美咲ちゃん、学園祭の模擬店を巡る
こんなサブタイトルですが模擬店に顔を出すシーンはありません、ごめんなさい。
ただ、それでも一応はそれに纏わるシーンはありますのでそれで勘弁してもらえないでしょうか?
「あっ、咲さんっ。どうでした?」
聞き込みから戻ってきたオレ達に早速ミナが訊ねてきた。
レナもやはり気になるのだろう、ミナ同様に不安そうな目でオレ達のことを見つめてきている。
「う~ん、驚いてはいたみたいだけどそんなに悪い反応ではなかったと思うよ。
でもやっぱり内容が内容なせいか世間で変な騒ぎにならないか心配してくれているみたい」
美咲ちゃんの答えは些かふたりを気遣った表現だ。実際に言葉で聞いたわけじゃないのだから、これは美咲ちゃんが雰囲気から察したものに過ぎない。
よし、それじゃオレからも補足を加えるとするか。
「まあ、思った程酷い反応ってわけじゃなかったしファン達については問題は無いと思う。というか逆に理解を示して好意的に受け取ってくれている感じかな。正にお前らの狙い通りになってるよ。
ただ、やはり問題はそれ以外の連中なんだよなぁ。
マスコミ辺りなら一部を除いて公正なはずだからまだなんとかなるだろうけど、ネット荒らしの方は悪意的だから質が悪い」
あ…、フォローのつもりだったけど余計なことまで言ってしまった。
お陰でレナ達だけでなく美咲ちゃんまでが不安そうな顔つきになってるし。
「とはいえ、あいつらは基本確固たる意図が有るやつは少ないし、大抵は恣意的な愉快犯だ。前者はともかく後者ならそこまで心配は要らないはずだ。
対策は主にふたつ。
ひとつは他のことに興味を逸らしてやること。
もうひとつはこちらも大きな世論を作って相手側を叩き潰すこと。
まあ、ひとつ目は新たな標的となった者に迷惑が掛かるから無しだ。となるとオレ達が採るべき手段はふたつ目。
と言っても、既に例の記事にフォローが有るしファン達も理解を示してくれているみたいだからそこはなんとかなるだろう。
というわけで、今お前達がするべきことははファン達を信じて機が熟すのを待つこと、それに備えて英気を養っておくことだ。
まあ何度も執拗いようだけど結局は最後は気合いってことだな」
「うん、そうだよね。今は難しいことは考えないで学園祭を楽しめばいいんだよね」
オレの改めてのフォローに美咲ちゃんが続いてくる。
なんとも簡潔な台詞だけど、目下のことをいってるだけに解り易くていいだろう。
「ああ、それじゃあ行くか。
ところでレナ達はこれからなにか予定とかあるのか? まあ呼び出しておいてなんだけど」
せっかくの美咲ちゃんのフォローだし、ここはそれに乗ってと元々の予定に戻ることにしたわけだが、こいつらの予定はどうなっていたのだろう。
「えっ? それってもしかして咲さん達とご一緒してもいいってことですか? そういうことなら是非喜んでっ!」
透かさずミナが応えてきた。
まあ予想通り、お約束の反応だな。
小宮、大宮が少し残念そうだけどそれでも異存 は無いようだ。
ということでオレ達はレナ達と共に学園祭を観て巡ることとなった。
▼
「う~ん、やっぱり学園祭といえば食べ物の屋台だよね」
たくさんの食べ物を手にご機嫌な美咲ちゃん。そういえば中学の時に夏祭りに行った時もこんな感じだったな。
「そんな両手から溢れる程に買い捲って。そんなに欲張っても食いきれるわけじゃないだろうに」
全く本当に呆れ果てる。しかもレナとミナのふたりまでが一緒になって続くものだからその量のなんたることか。
「だって行く先々でいろいろとおまけしてくれるんだもん、せっかくの好意なんだから断わるのも悪いでしょ」
いや、確かにそれもそうかも知れないけど…。
「だったら覘かなければいい話だろ。
そうやって顔を出すから相手も商売っけを出してくるんだよ」
気持ちは解らないでもないけど、そうやって顔を出した時点で負けだ。
まあ、自制ができるなら必ずしもそういうわけでもないんだけど。
「そうは言っても無理ですよ。こう一面に美味しそうな匂いが漂っているですから。
しかもそれがこんなに安いんですよ。どうして抗えるっけいうんですかっ」
ミナが美咲ちゃんをフォローするように反論をしてきた。
なるほどそういうところもあるか。嗅覚も食欲を刺激する一因ではあるわけだし。
「それにこういうのも学園祭の醍醐味でしょ。
全く、ノリの悪いこと言わないでよっ」
こっちはレナだ。
要するにこっちは雰囲気に流されてってことか。
まあこれも解らないでもない意見だ。
「でもなぁ…。
そりゃあそういった買い食いを楽しむ姿ってのは見ている方も楽しいし、可愛いらしいとは思うけど、でも限度ってものがあるだろう。
それに正直言って食ってる場面を見ると引くぞ。なんてったってその量だからな。
一応忠告しておくけど、ほどほどにしておかないと後で絶対に泣きをみることになるぞ」
さすがにオレも学習したので敢えて肥るとは言わない。でも言外の意味は通じているはずだ。実際三人とも嫌そうに顔を顰めているし。
「もうっ、そういうことは解っていても指摘しないのが礼儀でしょ。本当純先輩って女性への配慮ってものが無いんだからっ」
ああ、早速レナの非難が飛んできたか。
「それは仕方ないんじゃない。だって純先輩なんだし」
ミナの方は責めてこそこないが、こっちの方は言うことが酷い。
「お前ら、いったいなんのことを言っているのか知らないけれど、オレはお前らの腹具合を心配してやってるだけなんだけどな。あと序でに懐具合もか」
ただ言われっ放しなのは癪なので少し揶揄ってやることにする。本当の理由を暈しているから反論するのも少し難しいことだろう。
「そんなの余計なお世話ですよっ。
全く、相変わらず性格が悪いんだから」
はは…。まあこう返すのがやっとだろうな。
でもやはり言うべきは言っておくか。
「まあ冗談はこれくらいにして、暈してた理由についても触れておくか。といってもこれこそ余計なお世話なんだろうけど、それでもイメージの問題があるからな。
まさかお前だってぽっちゃり系とか大食いアイドルなんて呼ばれたいってわけじゃないだろ?」
もちろんこれも冗談だけど、同時に紛れもない本音でもある。意識し過ぎて痩せ細るのも問題だけど肥満というのも問題だ。
やはり一番魅力的なのは健康的で均整の取れた自然体の美しさだよな。
まあ実際にはそんな理想的人間なんて存在し得ないだろうから、意識し過ぎない程度に意識することが大事なわけで……って言ってることがなんか矛盾しているけど、それでもそうあるべきだろう。
「もうっ、純くんってばっ。
でも、確かに純くんの言うとおりだよね。ちょっと私達燥ぎ過ぎだったかも」
オレの指摘に対し少しばかり拗ねてはみせたものの素直に反省してくる美咲ちゃん。
それは良いことなんだろうけど、なんだろうこの罪悪感は…。
まあいいか。そんなことを考えて暗くなるよりも今は気分を盛り上げることが大切だ。なんてったって今日は今後に備えて英気を養うって決めたんだし。
「まあ過ぎたるは猶及ばざるが如しだけど、そこまで深刻に考えなくたって構わないって。
それよりもそろそろいい時間だし講堂に向かうことにしようぜ」
「うん、そうだね。香織ちゃんも待ってるもんね」
まあそういうわけだ。やはり今年も香織ちゃんからステージを観に行くことを約束させられているんだよな。
でもだからってこの返しかよ。きっとさっき言ったことに対する当て付けだな。
ともかくオレ達はアイドルステージの行なわれる講堂へと向かうことにした。
※1『異存』と使い分けで迷う言葉に『異論』『異議』といったものがあります。
これらの言葉について調べてみたところ次のような感じでした。
【異存】確定事項への反対意見や不満。
【異論】異なる意見の主張。必ずしも反対意見とは限らないが相手からすればほぼ同じ。
【異議】反対や不服を議題として示すこと。『議』には『議る』という読み方があります。
[Google 参考]
というわけで、ここでは確定事項に対してであり、意見ではなく是非ということなので異存です。
ただ、個人的には異議(問題提起)→異論(討論中)→異存(結果への不満)といった時間系列の違いかと思っております。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




