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夢は破れど

 3月に入り取り敢えず高校は卒業。と言ってもエスカレーター式で進学のうち学校じゃそういう実感は薄いのだが。それでもともかく卒業をしたわけで4月からはオレ達も大学生だ。だが同時に…というか卒業に伴いオレは新事務所の所長に就任することとなる。


「正直言って自信なんて無いんだよな。人前じゃ言うわけにはいかないけど…」


 いくら今までどおりにプロデュースに専念していればいいって言われても、それでもやはり心配になるわけで…。

 はあ……。

 考えるとどうしても溜め息が出てくる。


 俯いた顔を上げ仰ぎ見れば…。


「にしても随分と立派な建物を建てたもんだよな。

 本当、いつから計画してたんだよ…」


 目の前には新築間もない大きな建物。しかも敷地入り口には『Jプロダクション』と大きく銘打たれた石碑が…。


 やめてくれよ、恥ずかしくなる。

 まあ長々と碑文の書かれたものでなく、ただ名前と定礎の文字と竣工日が打ってあるくらいなのが救いだが、それでもオレの『JUN』の名から取ったのが見え見えの、この『J』を冠した事務所名がデカデカとっていうのは恥ずかしい。これなら男鹿プロダクションって方がまだ……。


 卒業式を終えた翌日、オレは所長として就任することとなるこの場所へとやって来たのだった。



 建物の中ではいろいろな人達が忙しそうに働いていた。とはいってもそれは所員達というわけではなく運送会社の人達のようで……って、それなら彼らとあれこれと話をしている人はやはり所員ってことになるのか。荷物の配置とか確認とか、そういう諸々の仕事があるのだろう。


「あれっ? ええっと……男鹿くん……だっけ?

 君、こんなところでなにしてるの?」


 オレが周囲を窺っていると二十代前半と思わしき男性が声を掛けてきた。

 でも誰だ? なぜ疑問形?

 なんか中途半端にオレのことを知ってるみたいだ。でもオレに心当たりがないんだけどな…。


「確かにオレは男鹿ですけど。

 ええっと、失礼ですがどなたでしょうか?」


 解らないものは仕方がない。素直に訊ねるのが一番だろう。


「ええっと、僕は去年まで星プロの訓練生だった景山っていうんだけど覚えてない?」


 どうやら彼はうちの元訓練生だそうが、そうは言っても覚えがない。


「すみません、オレってあまり練習に顔を出してないんで、正直よく覚えていないんですよね」


 正直オレは籍こそ置いてるが実際は幽霊訓練生だったので彼らと顔を合わすことはなかった。なので覚えてる人間なんていないんだよな…。


「まあそうだよね。僕としても美晴ちゃんや美果ちゃんと偶に話してるところしか見たことがないし」


 いや、ミハルとミカって誰だよ? その子達も同じ訓練生か?

 まあそんなのどうでもいいことなんだけど、それでもなんとなく疑問に思ったので訊ねてみたところ…。


「もしかしてそいつらってよくオレに絡んできてたふたり組?」


「あ、やっぱり彼女達のことは覚えてたか。まあ可愛らしい女の子達だもんね」


 いやどこがだよ。他人のことをチビ助なんて憎まれ口を叩いてくるやつのどこに可愛げがあるってんだ。覚えてたのは逆の理由でだよ。


「で、あのふたり、まだ身の程知らずなこと考えてるんですか?

 いい加減現実ってものに目を向ければ良いのに。あいつらじゃできても良いところ……まあアレでしょうね。もしくは笑いを取りにいくか。少なくとも正統派は無理じゃないですか?」


 見てくれは程々で体格はアレ。なので女性としての尊厳に拘らなければ多少は売れるかも知れない。でもアイドルとしての期間は短く早めに他へと転向することになるだろう。そこで下手を打てばアレな路線が待っている。それなら諦めた方が身のためなんじゃないだろうか。

 まあそうは言っても決めるのはあいつらなんだけど、それでも知ったやつがそういう道に進むのはなあ…。


「まあそこは僕も他人のことは言えないかな。大学卒業を前にして(ようや)く諦めが……、いや結果こんな業界に拘ってるんだからやっぱり僕も未練だよね」


「でもそれが現実ってもんでしょう。誰もが好きなことに適正があるってわけじゃないですから。

 ただ、それでも好きなものが好きなのは仕方がないわけで、だからこそそういう道を歩いてこれたんですよね。ならば未練は当然の話でしょう。

 逆にそれを嗤うようなやつじゃ他の何かをしたとしても大成なんてできませんよ。所詮はその程度の情熱しか持てないってわけですからね。哀れなものです。

 …って、こんな若僧が偉そうに解ったようなことを言うのも生意気ですけど」


 こうして自虐的なことを言う景山さんだが後悔なんてしてないことはよく解る。だからオレのこの言葉も慰めではなく本心からの称賛だ。まあ聞き手によっては皮肉にとる可能性はある言葉だが彼なら解ってくれるだろう。


「…って、それよりもオレの話でしたよね。

 実はオレもここで働くことになったんで今日はここで待ち合わせです。なんか偉い人がいろいろと話があるっていうんで」


 などと景山さんと話し込んでいたところに聖さんともうひとりの人物がやって来た。

 どうやら話はここまでのようだ。


 そんなわけで彼と別れてふたりと共に上の階へと進みいろいろと重要な話をしたわけだが、数日後彼と再会することになる。

 実は彼はSCHWARZのマネージャーの担当に決まった人物だったのだ。

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