純、アイドルステージを観賞する?
無理な当て字は控えるようにしていますが、それでも不要な漢字使用はまだまだな本作。本来ならば212話辺りからってつもりだったのですが、やはり作者の未熟さ故に、未だに純にはそういったものを引き摺っているという設定を背負ってもらっています。
…人間って、そう簡単には変わることなんてできないんですね…。
アイドルイベントの行なわれている講堂へと戻るとそこには河合や斑目達が来ていた。どうやら模擬店の店番を無事に交代できたようだ。
佐竹もいる。去年のミスコンの一件があるからと厭がって来ないと思っていたんだけどなあ。なんだかんだと言いながらもこうして誘いを受け容れているってことは結局はこいつも人が好いってことなのだろう。ただそんな風に指摘すればきっと嫌そうに眉を顰めるんだろうけど。
もちろん朝日奈、向日のふたりの姿もある。ただこいつらはオレ達や河合達が来る前、おそらくはイベントの開始時から来ているのだろう、前列の方に居るため合流はまず無理だ。まあ合流する必要も無いけど。
とはいえやはりってことで佐竹達へと合流することにする。こっちなら後ろの方に位置しているのでそこまで無理は無いからな。
「あっ、こっちに香織ちゃんが手を振ってる……って、なんだ男鹿くん達か。
そりゃあそうだよね、香織ちゃんが私達なんかにあそこまで愛想を振り撒くわけがないもんねぇ」
斑目が近付くオレ達に気づいた。
ただその理由については苦笑いするほか無い。だって香織ちゃんの視線を追ってだもんなぁ。
「おや? レナちゃん達も一緒なんだ。
そっか、無事合流できたんだな。行き違いになってたみたいだから少し心配してたんだよな」
「それならあの後電話が掛かって きたんでなんとか合流できました」
心配する河合にレナが応える。
ただ、無事と言わないところが素直だ。否、捻くれているというべきか。まあ、なにがあったかなんて無理に言う必要も無いけど。
「そっか、それなら好いんだけど。
でも俺達の方が先に来てるってことはやはりなにかあったんじゃねえの?」
だが、河合のやつ、なんとも無駄に鋭い。
「うん、ちょっとね…」
美咲ちゃんが沈鬱げに応えていく。
まあいいか、どのみち佐竹には説明する必要もあったしな。
「ええっ⁈ それって結局ヤバいんじゃ…」
斑目が心配そうに訊ねてきた。暗い雰囲気が一層陰鬱になってくる。
「まあ拙いことには違いないし、ヤバいっていうのも確かだけど、だからといって慌てても仕方ねえだろ。
そもそもこいつらもリトルの妹分っていうんならこの程度のことで動じるなってんだ。
まあ心配しなくても多分なんとかなるんじゃねえか。他のやつらならともかく、リトルやフェアリーのファンってのはそういうやつらがいくら騒いでみせたところで動じるたりなんてしないんだよ」
こう強がってはみたけれどこれは希望的観測だ。でも、なんだかんだでいろいろと乗り越えてきたオレ達だ。中にはファン達に助けられたことも少なくない。ならば今回もファン達を信じ不動の自信を示すだけだ。
「自信こそがツキを呼ぶってか? お前も随分と漫画に影響を受けてるよな」
河合のやつはこう言うが、前向きな言葉は何に拘わらず取り容れるべきだろう。
勝利の女神っていうやつはこういう前向きな者にこそ微笑むのだ。
「いいんだよ、こういうのは士気の問題なんだから。
だいたい鬱ぎこんでいたままじゃ、いざってときに反撃に出れないだろ」
そう、仮にもオレはプロデューサーとしてリトルやフェアリーを率いているのだ、こんなときに士気を挫くような真似なんて断じて許されはしない。
「あれ? 今年もやっぱり瑠花さんがゲストで来てるんだな。よく見たらエルダーの三人も来てるし」
暗い話はうんざりとオレは話を逸らしに掛かった。少し強引だが、まあそこは場合が場合だ仕方ない。
「ねえ、あなた達、そこでそうして見てるだけでいいの?」
突如背後から声が掛かった。振り返って見ればそいつは……。
「なんだ、沢渡じゃねえか。てことはもしかしてこいつらへの出演依頼か?」
そいつはこの学園祭の運営委員の沢渡だった。
「ええ、まあね。どうせそっちだって今年もそのつもりなんでしょ? だったら変に立ち回られるよりも先にこっちから話を持ち掛けた方が良いものね。一昨年みたいなのはもう御免だし」
はは…、そういえばこいつって去年、一昨年もこのイベントに関わっていたもんな。
「あれ? 運営委員って確か一、二年生がやるんじゃなかったっけ? なんで三年生の沢渡さんが?」
ん? 確かに斑目の言うとおりだ。普通に主催者に交ざってイベントの出演交渉に来てたからすっかりそういう気になっていた。
「仕方がないじゃない。後輩に泣きつかれたんだから。それもこれもみんな一昨年にやってくれたあなたが悪いのよっ」
沢渡が恨めしそうに責めてくる。
ああ、そういえばこいつだったんだよな、あの時の運営委員って。
因みに去年オレが交渉したのもこいつだ。おそらくはその実績故に今年も頼られることになったってことだろう。
……オレは腫れ物かってんだ…。
「どうする?」
オレは美咲ちゃん達三人に問い掛けた。
「う~ん、私は遠慮しておくかな。せっかく今年は見て巡る側になったわけだし、偶にはこういうのもいいんじゃないかな。それに純ちゃんもいないしね」
なるほど、本来の今日の趣旨はそうだったもんな。
「私は出たいかな。
咲さんを差し置いてって思わないじゃないですけど、あの女に大きい顔をさせておくのもなんですし、それに来年からは私達が主役ですからここで引導を渡すのもありかと思います」
なるほど、レナは出たいと。
ただ、理由ってのがなあ。いつもながら思うんだけど、なんでここまで香織ちゃんを目の敵にしてるんだろう? う~ん、謎だ。
「ちょっと、レナちゃん、本気なの⁈
そりゃあ私も同じことを思わないでもないけど、それでも咲さんを差し置いてだなんて…」
ミナの方は反対っと。
ただ、あくまでもそれは美咲ちゃんに気を遣ってか。少し葛藤がみられるな。
「あ、私のことだったら気にしなくてもいいからミナちゃんの好きにしていいよ。てか、私もミナちゃん達ががんばってるところを観てみたいかな。去年は観ることができなかったしね」
うん、さすがは美咲ちゃん。こういうところは実に先輩らしい。
「そ、そういうことでしたら…。
解りました。それでは咲さんのお手を煩わせるまでもなく、私達であの女に引導を渡してみせます。見ててくださいっ」
美咲ちゃんの許しを得たことで出演を受けることに決めたミナ。
でも、そのモチベーションってのはどうなんだ。絶対に美咲ちゃんはそんなつもりで言ってないぞ。
まあともかく、今は煩わしいことを考えるのはナシだ。例のやらかしに対する気分転換には丁度好い。
「よし、それじゃ行ってこいっ」
そんなわけでレナ達ふたりのアイドルイベントへと飛び入り出演が決まった。
※1『電話をかける』は漢字だと『掛ける』が一般的ですが、実は『架ける』とも書くそうです。なるほど『一方から他方へと繋ぐ』ってことなので納得です。
ただ、本当に一般的なのはひらがな書きで『かける』のようです。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




