純、クリスマスプレゼントに悩む
雪が降る。
雪が降る。
この空見上げれば、
「ふぇ〜くしゅんっ」
本当に、雪が降っている
そして、その雪が足元を覆い隠し始めている。
寒いはずだ。
今日は、12月23日。明日はもう終業式だ。
そんなことより、本番はそのあと。
クリスマス会が待っているのだ。
「クリスマスじゃなくってイブだろ」なんてつまらないツッコミは無視する。
「クリスマスなんて、外国被れ、ミーハーな日本人が知識人装ってるだけだ」
なんて意見も知ったことじゃない。
「クリスマスなんて、軟弱なイベント、男には必要ない」
なんて強がりや、
「クリスマスなんて、浮かれて喜ぶカップルなんて、爆発しろっ」
なんて僻む奴ら、お前ら、そんなんだからモテないんだ。
クリスマスなんてものは、子供みたいに素直に楽しみやいいんだっての。
というわけで、オレはクリスマス会に向けて、その準備をしている。
具体的には、交換用プレゼントの用意だ。
流石に参加メンバー全員分は無理なので、一人一品なのは、まあ、自然の流れというものだ。
ただ、オレの場合、二人分で二品必要なのだが。
男鹿純が参加するため、早乙女純の参加はない。
早乙女純の参加はないのだが、プレゼント交換だけはあるのだ。
「こっちでも予定があってな。
でも、プレゼント交換くらいは参加させてもらおうか」
とまあ、一応、義理を通したわけだ。
で、オレがそれを預かっている形となっているのは、当然、オレの都合によるためである。
だって、両方ともオレが用意するんだし。
さて、では何を用意しようか。
一応、これでも社会人(?)なわけで、多くはないが、それなりに軍資金はある。
とはいえ、これは中学生同士のクリスマス会。
余り金目の物は不適切だ。
まあ、もともと、金を掛ける気もないけどな。
では、何が良いかな……。
まずは早乙女純だ。
やはり、それなりの物でないと恥を…って、そうじゃない。さっき決めたばかりじゃないか。
そうなると……。
駄目だ。
先に男鹿純の方にしよう。
よし、それじゃ…、金を掛けない物…、掛からない物……。
使い古しの物とかか?
…………!
そうか、その手があった!
ということで、プレゼントの問題は無事解決したのだった。
▼
終業式も終わり、いよいよクリスマス会。
近所のファミレスの一画を借りて、それは行なわれた……って、
「なんで、小藪に、大西がいるんだよっ」
これは、ごく内輪のパーティーだったはずだ。
まあ、他にも、日向、朝日奈といった女の子もいるのだが、まあ、こっちはいいか。
「当然だろう。これでも僕らはリトルキッス親衛隊幹部だからね」
「そうそう。それより序列10位のお前が、そんなことを口にすることの方がどうなんだ?」
「あ、私達は御堂玲親衛隊の幹部だから、ね〜」
つまり、うちの学校のアイドルとその親衛隊が、早乙女純を除いて勢揃いしたというわけだ。
「これじゃ、友人同士のクリスマス会じゃなくて、アイドルとそのファンの集いだな」
「まあ、いいじゃないか。女の子達のおかげで場も華やぐってものだ」
おい、天堂。お前、なに気に小藪達には触れてないよな。
ということで、小藪達による済し崩しで、クリスマス会は始まったのだった。
本当、強かだよな、こいつら。
この一年を振り返ってみる。
デビューから約8ヶ月、いろいろあったことが、この場での話題となった。
と言っても、小藪達にとっては、日浦達とやり合った時のことが一番の話題なのだが。
「そう言えば、純ちゃんから聞いたんだけど、『Party Time』と『Trustship』って、あの時のことの話を聞いて、JUNさんが作った曲なんだって」
という暴露話を聞かされ、
「『Trustship』のTrustって、信頼って意味だよね。つまり、あの曲は僕達に寄せる信頼の曲ってことか」
と、より一層得意気になって喜んでいた。
因みに『Party Time』は『宴会の時間』という曲タイトルだが、この件の時のオレの気分は、曲とは全く関係ない『集会の時間』つまり、ヤンキー的に、『さぁ、殴り込みの時間だっ!』って意味だったりする。まあ、人前で大開に言えないけど。
さて、時間も終盤、いよいよプレゼント交換だ。
各々がそれぞれ用意したプレゼントを取り出す。
飛び入りだったはずの小藪達まで、プレゼントを用意していたりするのだが、いったい何処で聞きつけたのだろう。
ともかく、プレゼントの交換が始まった。
「きゃ〜、やった〜! 御堂くんのプロマイドとサイン色紙!」
引き当てたのは、御堂ファンの日向美葵。
「なんでそんなのプレゼントに選んでるだよ」
「ちょっと、御堂くんのベストチョイスに何か文句があるわけ」
真彦が、日向相手に、たじたじになっている。
「まあ、オレ達じゃなかったんだし」
「そうだな」
オレの意見に、溜息をつきながら同意する真彦。
「きゃははははははは〜っ、御堂くんらし〜い」
一方、美咲ちゃんには、大ウケである。
「ちょっと、何よコレ」
もうひとりの御堂ファン、朝日奈の引き当てた物は……、ダンベル?
「あれは、由希の仕業だな」
「そうだろうな。あの脳筋馬鹿以外あり得ないし」
「もうっ、由希ちゃんったら」
美咲ちゃんも同意見らしい。美咲ちゃんも結構解ってきたようだ。
「おおっ、これは、男物のハンカチ」
「えぇ〜っ、なんで御堂くんじゃなくて、小藪が」
小藪が朝日奈のプレゼントを引いたらしい。
踏んだり蹴ったりだな、朝日奈。
「お? 俺もハンカチだ」
「ちっ…」
大西は日向のプレゼントか。
多分、日向と朝日奈のふたりで、一緒の物を買ったってところか。
「ちょっと、誰よこの変な本」
由希が手にしたのは、ラノベ? なんかイラストがアレだ。
「なんだよ。一応、それ、結構売れてんだぞ」
「知らないわよっ。なによこのエッチなイラスト。中身もどうせエッチなのに決まってるわ、この変態!」
……、どうしてそんなの選んだんだ、真彦。
「ええ、コレどうすりゃいいんだ?」
「男鹿ぁ~、なんでお前が引いてんだぁ〜」
オレが引いたのは、大西からの美顔ローラー。
美咲ちゃん、若しくは早乙女純に向けた物だったらしい。
「ま、そういうこともあるさ」
真彦め、他人事だと思って。
「俺、こんなのもらっても困るんだけど」
斯く言う真彦も、小藪からのリップクリームだった。
「ま、そういうこともあるさ」
オレも真彦にさっきの台詞を返してやろう。
「さて、僕は何かな」
天堂の手にしたのは少女漫画だった。
タイトルは『学園騎士団』
この夏に収録したTVドラマの原作漫画だ。
当然、天堂もはずれである。
「ふ、なるほど。これはアタリだね。
まさか、花房咲のサイン付きとは」
「ちくしょーっ、天堂かよっ!」
言われてみれば、そうだ。一般人にとってはアタリに違いない。
小藪や大西が悔しがっている。
でも、オレにとってはなあ。そういうのは間に合っているとしか言いようがないんだが。
あと、この場で残ったのは、美咲ちゃんだけだ。
と言っても、美咲ちゃんが受け取る物は、自動的に、オレの用意したものに確定したわけだが。
「あーっ、これって」
美咲ちゃんが手にした物は、50cm程度の高さのうさぎのぬいぐるみだった。
「そっかぁ、私は純ちゃんからのプレゼントかぁ」
それは、この夏の、夏祭りの時に獲ったぬいぐるみである。
感激している美咲ちゃんには悪いんだけど、正直、持て余していた物だ。
だって、男のオレが持っていたってなぁ…。
ということで、オレの用意したプレゼントは、早乙女純に渡ることに。
つまり、オレの手元に返ってくることになったのであった。
なお、余談だが、『早乙女純』へと渡ったプレゼントは、一昔前に流行った、指輪の出てくる本だったりする。
まあ、どうでもいいよな、そんなの。
今さらですが、作中の『Trust-ship』は作者による造語です。というか、そうだと思います。なので、一般的にそういう言葉があると鵜呑みにしないようお願いします。なお、『Trusteeship』などという言葉があり、こちらの意味は、『信託統治』だとか。他にも『従属国』なんて意味もあり、そのまま使うと、『下僕』なんてことになりそうなので、『Trustship』を採用しました。
→作中のうさぎのぬいぐるみのサイズを30cm→50cm
に修正しました。夏祭りの時の、やや大型って設定を忘れてました。[23年1月27日]
※作中のルビには、一般的でない、作者オリジナルの当て字が混ざっております。ご注意下さい。




