新生SCHWARZと初めてのハコ
二学期も終わり冬休みとなった。世間ではクリスマスなんて浮かれているが生憎オレ達にはそんなものに感けているような余裕は無い。美咲ちゃんと天堂は終業式終了後直ぐに仕事へと向かって行き、当然ながら佐竹も理由を付けて去って行く。
年末年始のタレントはいろいろと仕事が入っていて忙しいのだ。
もちろんプロデューサーのオレも同様に仕事が多い。だってユニットを4つも抱えてるわけだし。特に来年は活動休止が決まっているWISHの意気込みが凄く、それに応えようと思えば当然その分忙しくなる。
忙しいのはなにもプロの芸能人とかに限ったことではなく、そうでない者にだってそういう者はいる。アマチュアバンドを組んでいるSCHWARZも同じで、夕刻からはライブの予定が入っている。あと年明け直ぐにもひとつ予定が…。
これまではこちらからライブの予定を取りにいっていたが例の学園祭ライブ以降ライブハウス側や他の主宰者からの出演依頼が入ってくるようになった。当然チケットの販売ノルマなんてものは無く、逆に出演料が入ってくる。やはりSNSってやつには計り知れない影響力があるようだ。
というわけでオレも公私に亘りいろいろと多忙なわけだ。まあSCHWARZの件は正確にはちょっと私的とは違うかも知れないけど。
というわけでクラスメイト達と別れたオレは河合達と共にライブハウスへと向かう。今回はいつもの『WYVERN』ではなく、そのオーナーの知り合いの経営するライブハウス『DRAGON KINGDOM』。最大収容人数600人という『WYVERN』の三倍規模のハコだ。
さすがに1000人以上のいわゆるオオバコってわけじゃないけど、それでも第一線で活躍するアーティストの出演だってあり得るくらいに大きく、このレベルの大きさだと個人での利用が難しくなってくるという。
こんな大きさのハコでのライブはSCHWARZにとっては初めてで、しかも今回はそんなところからの出演依頼だ。リトルでいろいろと熟してるオレはともかく他のメンバー達じゃさぞかし緊張することだろう。
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「うわぁ…、凄な…。早くも満員だぜ…」
開場から間も無くして満員となった会場に瓶子が圧倒される。
「ああ、俺達、本当にここでやるんだよな…」
続けて木田が尻込みの声を洩らす。
「なんか、お腹が痛くなってきた気がする」
当然小心者の虎谷も……って、おい、間違えても漏らしてくれるなよ。
「ま 、まあ俺達の舞台はやはりこれくらいじゃないとな」
河合が強がってみせているけど、吃ってるところをみると明らかに物怖じしているのがまる解りだ。
ただ、それでもこうして気概を見せているのはムードメーカーとしての自覚があるからだろう。
「ああ、河合の言うとおりだな。
まあプロを目指すからにはいずれは必ず通る道だ。ならばせっかくだし、この客達全部オレ達のファンにしてしまおうぜ」
せっかく河合の心意気だ、オレもそれに乗って士気の立て直しを図ることにしよう。
「…ったく、前から思ってたけどお前って本当に強心臓だよな」
「うん、いかにも毛が生えていそうだよね」
オレ達の言葉に木田と虎谷が軽口で応えてくる。
ところでそれってオレのことじゃあないよな?
まあ取り敢えずは褒め言葉ってことで取っておいてやることにしよう。
いよいよ開演の時間となった。
一番手はOBK。兄貴達デスペラードとはアマチュア時代から付き合いがあるバンドで、その縁もあってオレ達とも面識がある人達だ。
そんな彼らは『WYVERN』の常連で、その実力はなかなかのものなんだけど、そんな彼らでもここではこんな扱いなんだ…。なんだかショックだ。
いや、それでも一番手ってのは結構重要なポジション、必ずしも無下にされてるというわけじゃないはず…。
やはりOBKの実力は確かで会場はなかなかの盛り上がりだった。
いつもと違う大きめのハコでも、そんなの関係なしといわんばかりのそんな演奏は頼もしく、それはまるで緊張に押し潰されそうなオレ達SCHWARZに対するエールでもあるかのように感じられた。
二番手はアイドル色の強い女子高生バンド四人組。NATUREという名前らしい。
まさかとは思うけど彼女達がロックをやるってのか?
まさかだった。
そういや最近その手の漫画が流行ってたもんな。
そんな彼女達の演奏する曲は『God knows…』。有名アニメ内で一度だけ流れた曲だというが、そのくせその人気は高い。
高がアニメの挿入曲と馬鹿にすることなかれ。女性が歌うだけならともかく(男性が歌うにはキーが高くてキツいらしい)演奏は、特にギターの難易度が洒落にならない。イントロの六連符と最終盤のギターソロが鬼門といわれ、多くのギタリスト達を泣かせているという。少なくとも木田じゃ無理だ。
というわけで、この曲は正に神のみぞ知るな曲なわけだ。
まあそれもそれなりに難易度を落としたアレンジをすれば初心者でもなんかなるレベルとなるのだが。
実際彼女達はそうしていた。
いや、そう言うとなんだって思うだろうけど、でも自分達の限度を知ってそれに合わせることを知っているってことは重要だ。それにそのアレンジだが、自分達の限界ギリギリを攻めているようで結構そのレベルは高い。もしこの調子で実力を付けていけば、いずれはそれなりのレベルで熟せるようになるだろう。
う~ん、序盤の出演者でこれか…。この分だとここは結構レベルが高いやつが多いと思った方がいいかも知れない。
その後も予想どおりレベルの高いやつらの演奏が続いた。
そしてオレ達の出番がきた。
なお、それはトリのひとつ前という微妙な位置。ここのレベルの高さを考えれば納得いかないこともないか。
でも、例のSNSの件のこともあって結構自信があったんだけどなぁ…。
まあ仕方がない、その不満はこれからの演奏にぶつけることにしよう。
いや、違うな。そんなつまらないことをするんじゃなく、オレ達の実力を示してその評価が間違いだったとこの場の全員に思い知らせてやるべきだな。
よし、それじゃやってやるか。
※作中にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




