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『雪の華』

 失敗した。やらかしてしまった。

 何をと問われれば、曲制作のことである。

 11月末に、試験準備期間を利用して曲制作を行なったのだが、その時に余計なものまで作ってしまったのだ。

 だって、インスピレーションが湧いてきたんだし、仕方がないと思う。

 作った曲は、『雪の華』

 実は演歌である。

 今回は悪巫山戯ではなく、それでもいいと思って作った曲だ。

 作ったこと自体は後悔してないんだけど、その後が問題だった。


          ▼


 某国営放送の番組をなんとなく見ていた時のことだった。

 オレは、テレビ画面に映った、白く美しい花を咲かせた樹々に、思わず目を奪われてしまった。

 それは、真冬の氷点下にて起こる自然現象の発現。

 凍てついた世界の中、極寒に耐える樹々の枝に、大気中の水分が付着することで結晶化を始め、幾つもの薄い氷の層を生み出し、成長させていく。

 そうやって、(えが)かれた大自然の芸術。

 それは、『樹氷』と呼ばれるもので、正に『雪の華』と呼ぶに相応しいものだった。

 こうして、オレの感動を表現した結果、この『雪の華』という曲が出来上がっのだった。


 すっかり、いい気になったオレは、それを聖さんに提出(みせ)てしまった。

 その結果、この曲は聖さんにより演歌として採用されることとなった。

 結構、気にいってしまったこの『雪の華』

 その曲調はもともとやや演歌より。

 なので、特に不満も抵抗もない。自分でもそっち向きだと思ってたし。

 ただ、恋愛絡みの歌詞は苦手なため、それなりに修正が入ることになったわけではあるのだが……。


          ▼


「JUN氏に会わせてくださいっ」

 プロデューサーの聖さんに対し、こう口にしたのは、演歌歌手、如月皐月のマネージャーの如月弥生だった。

 如月皐月は、先の『雪の華』を歌うことになった歌手であり、その曲は、来月2月に発売されることになっている。

 そんな彼女とそのマネージャーが、JUN(オレ)にいったいなんの用だというのかといえば…。

「悪いけど、彼は極力、他者との面会を避けているんだ」

「ならばせめて、彼に定期的な曲提供の依頼の話だけでも」

 つまり、この人達も千鶴さんと同じような用件というわけだ。

 そういえば『恋花火』もこの如月皐月だったよな。

「それも無理だ。一応、彼はこの子達、リトルキッスの専属ということになってるんでね」

「ですが、長谷川千鶴は曲提供を受けてるじゃないですかっ」

 執拗(しつこ)く粘る如月弥生マネージャー。

 マネージャーってこれくらいじゃないと、務まらないのか…。

「悪いけど、無理ですよ。

 オレ達のことだけで手いっぱいだし、余力なんてないですよ。実際、それゆえの非常勤なんだし。

 千鶴さんの件は偶々(たまたま)ですよ」

「子供が横から、口を……。

 そういえば、あなた、JUN氏と親しいんだったわね。

 だったら、お願い。あなたからも頼んでちょうだい」

「ええ〜っ。

 だって子供が大人の話に口出しするのもなぁ〜」

 冗談じゃない。誰があんなこと言われた直後に、うんなんて言うものか。

「そんな意地悪言わないで、ねえ、お願い」

 全く、調子のいい大人だ。

「ねえ、ねえ。お願い。お願いってば。ねえ。」

 てか、え〜い、鬱陶しい。

「判った。判りました。

 とりあえず、頼んでみますから。

 但し、期待はしないでくださいよ。

 あくまで、オレ達の方が優先なんだから」

 結局、押し切られてしまった。

 余計な口出しするんじゃなかった。

 とんだ藪蛇だ。ちくしょうっ。


 後日、オレは「余裕がある時に、気が向いたら考えるそうです」と、返事を返したのだった。

 そう、“余裕がある時”、“気が向いたら”、“考える”と、玉虫色の返答である。

 …………って上手くいったのか不安だ、千鶴さんの例もあるし。

 まぁ、いっか。

 その時はその時で考えよう。


※作中のルビには、一般的でない、作者オリジナルの当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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