勝って兜の緒を締めよ
すみません、思った以上に休んでしまいました。
この間なにをしてたかといえば、参考にと他の投稿者の作品を読んでみたり、自身の別作品の投稿の方を進めてみたりで、お陰で結構良い気分転換になりました。
で、その別作品の方ですが一応けりがついたので、こちらの方を再開します。
といっても、いきなり毎日はつらいため、おそらくは間隔を空けてということになりそうですが…。
それでもなんとか投稿はしていくつもりなので、これからも是非よろしくお願いいたします。
オレ達のステージは無事終わった。
会場はオレが何者かと騒ついているが、それは想定の範囲内だ。
その正体については秘密としているが、会場からは亜姫じゃないかという声が多く聞こえてくる。ただ、オレも衣裳や化粧で雰囲気を変え、加えてお面まで顔を隠したりしているためそれは臆測の域に留まっている。
うん、正に計算どおり。
ただ予定外のことがひとつ。オレがリーダーにされたことだ。
そんな気なんて無かったのにこれだけの人間達の前で求められてしまっては断わりたくとも断わりづらく……。
くそっ、こいつら覚えてろよ…。
まあそれは置いておくとしても、オレ達のステージは好評の内に終わったのだ。
「ちっ、まだそんなやつを隠してたのかよ」
ステージを下りるオレ達を見て、辛島達が忌々しに舌打ちした。
全く、なんでこうも敵視してくるかな 。
こいつらマスタードボムって飯塚さんの下でプロデビューが決まっているっていうし、これからデビューを目指すSCHWARZとは立場が逆のはずなんだけどな。
「へっ、見てやがれ。今盛り上がってる連中の注目全て俺達の実力で奪ってやるぜっ」
いや、だから格下相手になぜそう対抗意識を持つかな。飯塚さん、こいつらになんか変な課題でも出したのか?
オレ達を威嚇するかの言葉を残しトリのステージへと向かっていく辛島達。
でもこれじゃ…。
「へっ、弱い犬ほどよく吠えるってか?
あれって絶対負けフラグだよな」
あっ、河合のやつ、オレが思ったとおりのことを口にしやがった。
いや、別にあいつらが弱い犬とは思ってはいないけど、でもこの流れがそんな予兆に思えたのは確かだ。
「まあ取り敢えずはお手並み拝見ってところだな」
そんな河合に続く瓶子も、内心河合と同じことを思っているのだろう、言う台詞からは余裕が感じられる。多分さっきまでのステージの好感触の余韻のせいだろうな。
「だな。それじゃ高みの見物と洒落込もうか」
はは…、木田も同じか。
でもどうなんだ、この当事者感の欠片も無い第三者視点で俯瞰する感じは。自信を持つことが悪いとは言わないが、この明らかに格下を見下す感じは増長し過ぎというものだろ。
「あ~、うん。やっぱりプロから声の掛かる相手だしその実力は気になるもんね」
虎谷の反応は……微妙だな。こうして相手の実力を気に掛けているのを見れば増長してるとは言い難いけど、こいつのいつもの臆病さを考えると余裕の有り過ぎなこの感じは心配になってくる。
「お前らな、自信を持つのが悪いとは言わないけど、だからって過信は禁物だぞ。
お前らは…否、オレ達だったか。ともかくオレ達はまだプロデビューすらしてないアマチュアなんだからこの場にいる他のバンドのやつらと同じなんだよ。
だいたい上にはまだまだ上がいるし、下からも後続が追い掛けてくる。だから余裕なんて噛ましてる暇は無いってんだ」
勝って兜の緒を締めよってやつだな。成功の後の気の弛みってのは何かと失敗の因だしな。
「後から来たのに追い越され、泣くのが嫌ならってやつか?
水○黄門じゃねえっての」
おい河合、真面目な話をしてるってのに茶々を入れてくれんじゃねえよ。
てか、これって10年以上も昔のTV番組なのに未だに人気なんだよな。さすがは42年もシリーズで続いた怪物番組。平均視聴率は22.2%、最高視聴率43.7%の知名度は伊達じゃないな。
「別に挫けてるわけじゃないけどね」
当然その主題歌も有名で令和世代の虎谷がこうしてツッコミを入れる程だ。
……って、今はそんな話をしてるんじゃなかった。
「はは、それはともかく、男鹿も相変わらず固いよなぁ…。
まあでもリーダーを務めるやつはこれくらい堅実な方が安心か」
瓶子が横道下に逸れた話を元に戻し、オレの意見を支持した。
やはり元リーダー、こういういうところはさすがだな。ただ、呆れながら台詞なのが気に入らないが、まあそこは冗談と流しておこう。
さて、オレ達SCHWARZにライバル心剥き出しの辛島率いるマスタードボムだが、なるほどその実力はなかなかのもので引き続き会場は盛り上がっている。
さすがは言うだけのことはある。以前見た時よりも一層実力を付けたようだ。オーディションの時に有った問題点も随分と改善されている。きっと飯塚さんの指摘があったんだろう。もしかすると指導もあったかも知れないな。それを思わせる程の実力になってるし。
マスタードボムが最後の曲を終えた。
これにて今日のこのイベントも終わり……というわけでなく、この少し後にはアンコールが待っている。
通常はトリのバンドが務めるものだが、今日のこのイベントでは違っていて…。
沢渡がオレ達の元へやって来た。
いったいなんの用かと思えば…。
「はあっ⁈ オレ達にアンコール?」
「ええ、会場の客達の投票であなた達がアンコールに選ばれたの」
沢渡の言葉に驚愕…ということはない。あのときの様子からそんな気がしていたし。
「へっ、辛島達、ざまぁだな。
やっぱりあれはフラグだったぜ」
河合が満足げに嗤う。
まあなぁ…。オレにもあれは強がりの捨て台詞にしか聞こえなかったし、そんな予感がしてたからなぁ…。
「あ、それだけど、あなた達だけが選ばれたわけじゃないわよ」
え? どういうことだ?
会場の客の投票以外で選ばれるやつがいるとは聞いてないが?
見ればオレだけでなく、河合や瓶子達もどういうことかと首を傾げている。
「同一首位が他にいるのよ。
相手はマスタードボム。最後のトリを任されてた子達よ」
「はあっ⁈ マジでっ⁈」
さすがに今度は驚いた。
河合なんて問い直して確かめてるし。
まあ、あれだけ勝ち誇るように喜んでいたわけだしな。気持ちは解らないこともない。
やはり油断は大敵だな。
これがメンバー達の良い薬になることを祈りたい。




