大学入学とオリエンテーション
恥ずかしながら作者の最終学歴は高卒です。そんなわけで大学についてはさっぱりで書いていることはネット漁りでの情報を鵜呑みしたものばかりのハッタリです。
世間の社会人は二人に一人は大学卒だとか。通用するかどうか不安です。
入学式は4月の1日だった。
慣れないスーツに身を包んだ新入生達の姿が初々しい。
「アンタも他人のこと言えないでしょ。どう見てもスーツの方に着られてるようにしか見えないわ。馬子にも衣装っていうけれど、実際はそうとは限らないって良い例ね」
「それはお互い様だろ。
だいたい中身が具わってないからこそ、こうしてそれを学びに来てるんだろ。それを言うのはナンセンスっていうもんだ。
君飾らざれば臣敬わず …ってちょっと例えとしては微妙か…。まあともかく、要は物事はまずは形からってやつだし、今は分不相応なのが当たり前だっての」
「そんことないわよ。純くんは内も外も共に揃って完璧だもの。
可愛らしい見た目に頼りになる実力。それでいてなお学ぼうという謙虚な姿勢と向上心。
本当、さすがは純くんよね」
キラキラした瞳でオレを褒め称してくる香織ちゃん。
さすがにこうも持ち上げられると面映ゆいというよりもなんか別の意味で恥ずかしい。
「難しいことはよく解んないけど、きちんとした格好だと身が引き締まる ってのは確かだよね」
由希とオレのやり取りに美咲ちゃんがポジティブな意見で応えてくる。香織ちゃんがスルーなのは三年間の付き合いですっかり慣れきったせいだろう。
美咲ちゃんってなにげにこういうところが強かだよな。いい性格をしてるよ…。
「そういうこと。
やはり身嗜みってのは自制の第一歩だからな。それを意識することで緊張感が高まるってわけだ」
オレも同様にスルーする。
香織ちゃんには悪いけど、取り合ってると余計土壺に嵌まる だけだし。
「要は心構えってことだよね。
それに人と関わるにしても初対面でいきなり内面を解るわけじゃないからね。
やはりまずは見た目で好印象を与えることが良好な人間関係構築の第一歩だよね」
天堂もやはり同様にスルーでオレの意見を補足する。
……そう、天堂でさえもなんだよな…。
しかし、なんかこいつが言うと説得力が違うな。朝日奈や向日も……って、こいつらが天堂を持て囃すのはいつものことか。オレに対する香織ちゃんみたいなものだ。
とはいえこれが天堂の人気の一端であることには間違いない。
やはりきちんとした身嗜みってのはモテるやつの基本だな。いや、こいつの場合オレと違って、見た目だけじゃなく振る舞いとかにも品格ってものが具わってるけど。
さすがは真性のイケメンだ。
「さすがイケメンアイドル様は言うことが立派だ。
そのせいだろうな。さっきからずっとこっちの方を窺ってる視線が凄えのなんのって。
この内のいくらかでも俺らに分けてくれってんだ、ちくしょー」
河合の言うように視線の女性達の多くは天堂に向けたものだろう。そして男性達の視線は美咲ちゃんに香織ちゃんに佐竹に違いない。といっても佐竹の場合、自身として見られているというわけでなく早乙女純を見る視線だろうが。
そのせいだろう、ここまでずっと表情から忌々しさが隠しきれていない。いや、今のところなんとか辛うじて笑顔を保っているけど、でもそれもいつまでもってくれるものか。こいつ、このことを凄く気にしてるからなぁ。
はは…、斑目のやつが怯えてるや。
「いや、これ、男どもの視線って結構男鹿にもいってんじゃね? なんかすっげえ殺意を感じるんだけど」
「ああ、今にも血の涙を流しそうな感じだな」
はは…、木田と瓶子が怯えてるや。
まあこの射殺さんばかりの視線じゃな。
原因はオレの左腕にべったりと縋り着いている香織ちゃんだろう。
高校からのエスカレーター組はともかく、他所からの入学組には嘸かしショッキングな状況に違いない。恐らくは噂の熱愛相手と認知されたことだろう。
はあ…。授業に影響しなけりゃ良いけど。
香織ちゃん、オレと同じ講義を狙って取りそうだしなぁ…。
オリエンテーションに参加するべく会場入りする。
この女性達の興味と男どもの嫉妬で混沌とした雰囲気には正直逃げ出したい思いだけど、でも嫌でも参加しておかないとなぁ…。
クラス分けへの影響はともかく、履修に影響が出るのは困る。詳しい説明を受けられないのはもちろんのこと、健康診断を受けないことで運動科目の履修ができない可能性があるっていうし。
正直言って面倒臭い入学式に出て来たのってこのオリエンテーションが理由なんだから、ここで逃げ出したんじゃここまでの全てが台無しだ。
取り敢えずなんとか堪えきったオリエンテーション。
やはりガイダンスは必須だし、いろいろな手続きも必要だ。
これで履修登録も単位取得のための計画も問題無し。他の予定だって立てられる。
とはいえ今日一日で全てが済むってわけじゃなく、暫くはオリエンテーションが続く。健康診断だってまだだ。
他にも好いことがあった。
教授の何人かと多少程度でも親しくなれたのは大きいだろう。もしかするとオレ達の芸能活動に理解を示した彼らからなんらかの融通が期待できるかも?
また少ないながら友人……というには少し微妙な知り合いもできた。多分授業の代返くらいなら期待できるんじゃないだろうか。ちょっと高くつきそうな気はするけど。今後のオリエンテーションでもう少しマシなやつを探すか…。
ともかく入学式での目的は果たせた。
よし、それじゃ帰ったら早速今後の計画を立てるか。
※1『君飾らざれば臣敬わず』とは『尊敬されるようになるには外見や言動を正しくする必要がある』という意味です。身も蓋もないことを言うなら、モテるのは身形が貧相で粗雑なブサイクじゃなく見目麗しい紳士淑女ってわけで、それを装うための身嗜みなわけです。人を判断する場合、まずは外面、それから内面というのが一般的で必然ですしね。
常に外見と中身が一致するわけではないというのが現実で、どこかで本質が格好や言動に隠せず自然と表れるというのはよく聞きます。それ故に日々身を修める努力が重要というわけです。
そんなわけで第一印象は大事です。…仮令それが付け焼刃であったとしても。
体裁を取り繕うのが二流というのなら、それができないのは三流です。自然体でそれができる一流は難しいので、まずはその入口である二流を目指すところから始めましょう。
※2 ここでは『身が引き締まる』としていますが『気が引き締まる』ともいいますし、果たして正しいのはどちらなのでしょう?
調べてみたところ外部要因のネガティブさと自身のやる気によるポジティブさの違いなんていう自主性の違いという意見があるようですが…。危機感と期待感ってことでしょうか?
というわけで、ここでは不文律や(格好による)雰囲気に引き摺られてってことで『身が引き締まる』としております。
※『土壺に嵌まる』とはいわゆる『ドツボに嵌まる』のことで『最悪の事態に陥る』こと。
で、この最悪たる『土壺』とは何のことかと思ったら……実は『肥壺』、つまり『肥溜め』のことでした。…うわぁ、そりゃあ堪りませんわ。
[Google 参考]
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




