WISHとBRAINとそのライバル
いろいろとあった学園祭も終わり今年もタレント人気ランキング発表の時期がやってきた。
今年はライバル事務所の大東プロの新人達に不覚をとったり、学園祭でのあれこれだったりと問題があったため些か不安がある。いくらかは順位の落ちてる可能性を考えていた方がよいだろう。
で、その結果はというと……。
まずは男性部門。
いや、なんというか、今年はスランプ気味だったせいか……というよりも、素直に言えば例のフェアリーテイルのやらかしの件の結果を知るのが怖い。だって絶対に影響が出ているはずだし…。
我ながら往生際が悪いとは思ってるのだが、それでも怖いものは怖いのだ。
「あっ、鳥羽の名前がある」
91位 羽鳥翔。ほぼ現状維持だが一応順位が上がっているようだ。
「あっ、本当だ。他にも稲葉さんや吾妻さん、他のメンバーもみんな100位以内に入れたみたい」
俺の発見に美咲ちゃんが相槌を打つ。
言われたふたりについて探してみれば、96位 吾妻響也、86位 稲葉飛鳥とある。名前は未だよく覚えてないけど、おそらくは他のメンバーも似たような順位なのだろう。
「おおっ⁈
見ろよっ、俺達の名前が載ってるぞっ」
浩司が興奮の声を上げた。
「ええっ⁈ マジでっ⁈」
「ほ、本当だ。マジで載ってる」
それに良昭、健二が続く。
84位 伊達浩司、87位 最上健二、89位 佐竹良昭。
うん、確かに載ってる。
今年の高校生クイズ大会での結果はイマイチだったけど、それでもこうしてこの結果が出たのはこいつらの努力の成果というべきだろう。
「こうしてBRAINがランク入りしたってことは今年は私も期待ができる?」
同期のデビューということもありWISHの三人も沸き立つ。
確かにその可能性はありそうだけど、でも去年のデビュー時のイメージがあるしどうだろう。まあそれでも努力のせいか最近はそれも払拭されつつはあるのだし、少しくらいは報われてほしい思いはある。
「うげっ⁈ 俺らここでも負けてんのかよっ」
浩司が顔を顰めさせた。
原因は二つ上の順位にある名前。
82位 諸星均。
他にも77位に諸星勤、72位に諸星亮の名がある。
トリニティだ。
今年散々に煮え湯を呑ませてくれたライバル事務所の大東プロの三人組はここでもBRAINの上をいっていたのだ。
「そういや女性部門にも去年デビューの新人がいたな…」
健二が不安を口にした。
なるほど確かにその可能性はある。WISHに対抗するかのようにデビューしたエルダーシスターズの三人組だ。
まあそれに関しては仕方ないだろう。彼女らのランキング入りはともかくとして、WISHのそれは難しいかも知れないし。そんなWISHが彼女らを上回るっていうのちょっとばかり考えづらい。
まあ取り敢えず男性部門はこんなものか。
強いて言うならSUCCESSの隆さんが30位、功さんが26位、あとは……。
「あっ、天堂くん、今年は7位だ」
7位 御堂玲。去年と比べて一つ順位を落としてはいるけど、それでもやはりのトップ10入り。
本当、こいつは相変わらずだ。
さて、それではいよいよ女性部門。
例によってこっちも下位から。
「嘘……、100位……」
100位 倉沢かなえ。
いったい何がショックで呆然としているのか知らないが、おそらくは身の程知らずなことを考えてるのだろう。本人は知性派を気取っていているが所詮こいつらはどんぐりの背比べ、多少程度の違いはあるだろうが頭の中身は、結局考えることはほぼ同じだし。知性と理性は違うってわけ……って、こいつじゃそれも怪しいか…。
「ええ~っ⁈ 嘘ぉ? なんでぇ~⁈」
99位 高橋珠恵。
と言っても100位のかなえとの票は僅差だ。
本人はこの順位に納得いかないようだけど、ランクインできただけでも上等だろう。なんてったってデビュー時のイメージがあるしな。
「ちょっと、なんで私がこの順位なのよっ⁈」
96位 高部望。
やはりこいつも納得いかないと憤慨している。
いや、十分だろ。なのになぜそんなに腹を立てる? 怒りの矛先が誰かは知らないがそれは筋違いってものだ。
「まあでもメンバーじゃ一番だったわけだし、一応リーダーとしての面子は立ったってことで…」
ミナが宥め賺そうとするが…。
「やめなさいよ。その慰め方ってメンバー間で揉める元だから」
レナじゃないけどそのとおりだと思う。
最近じゃ少しは纏まってきたけれど、元々はこいつら仲間同士でもライバル意識が強いのだ、これじゃこいつらを煽ったようなものだ。
「ちょっと、それってどういうことっ⁈ 望がリーダーなんて誰が言ったのよっ⁈」
「そうよっ、何も知らないくせに横から勝手なこと言わないでよっ!」
ああ、やっぱり。
なお、かなえと珠恵が喰いつくように責めるが、ミナは理解をできずにきょとんとして首を傾げるばかりだ。
「えっ? メインがリーダーじゃなかったの?」
同様に怪訝に思ったのだろうレナが疑問を素直に口にした。
「ねえ、もしかして決めてなかったの?」
佐竹が呆れたように問い掛けてきた。
実をいうとそのとおりで、それについては曖昧にして敢えて決めてはいなかった。
だってせっかく最近纏まってきたってのに、そこに再び揉め事の種を蒔くようなことなんてしたくなかったし。
でも、やはり面倒でも決めないってわけにはいかないんだろうな…。
「はあ……。そうだよな。
解ったよ。この際だから役割を決めてしまおう。
いいですよね? 聖さん、晴海さん」
ということで、ふたりの許可を得られたところでどのようにするかを考える。
う~ん……。
「まずリーダー。これは望だ。
続いてサブリーダーが珠恵。
最後に参謀がかなえだ。
一応今回のランキングを参考に決めたわけだけど、だからってそれで序列云々っていうわけじゃなく、あくまでもこれは各々の役割に過ぎないから、変に勘違いしないようにな。
リーダーの役割は言うに及ばず。
サブリーダーの役割はそのサポート。
で、ふたりは参謀にいろいろと相談しながらマネージャーとよく物事を諮ること。
てことでいいですか? 聖さん、晴海さん」
再びふたりの許可を取る。これで正式に決定だ。
いくらかの不満はあるだろうけど、それでも上司からの業務命令だ、従わないわけにはいかない。
まあ一応根拠もあるわけだし、建前もある。そんなわけでこいつらも、仮令渋々であろうとも大人しく受け容れてくれることだろう。
さて、それじゃあ中断したランキングの確認の再開だ。
「げ、あの三人、私達より順位が上だ」
珠恵が女の子らしからぬ口調で驚く。
なんでだよ? 自分達の順位を考えれば当たり前の結果だと解るだろうに。
で、その相手であるエルダーシスターズの順位だが、93位 姉小路久子、92位 万代寧子、90位 長部永遠となっていた。あの子達ってこんな名前だったんだ。
「なんだ、順位的には射程圏内じゃないか。これならがんばり次第じゃなんとか……いや、来年は三人とも受験があったか、それじゃ勝負はその次になるな…」
WISHの三人を宥めるつもりだったが、よく考えたらこれは失敗だった。
「だったら来年も休まずに活動するだけです」
「賛成。来年こそはリベンジです」
ああやっぱり。負けず嫌いなこいつらなら絶対にこう言うと思った。
「いや、ダメだって。うちは基本、仕事よりも学業優先なんだよ」
「なんでですか⁈ BRAINも同じ受験生なのに休まずに活動するんでしょ? だったら私達だって――」
珠恵が不服だと口にする。
「こいつらは例外だよ。こいつらはそういう条件の契約だしな。
だいたいお前らもBRAINの由来は知ってんだろ。BRAINの名前は伊達ってわけじゃねえんだよ」
そう、WISHとこいつらじゃ頭のできが違うのだ。
そりゃあ確かに相応にレベルの高い学校を受けるのだから本来ならこいつらにもそういう休みは必要だろう。だがこいつらには本命以外の滑り止めの方ならほぼ間違いなく受かるだけの成績がある。なので安心して仕事もできるわけである。
そう、執拗いようだがこいつらは頭のできが違うのだ。
「心配しなくてもそこは純くんに任せとけば大丈夫だよ。実際、ミナちゃん達の例があるわけだしね。だから安心して休みを貰っておけば良いよ」
「ああ、それは私が保証するよ。咲ちゃんじゃないけどそのことはフェアリーテイルでの実績を考えればよく解ると思う」
美咲ちゃんの説得に聖さんが続く。この時点で有無を言わさず完全に業務命令だ。まあそういう意図ではないだろうけど。
というわけで来年のWISHの活動休止は決定である。その分オレに責任が重く伸し掛かって くるわけだけど、まあそんなのは今さらだ。それがオレの仕事なわけだし期待を裏切らないようがんばるとしよう。
※1『のし掛かる』は漢字だと『伸し掛かる』となるそうです。作者はずっと『載』かと思っていたのですが『伸』なんですね。
『載せて掛かる』のではなく『伸ばして覆い被さる』ので『載す』のではなく『伸す』なんだそうです。なるほど比重が違いそうです。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




