移籍⁈
ESN大賞6の結果が発表されました。当作品で挑んでみましたが落選でした。って当然ですよね、この作品ってろくな実力もない作者が奇を衒って邪道を突っ走ってるわけですし。やはり初心者はそれらしく正道から入るべきだったようです。またテーマに一貫性が無いなんてのも確か、その時の気分で好きなようにやり過ぎ迷走したりもしましたし、だって作者の趣味で書いている読者無視の独り善がりの作品なんで…。
そんな作者による稚拙な作品ですが、それでもとここまで読んでくれた読者様方には感謝です。
とはいえ今さら作風を変えるのもアレですし、それに一番の目的が自己満足であるためこの作品はこのまま進める予定です。皆様方には反省のないやつなんて呆れ厭きられるかも知れないですが、それでもって方がいらっしゃるようでしたらこれからも引き続きよろしくお願い致します。
年明け早々、とんでもない話題が世間を騒がせた。なんでも香織ちゃんが事務所を移籍するらしい。で、その移籍先だが…。
「ねえ、香織ちゃん、移籍の話って本当なの?」
「ええ、3月で契約が切れるから、これを機に星プロでお世話になろうかと思ってるの。
長かったわ。でも、これで漸く純くんと一緒に仕事ができるのね」
学校で訊く美咲ちゃんも美咲ちゃんだが、それに答える香織ちゃんも香織ちゃんだ。
てかやっぱりか。おそらくはJUNの正体を知った時から考えていたのだろう。
「解っちゃいたけど本っ当迷いが無えのな…」
周囲の反応は驚くよりも呆れながらも当然かと受け容れるというもの。
いや本当、河合じゃないけど迷いも無ければ隠すことすらもしはしない。
まあ香織ちゃんの好意は学校じゃ既に知れ渡っているわけだし、みんなからすれば今さらで納得の理由だ、そんなわけでいつものように惚気を聞かされた程度の反応だったわけである。
ただ、それは学校の連中だからの反応なのであって……。
▼
「はあっ⁈ なんですかそれっ?」
週末、いつものように事務所へと向かったオレは聖さんからとんでもない話を聞かされた。なんでも星プロと大東プロで関連会社を設立するという話だ。
元々はうちだけで子会社を設立するという予定だったらしい。ある程度の規模の大きな企業ではよく聞く話で、別に怪訝しな話というわけではない。理由はいろいろとあるのだろうが、そこはまあ上の人間の考えることでどうせ税金対策とかそんなところだろう。
というわけで、それだけならオレとは無関係な話……ではなかった。オレを独立させるという話だった。どうやらリトルキッスやフェアリーテイルの成功はそこまでのものだったらしい。いったいどれだけの黒字が出てたんだよ…。
「ちょっと待ってくださいよっ。聞いてないですよ、そんな話っ」
全く以て寝耳に水だ。
新会社を興すのは勝手だけど、どうしてそんな話になる?
「あの、解ってます? オレって経営とかそういうことの解らないただの一介の学生ですよ」
二重表現で以てしても足りないくらいにオレはそんなことなんて解らない。だってそういう教育を受けた良いところの坊っちゃんってわけじゃないんだし。
「そこは心配しなくても大丈夫だよ。そういう人達が役員として送られてくるから。だから君は今までどおりにプロデューサーとして励んでくれればいい」
まあそうだろう。なんてったって子会社なわけだしそういう人達は送られてくる。オレがそんなことに関わらなくたって……いや、却って関わらない方が巧く回るだろう。それこそ余計なことなんて考えてないで黙ってプロデューサーだけしてればいいってのが親会社の本音に違いない。要するにオレはただの道具に過ぎないってわけだ。
なるほど、それならそこは納得がいく。
でもだからって…。
「なるほど、そこは解りましたけど、それでもやはり問題ありです。どう考えてもオレに期待し過ぎ、18歳の若僧には重責が過ぎるってもんです。
そりゃあリトルやフェアリーという実績はありますけど、それは彼女達の努力と実力の成果です。そのことはWISHやBRAINの微妙な状況を見れば一目瞭然でしょう。
まあ確かに、謙遜無しで言えばオレにも多少の自信は無いわけじゃないですけど、でもそれはしっかりと経験を積み重ねた将来の話で決して今じゃないんですよ」
そんなわけでと続けて断わるつもりだったが……。
「ははは、まあ君ならそう言うだろうね。実際そういうことを心配する者もいたと聞いているよ。
でもそこは私が相談役に納まるってことで話が着いているから心配していいよ。もちろんそれは建前とかじゃなく本当にいろいろと相談に乗るから安心してくれ」
どうやらうちの上の方の意見は纏まってしまっているようだ。ならばもう決定事項で覆りそうにないな…。
いや、ならばアプローチの方向を変えてみるか。
「でも、この話って大東プロも絡んでるんでしょ? だったら向こう側の意向ってやつもあるんじゃないですか。
正直JUNの正体を知って話が纏まるとは思えないんで、それこそ聖さんなり他の人なりで相応しい人物に任せた方がいいと思うんですけど」
うちが駄目ならば大東プロだ。常識的に考えて、オレみたいな若僧を上に据えようなんて話を認めようわけがない。
「そっちの心配も要らないよ。なんてったってそれを承知の上での申し入れだからね。
さっきも言ったけど元々はうちだけでの予定だったんだし、不満だっていうのなら彼ら無しで設立するだけの話だよ」
ああ、そう言えばそうだった。
どうやら無駄なことを訊いたようだ。
でもそうなると疑問がある。
「そう言えばなんで大東プロと共同でって話になったんですか? 正直うちにそんな義理なんて無いですよね?」
うちと大東プロはライバル関係だ。
実際去年はWISHとBRAINがエルダーシスターズとトリニティに煮え湯を呑まされてる。
とはいえリトルやフェアリーの活躍はあるし、香織ちゃんの移籍の話だってある。まあ実際は決まったわけじゃないけど香織ちゃん本人はその気だ。
そんな状況でなぜ相手に塩を送るような真似をする必要がある?
香織ちゃんの移籍に対する負い目か?
「ああ、それはちょっとね。
ほら、例の加藤香織の噂があるだろ。あの件で大東プロから苦情がきていてね」
ここでその話が出てくるのか。
そりゃあ大東プロ側も自分の事務所の稼ぎ頭が移籍を望んでるっていうんだから当然引き留めるし、移籍先やその理由についても調べるってものだろう。てか、香織ちゃんのことだから隠そうともしなかったんじゃないだろうか。まあさすがに香織ちゃんも確実を期すべく慎重にことを運ぼうとしただろうからギリギリまで隠していただろうけど。
で、当然香織ちゃんの慰留に失敗。
とはいえ大東プロ側もこのまま手を拱いて ただ傍観ってわけにはいかず、結果苦肉の策として今回の話を持ち出してきたってことだろう。
なお、苦情というのは香織ちゃんの引き抜きについて。オレを使って香織ちゃんを唆したっていう容疑だ。
もちろんオレはそんなことなんてしていない。とはいえ自分で言うのもなんだが香織ちゃんはオレにぞっこん惚れ込んでいるわけで、結果こういう話になっている。唆さずとも誑かせば同じというわけである。オレにはそんなつもりなんて無いっていうのに…。
まあともかく、端から見ればそう映るわけで、末端ならともかく主力のタレントを引き抜くその行為は業界の仁義に悖るというわけである。
で、結局どういうことになるのかというと、この共同設立事務所所長にJUNを据え、そこに両事務所からいくつかのアイドルを所属させるということだ。うちからはリトルキッスやフェアリーテイルといったオレのプロデュースするユニット達が予定されており、そこに大東プロから香織ちゃんを始め幾人かのタレント達が移籍してくることになるという。
これが両事務所による協議による妥協点ということらしい。
聞けばなんか両事務所の人気アイドルを集めたファン達にとっての夢の事務所ってことになりそうだ。おそらくはうちのリトルキッス以外にも、香織ちゃん達大東プロの連中のプロデュースすることになるのだろう。
……なんだよそれ。日本屈指のアイドルの集う事務所でオレがそのプロデュースをするだと? これじゃ絶対に失敗できないじゃないか。
いや落ち着け、やることは今までとそう変わるわけじゃない。そう、少し数が増えるだけだ。
責任は重く期待は大きいがそれだけオレが認められたってことだ。ならばそれに応えるまで、それが男ってものだ。
今までだってなんとかやってきたんだ、きっとできる。自分が自分を信じなくっていったい誰が信じて付いてくるってんだ。
よし、それじゃやってやるか!
※1『手を拱いて』、一般的には『手を拱いて』と読み、『拱手傍観』という四字熟語でも知られるこの言葉は『何もせずただボケっと見てるだけ』という意味。いや、実際には腕を組んで考え込み唸っている状態なのですが、結局はやはり何もしていないわけで…。
最近では『準備して待ち構えている』なんていう勘違いをしている人が多くいるそうですが、これってやはり『手を拱いて』を『手で招いて』と勘違いしているってことなのでしょうか。
[Google 参考]
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




