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純、SCHWARZのメンバーを殴る

 今回は微妙にR指定です。

 なんのことか解らない方はそのままピュアなままでいてください。(笑)

 学園祭軽音楽部ライブ午後の部が始まった。

 オレは高階達と別れ、今は河合達SCHWARのZメンバーと出演者達の集うステージ裏に居る。

 まあSCHWARZの出番は最後から二番目なので時間に余裕はあるのだが、それでもこっちで控えている方がなにかと都合が好いためだ。


「んだよ、浮かない顔しやがって。

 さすがのお前でもやっぱり初舞台ってのは緊張するってか?」


 木田がオレに訊ねてきた。

 実は今日のSCHWARZのステージにオレはキーボード担当として参加する予定だ。いや、正しくはシンセサイザーなのだが。


「違うって。お前らと一緒にすんじゃねえよ」


 当然木田の言うことは違う。こんなのプロのアイドル早乙女純として活動してきたオレには既に慣れっこで今さらだ。


「じゃあなんだっていうんだよ。これから本番が控えてるってのにリーダーのお前がそれじゃ士気に関わるだろ。もう少ししっかりしろってんだ」


「ちょっと待てよ。なんでオレがリーダーなんだよ? 今回のオレはただのサポートゲストのはずだろ?」


 そう、オレは正規メンバーではなく、あくまでもこいつらを支える裏方だ。だからこそのキーボード担当なんだし。

 河合をボーカルに据えたのだってそうだ。あくまでもSCHWARZはこいつらのバンドでオレはそれをプロデュースする立場だ。

 それなのに、なんでこいつはこんなことを…。


 いや、確かに導く者っていう意味ではそういえるのかも知れないけど、オレとしては引率者 (※1)的な脇役のつもりで、先導者 (※1)としての主役を引き受けるつもりはない。陰に控えるボス (※2)ならともかく、現場で活躍するリーダー (※2)ってつもりは無いのだ。いや、これも不本意ではあるのだが。

 でも、ゲストでキーボード担当とはいえ表に出てきた以上それも変わってくるのだろうか…。


「いや、ゲストとか言ってないで、いっそ正式に加入しちまえよ。なんだかんだでお前無しじゃなんにもならないんだから」


「あ、それ賛成。実際僕達のバンドって、結局は男鹿さん頼りだもんね」


 おいおいおい、木田だけでなく虎谷もかよ。こいつらどれだけオレに依存してんだよ。

 自分達の意志でやってるんだからもう少しそういう意識を持つべきじゃないか?


「いや、そんなことはないだろ。

 そりゃあいろいろとオレも尽力しているし発端は例の企画だけど、でもそれを一回こっきり (※3)で済ませるんじゃなく正式にバンドとして活動したいと言い出したのはお前達だろ。だからやっぱりSCHWARZはお前らのバンドなんだよ」


 全く呆れたやつらだな。なんでオレがこんなことを諭さなければならないんだよ。一応は自分達のバンドなんだからもう少し自主性を持って叱るべき……じゃなく然るべきだろうに。

 うん、言葉を間違えかけた。叱るべきじゃ全く意味が違う。これじゃ叱ってくれって言ってるみたいで、それじゃ立場が全く逆だ。


「なるほど流されてやるんじゃなくて、自主性を持ってやれってことか。なんとも耳の痛い話だな。

 じゃあ自主性を持って言ってやる。

 男鹿、俺達SCHWARZのリーダーになれっ。否、なってくれ。俺達にはお前の力が必要だ」


 はあっ⁈


「いや、いきなり横から現れてなに言ってんだよ⁈

 それに今の台詞のどこが自主性だ、単に依存を認めて開き直っただけじゃねえか」


 瓶子のやつ、なにを思ってこんな可怪しな横口を叩いてきやがる。

 最近少し見直してきてたけど、やっぱりこいつはただの調子()きの馬鹿だ。


「いや、それは確かにそうだけど、でもこれはメンバーの総意だ。そうだろ?」


 そういうと瓶子は木田、虎谷、そして河合の顔を見ていく。


「はは、決まりだな。

 お前のお望みのとおり、メンバー総意の自主性に基づくスカウトだ。これなら文句は無いだろ?」


「大ありだっ。ただの()し崩し (※4)じゃねえかっ!

 揚げ足を取って綺麗事っぽく誤魔化すんじゃねえっ!」


 くそっ、今度は河合かよ。このふたり余計なところで気が合いやがる。


「そうは言うけど、実際他にキーボードのできるやつなんていないだろ。結果こうしてお前がやることになるんだから大人しく受け容れちまえよ。

 なによりも俺をこうして引き込んだお前がここまできて知らん振りってのはどうなんだ?」


 うぐっ、河合のやつ、ここでそれを出すか。

 とはいえそれを言われると弱いわけで…。


「でもオレとしては『JUN』としても知られてるわけで(あま)り目立つようなことはしたくないんだよな」


 そう、これがあるからオレは亜姫になってたんだ。


「それだったら良い手があるぞ。

 例の黒瀬の方法ならまずバレることはないだろうからな」


 そんなことを知らないからか河合が余計な提案を示してきた。

 確かに名案に違いはないが、こいつ、絶対に楽しんでるだろ。

 見れば他の三人も賛成だと言いながらも明らかに顔がニヤケている。

 こいつら他人事だからと思いやがって…。


「待てよ、それはヤバいんだって。てよりも既にやってんだよっ」


 このままだとヤバいことになる。

 もしこいつら立ち会いで女装となれば、早乙女純との類似性に気づかれる可能性があり得る。

 それはマズい。その可能性は絶対に断つ (※5)必要がある。

 こうなればもう、覚悟を決めるしかないな。肉を斬らせて骨を断つ苦渋の決断をするしかないか…。


「「はあっ⁈」」


 当然ながらこうなった。

 そりゃあ亜姫の正体がオレだったって打ち明けたんだ無理もない。


「冗談だろ? 絶対に信じられねえって」


 まあそうだろう。河合のその気持ちはよく解る。


「ああ、俺は絶対に信じねえ。じゃねえと俺はコイツで毎晩……」


「うるさい、黙れ、それ以上言うと殴るぞっ!」


 続く木田は速攻で黙らせた。

「もう殴ってるじゃねえかよ」なんてツッコミを河合がしてるけど当然だ。

 だってあれ以上喋らせてたら……うぅっ、(おぞ)けに鳥肌が立ってきた。もう一発殴ってやろうか…。

 取り敢えず苦笑いしている虎谷も一発殴っておこう。


「その反応をするってことは信じたくないけどマジなんだな。

 こりゃあちょっと世間に知られるにはマズ過ぎだわ。おそらくは木田みたいなやつはひとりふたりじゃないだろうからな…」


「ぶはぁっ! やめてくれよっ!

 お前ら俺を笑い死にさせる気かっ!」


 瓶子の言葉に今度は河合が腹を抱えて(わら)いだした。

 くそっ、本当に○してやろうか……て、さすがにそんなわけにもいかないし、取り敢えずはこいつも殴って黙らせよう。


「いや、待てっ、悪かったって。だからその拳を降ろせって」


 そんな言葉とは裏腹に、未だにどこかニヤケた感じの河合。まあそれでも一応は謝っているし取り敢えず拳を降ろすか。…腹を抱えた後頭部にだけど。



 取り敢えず四人を黙らせたけど……。


「はあ……。本当にどうしたもんだろうな…」


 仮にバンド参加を受け容れるにしても……やはりそこが問題だよなぁ…。

※1 ここでは別もの扱いをしていますが『引率者』も『先導者』と英語だと『leader(リーダー)』です。

 作者としてはサポートで支える見守り役と主力で活躍する主役を分けて表現したかったのですが…、すみません、作者の頭のレベルはその程度で適切な言葉が浮かびませんでした。

『統括者(supervisor(スーパーバイザー))』と『現場主任(chief(チーフ))』とか、そんな感じになるのでしょうか?


※2 ここでは別もの扱いをしていますが『ボス』と『リーダー』は基本同じ意味合いの言葉です。

 ただやはりイメージとしては裏方の『ボス』、表方 の『リーダー』なんですよね。…って、これって作者だけなんでしょうか?


※3 ここでは『一回こっきり』としていますが『一回ぽっきり』なんて言葉も存在していてどちらを使うか迷いました。

 ただ、実際に使われる場面を考えてみると『一回こっきり』はなにか頼み事をするときに『一回限り』というような使われ方を、一方で『一回ぽっきり』は前に『たった』という言葉がつくことが多く何かに不満を訴える時に使われる感じです。よく店の客引きで『○○円ぽっきり』なんて安さを強調するのに使っているように、そのことを落として表現する時に使われるようですね。

 ということで『こっきり』は『上限』であることを、『ぽっきり』は『下限界に近い』ことを表す言葉ではないかというのが作者の私見です。

 そんなわけでここでは『一回こっきり』を採用しました。


※4『()し崩し』とは『少しずつ物事を進めていき、最終的にはその勢いで目的を遂げてしまうこと』、つまり()す勢いで崩してしまうことなわけです。

 ただ実際には『無かったことにする』なんていう誤用が(まか)りとおっているようで本来の意味を知る者は少ないらしいです。おそらくは『無し崩し』と勘違いした者が多かったためではないかといわれています。


※5 この『断つ』と似た言葉に『絶つ』という言葉があります。

 やはりこの使い分けに迷ったため調べてみたところ次のようになっていました。

【断つ】切り離す。やめる。自分の意思が反映される。

【絶つ】途切れさせる。やめる。自分の意思によらない。反する場合も多い。

[Google 参考]

 というわけで、自分の意思によるか否かってことで使い分けるようです。


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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