じ芸術学部だろう。プロとアマの違いはあるけど、どちらも音楽をやってるわけだしきっとその道に進んでると思う。
取り敢えずオレの知り合い連中の進路はこんなものか。
オレの大学での知り合いだが、なにも内部進学組連中ばかりではない。ちゃんと外部からの入学組だって当然いる。
「なあ、同士よ。お前もやっぱり花房咲目的でこの大学を選んだ口だろ? それとも加藤香織の方? でもあの子って例の噂もあるしなぁ、狙うならやっぱり咲ちゃんの方だと思うんだけど。
まあそこは本人の好みの問題だし、他人がとやかく言うことでもないか」
ただ、こういうのと同類扱いされるのは遺憾である。いったいなぜこんなことに。
こいつの名前は伊丹幸助。この言動から解るとおりのアイドル大好き男だ。
「そういやこの学校、早乙女純本人かって疑う程のそっくりさんがいるってらしいぜ。
もし本当なら是非ともお近づきになりたいもんだよな。こっちなら本物のアイドルと違って知り合える可能性が高く現実的だし、付き合うにしてもハードルが低い。
でも万が一の可能性だって捨てきれないしっ。
ああっ、どうすればっ良いんだっ!」
……「あり得ねえよ」と言ってやりたい。
香織ちゃんは言うまでもなく、佐竹に至ってはこいつみたいなやつは一番毛嫌いするタイプだ。
辛うじて可能性があるのが人見知りしない美咲ちゃんなわけだが、でもそんなことを教えてやる気はない。
まあ美咲ちゃんもこんな軽薄なやつに靡くような馬鹿じゃないし、なによりもそういうことにはまるっきり興味なさそうだし、そんなわけで心配は無用だろうけど。
「お前、その手の話っていったいどこから仕入れてきてんだよ?」
ふと気になって訊ねてみた。まあある程度の予想はつくのだが。
「なんだ知らないのか? そういうサイトがあるんだよ」
そう言うと伊丹はスマホを弄り始めた。
「ほら、この森越大学のサイト。
で、今年注目の新入生、女性…っと」
おいおいマジか。一応オリエンテーションで交流サイトがあるってのは聞いていたけど、まさかそんな情報までとは…。
これ、変なこと載せてないだろうな? 個人情報の保護は守られてるんだろう?
「おおっ! やっぱり1位は花房咲か。
って、やっぱり本名とかは載ってないな。解るのはこれまでの簡単な経歴くらいだし」
「いや、当然だろ。さすがにそれ以上は問題だし」
こうは言ったものの少しばかり心配だったんだよな。中には非合法スレスレなことをするやつもいるみたいだし。なのでそういうサイトじゃないことが確認できて一安心だ。
「2位は加藤香織。男のいるアイドルには興味ないしこれはパス。
おっ⁈ 3位っ、この子だっ!」
香織ちゃんを見事にスルーした伊丹。そういや男のいるアイドルに興味が無いみたいなこと言ってたしな。
で、代わりにと目を留めた第3位はというと…。
「へえ~、この子って佐竹順子っていうんだ。
なるほど確かに早乙女純と信じられないくらいにそっくりだ。
これって本当は本人じゃなんじゃないの?」
当たり。
但しその佐竹が二代目早乙女純ってことは、相方の美咲ちゃんですら知らないんだけどな。
「ぶふっ! なにこれ? キャッチコピーが『本人以上の本物』って。
由来は高校時代の胸囲が遥かに上回ってたため?
誰が付けたかは知らないけど酷いな。でも確かに昔は絶壁だったわけだし、なるほど上手いこと言ったもんだわ」
なに? そんなことまで載ってるわけ?
全く、よく調べたもんだよな。まあ早乙女純に詳しいファンなら知っている話ではあるんだけど。
「ええっと、注意事項。『彼女の前で早乙女純の話をするのは厳禁。比較されることを極度に嫌がるので間違いなく嫌われる』?
ヤバっ。知らなきゃ間違いなく言うよな。マジでこれ見てて良かったわ」
はは…。こんなことまで載ってるんだ…。
誰だかは知らないけど、本当によく調べてるよな。
このサイト、他にもいろいろと載っていたが、基本的には美女の人気ランキングみたいなものだった。
いや、基本的にって言ったのは18位に由希が載ってたからで…。
…こいつどういうセンスをしてんだか。
また、同時にこいつは怖いもの知らずだとも思う。空手道場のひとり娘ってことはともかく『姫夜叉』の異名まで載せるとは…。
…由希には絶対に見せられないな。後が恐い。
「はあ~、やっぱりこの学校ってレベル高いわ。がんばって入った甲斐がある。
あとはどうやってこの子達とお近づきになるかだけど…。
なあ、なんか良い手って無い?」
「知らねえってのっ。そんなの好きにすればいいだろっ。
そんなことよりも今のオレはいかにして単位を熟すかの方が問題なんだよっ」
できれば効率よく単位を取って早め卒業を決めてにおきたいし、余裕があれば後の役に立ちそうな講義とかだって受けたいんだ。そんなことに感てる隙なんて無いってんだ。
「…お前、もしかして頭悪いの?」
伊丹は一瞬ぽかんとし、続けて真顔で問い掛けてくる。
…こいつ、天然かよ。
「人聞きの悪いこと言ってんじゃねえよっ。こっちはお前と違って閑じゃないだけだっての」
全く、友人選びは失敗だったようだ。いや、選んだってよりもできてしまったというのが正しいのだが。
はあ…。もう少しマシな友人が欲しかった…。




