『雪の華』
失敗した。やらかしてしまった。
何をと問われれば、曲制作のことである。
11月末に、試験準備期間を利用して曲制作を行なったのだが、その時に余計なものまで作ってしまったのだ。
だって、インスピレーションが湧いてきたんだし、仕方がないと思う。
作った曲は、『雪の華』
実は演歌である。
今回は悪巫山戯ではなく、それでもいいと思って作った曲だ。
作ったこと自体は後悔してないんだけど、その後が問題だった。
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某国営放送の番組をなんとなく見ていた時のことだった。
オレは、テレビ画面に映った、白く美しい花を咲かせた樹々に、思わず目を奪われてしまった。
それは、真冬の氷点下にて起こる自然現象の発現。
凍てついた世界の中、極寒に耐える樹々の枝に、大気中の水分が付着することで結晶化を始め、幾つもの薄い氷の層を生み出し、成長させていく。
そうやって、画かれた大自然の芸術。
それは、『樹氷』と呼ばれるもので、正に『雪の華』と呼ぶに相応しいものだった。
こうして、オレの感動を表現した結果、この『雪の華』という曲が出来上がっのだった。
すっかり、いい気になったオレは、それを聖さんに提出てしまった。
その結果、この曲は聖さんにより演歌として採用されることとなった。
結構、気にいってしまったこの『雪の華』
その曲調はもともとやや演歌より。
なので、特に不満も抵抗もない。自分でもそっち向きだと思ってたし。
ただ、恋愛絡みの歌詞は苦手なため、それなりに修正が入ることになったわけではあるのだが……。
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「JUN氏に会わせてくださいっ」
プロデューサーの聖さんに対し、こう口にしたのは、演歌歌手、如月皐月のマネージャーの如月弥生だった。
如月皐月は、先の『雪の華』を歌うことになった歌手であり、その曲は、来月2月に発売されることになっている。
そんな彼女とそのマネージャーが、JUNにいったいなんの用だというのかといえば…。
「悪いけど、彼は極力、他者との面会を避けているんだ」
「ならばせめて、彼に定期的な曲提供の依頼の話だけでも」
つまり、この人達も千鶴さんと同じような用件というわけだ。
そういえば『恋花火』もこの如月皐月だったよな。
「それも無理だ。一応、彼はこの子達、リトルキッスの専属ということになってるんでね」
「ですが、長谷川千鶴は曲提供を受けてるじゃないですかっ」
執拗く粘る如月弥生マネージャー。
マネージャーってこれくらいじゃないと、務まらないのか…。
「悪いけど、無理ですよ。
オレ達のことだけで手いっぱいだし、余力なんてないですよ。実際、それゆえの非常勤なんだし。
千鶴さんの件は偶々ですよ」
「子供が横から、口を……。
そういえば、あなた、JUN氏と親しいんだったわね。
だったら、お願い。あなたからも頼んでちょうだい」
「ええ〜っ。
だって子供が大人の話に口出しするのもなぁ〜」
冗談じゃない。誰があんなこと言われた直後に、うんなんて言うものか。
「そんな意地悪言わないで、ねえ、お願い」
全く、調子のいい大人だ。
「ねえ、ねえ。お願い。お願いってば。ねえ。」
てか、え〜い、鬱陶しい。
「判った。判りました。
とりあえず、頼んでみますから。
但し、期待はしないでくださいよ。
あくまで、オレ達の方が優先なんだから」
結局、押し切られてしまった。
余計な口出しするんじゃなかった。
とんだ藪蛇だ。ちくしょうっ。
後日、オレは「余裕がある時に、気が向いたら考えるそうです」と、返事を返したのだった。
そう、“余裕がある時”、“気が向いたら”、“考える”と、玉虫色の返答である。
…………って上手くいったのか不安だ、千鶴さんの例もあるし。
まぁ、いっか。
その時はその時で考えよう。
※作中のルビには、一般的でない、作者オリジナルの当て字が混ざっております。ご注意下さい。




