どうする? 収録曲
元大東プロ組の曲もでき、香織ちゃんの詞に曲を付けたことで取り敢えず全員に夏までの曲は問題無し。元星プロ組は移籍前からのストックが残ってたしな。
あとは振付け師とかのそれぞれの専門家に任せておけばよい。
というものの3月も残すことあと半月。そろそろSCHWARZの方もみておかないと。
「なんだよ、忘れてたのかと思ったぜ。全く困ったプロデューサーだよな」
忙しさに感けて暫く放置だったせいか河合からこんな皮肉が返ってきた。
「悪いな。
いろいろとやることが多くてなかなか手が回らなくってさ」
「まあ所長だもんな。
こっちも新生活の準備とかいろいろあって忙しかったから、本当は丁度好かったんだ。だからそう気にしなくても構わねえよ」
「だな。ま、親元暮らしの河合と高校通いの虎谷は違うかも知んねえけどよ」
オレが謝ると瓶子と木田からこんな言葉が返ってきた。そういやこいつらは進学に伴い親元を離れるって言ってたしな。そりゃあ河合達みたいに閑を持て余してるわけがないか。
「はあ~、瓶子さんと木田さんはひとり暮らしかぁ。
いいなぁ~。羨ましい」
これを聞いて虎谷が能天気なことを言う。
でも果たしてそういうものだろうか。
そりゃあいろいろと解放されて自由だろうけど、その代わり何でも自分でやらなきゃならないことも増えてくる。最初は多少の仕送りもあるだろうけど、いつまでもってわけにはいかないし限界もあるってのにな。
まあ、そうは言ってもいつかは自立しなけりゃならないわけだし、早いか遅いかの違いなんだけど。
「はは、ふたりとも面倒臭えのによくやるよ。俺は絶対に御免だわ」
そう、いつまでも実家で暮らしてるとこんな風に親離れできなくなるしな。
てか河合、お前大丈夫なのか?
まあ、オレも親元暮らしだし他人のことを言えないんだけどな。
それよりもそろそろ本題に入ろう。
「まあともかく置いておくとして仕事の話だ。
6月のアルバム発表に向けてそろそろ収録とかしとかないとならないしな。
まずは収録曲をどうするかだ」
「この前のライブのセトリでいいんじゃねえの?」
オレの議題に河合が安易に答えてくる。
そうなると『Black Magic』から始まって『Evil Gate』『Chaos Stream』『Bark at the moon』そして最後に『Heaven or Hell』だが…。
「いや、さすがにそれじゃ曲が足りないだろ。俺達ってまだ対バンしかやってないんだし」
透かさず瓶子がツッコんだ。
「ああ、それじゃできてもミニアルバムだろ。
さすがにファーストアルバムがそれっていうのもなあ…」
続く木田も同様の意見。
「曲が無いわけじゃないんだし、せっかくだから派手なくらいでいきたいよね」
そして虎谷までも。
小心者の虎谷だけど案外言うことは言うのだ。まあ他のやつに同調してっていうか追い風に乗っていうのが基本だけど。
「まあそうだよな。まだ『Shadow Walker』とか『Rule Breaker』が有るわけだし。
それにカバー曲もデスペラードやBRAINの曲、他にもライブでまだやってない曲も有るしな」
特にオレが女声ボーカルとして参加する曲なんて河合が嫌がるせいで殆どやってない。
まあ一番の理由はメインに据えた河合の定着化なんだけど。
「デスペラードのカバーだったら『Phantom Pain』『Engage Moons』はやりたいよね。あと『Kill Kill Kill』。もしくはリトキスの『Kiss Kiss Kiss』」
調子に乗ってきたのだろう、さらに虎谷は積極的になってきた。
「ああ、確かにそれはアリだよな。なんてったって亜姫がいるわけだし」
「だよな。河合は嫌がるかも知れねえけど、間違いなく話題にはなりそうだ」
瓶子と木田が賛同を示す。
河合の意見は無視のようだ。…って、オレの意見は?
「そりゃあ確かに亜姫とオレとは同一人物だけど、世間表向きは別人扱いだぞ」
「でも話題を呼ぶには十分だろ。
本人であろうがなかろうが、そこを埋めるやつが現れたんだからな」
不服があると訴えてみたが、瓶子にバッサリと反された。全く通用していない。
先ほど虎谷が挙げた曲は亜姫がデスペラードにゲスト参加していた時にやってた曲で、リトルキッスの『Kiss Kiss Kiss』の替え歌であるデスペラードの『Kill Kill Kill』はSCHWARZの前身ZENZAバンドに亜姫が一時参加していた時の曲。確かに三人の言うように未だ亜姫と同一と疑われているオレが歌えばその反響は大きいだろう。
「確かにな。客観的に見ればそういうことになるか」
解ってたことだけにそれを否定する気は無い。なによりもせっかく参加するんだからオレだっていろいろとやりたいし。
……いや、それでもメインはあくまでも河合。でも偶にはオレだって…。
一層ツインボーカルってことにするか。
これなら広い音域もカバーできるし曲の表現の幅も増える。さすがに高過ぎる音域は河合じゃまず無理…じゃないにしてもキツいだろうしな。
ということで、今思ったことをメンバー達に相談してみたところ河合以外が快諾。
いや、だからって河合を疎かにするつもりは無いから。
拗ねる河合をなんとか全員で宥め賺すことでなんとか説得しSCHWARZはツインボーカル体制でいくこととなった。もちろんマネージャーの景山さんも一緒だ。
こうしてSCHWARZのファーストアルバムの収録曲が決定した。
※1『感ける』と『構う』、似たような意味で紛らわしいですが少し違います。
【感ける】気をとられる。掛かりきりになる。煩う。大抵なにかが疎かになります。怠けているわけではありません。
【構う】気に掛ける。相手をする。判断の余裕があるため、大抵は自己責任です。
というわけで自主性の有無での違いのようです。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




