純、歳上女性にナンパされる
→純のことを千鶴が一方的に知っていたという部分ですが、香織となっていたため修正しました。香織の場合は面識こそありましたがそれだけで、それ以外については名前さえ知らなかったわけなので。[2024/05/08]
中間試験を一週間前に控えた日曜日、星プロでの仕事を午前中で切り上げたオレはなんとなく駅前をぶらぶらとしていた。
まあ、明日からは恒例の試験対策勉強会があるからなあ…。そんなわけで今日くらいはのんびりとしようと思ったわけである。
というわけで、久々のスイーツ店巡りだ。
さて、今日のお目当ては……。
「あ、この店、新商品を出してる♪」
……って、ヤバっ。
携帯のサイトで紹介されている有名スイーツ店の記事を発見し、思わず女の子のような台詞を発してしまった。
慌てて周辺の様子を窺う。
「ふ~ぅ。誰も気に掛けてるやつはいないか。
よし、セーフだ」
……って、これも客観的に見れば明らかに挙動不審な行動だ。
落ち着けオレ。平常心だ。
そして何事もないかの如く、極々自然に振る舞うのだ。
オレならできる。長年早乙女純として振る舞ってきた演技力は伊達じゃない。
可能な限りさりげなさを装いオレはその場を足早にその場を離れたのだった。
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「うおぉぉおっ! こ、これが新作のフルーツタルトかっ!」
目の前に据えられたそれの鮮やかな色彩に思わず目を奪われてしまう。
これも仕方が無いことだろう。こんな美麗で可憐な芸術品をどうして愛でずにいられようものか。
ああ、食べてしまうのがもったいない。それでも食べてしまいたい。…って、せっかく頼んだ品物なんだし食べずにおく方がもったいないか。
そ、それでは……、いくぞっ!
いただきますっ!
「……くぅ~ぅ、美味いっ!」
この感動、なんと喩えればよいのだろう。
生地の上にところ狭しと並んだ数々の季節の果物。
見た目だけでも派手にして可憐という相反する美麗さだというのに……いざ口に含んでみれば、それぞれが主張で喧嘩するのではなく実に調和がとれており、お互いがその味わいの良さを引き立て合う素晴らしさ。
う~ん、ブラボー!
「あれっ? アンタ確か……」
そんなオレの掛けられた声。
誰だ、今はそれどころじゃないんだ。
目を向ければ……誰だ、この人達?
「あっ、やっぱりっ。以前ライブに来てた女の子みたいなハーレム少年だっ」
ぶふっ!
……って、……ああっ!!
「ちょっと、なんだよ、あんたら。いきなり変なこと言うからせっかくのタルトを吹き出してしまったじゃねえかっ」
くそっ、なんてことだ、もったいない…。
「…え? あ、ごめん」
全く、なんなんだ、この女達は。謝ればいいってものじゃないだろう。
ああっ……オレの新作フルーツタルト……。
なんだか哀しくなってきた。
取り敢えず残りのタルトでこの心の隙間を補おう。
食い終わったところで改めて彼女達から声を掛けられた。
なんなんだよ、さっきから。これ以上なにをする気だよ。
「ちょっと、そんなに睨まないでよ。そんなんじゃカノジョ達に嫌われるわよ……って、だからそんなに睨まないでってば」
知らねえよ、そんなこと。こっちはせっかくのフルーツタルトを台無しにされてお冠なんだ。
「って、あれ? 今日はカノジョ達は一緒じゃないの?」
「はあっ⁈ なんなんだよっ、あんたらはっ。
他人が物食ってるところを横から邪魔してくれたかと思ったら今度は変な言い掛かり。
だいたいあんたらとオレは面識なんて無いはずなんだけどなっ」
本当にいったいなんなんだ。初対面のはずなのに馴れ馴れし過ぎだ。
否、狎れ狎れしいだな。こんなに無遠慮なわけだし。
だいたいこいつら何者だよ?
「ああ~…、なるほどね。キミはいわゆるスイーツ男子ってわけなのね。そりゃ怒るはずだわ。
じゃあ、お詫びも兼ねて何か奢ってあげるからお姉さん達の話を聞いてくれない?」
……なんなんだ、この人達。まさかナンパのつもりなのか?
まあ、せっかくお詫びをするっていうんだから少しくらい付き合ってみてもいいか…。
さて、この女性達だが……なぜかオレのことを知っているようだがオレには全く覚えがない。
いや、一応JUNとしての名が一部で知られているのではあるけど、彼女達はそっちの方で知っているわけではないみたいだ。
だったら余計に解らない。なぜオレのことを知ってる?
それにこの人達、いったい何者なんだ?
「あの……、オレの記憶が正しければ、オレ達初対面だと思うんですけど…」
いくら考えても心当たりが無い。ならばこうして訊ねてみるのが一番だろう。てか、他に考え付かない。
まさか香織ちゃんのときみたいなことがあったとかじゃないだろうな。で以て香織ちゃんみたいなことを言ってくるとか……って、さすがにそれはないか。それならいったいなんの用があるっていうのだろう?
「ああ~、確かにね。まあアンタが言うとおりアタシらが一方的に知っているだけだからそこは間違い無いよ」
え? だったら千鶴さんのときのパターン?
でも、それっていったいどこで調べたんだよ?
「それだとちょっと語弊 があるんだけどね。実際は私達だってキミのこと詳しく知ってるわけじゃないんだから」
「なんだ、びっくりした。てっきりストーカーの類かと思ったぜ」
普通知らない異性からこんな風に馴れ馴れしく声を掛けられれば、やはり多少は警戒するもんだよな。
「ちょっとっ、さすがにその扱いは酷いでしょっ。こっちは女の子なんだからっ」
ただ、面と向かってそれを口にしたのは拙かったか。彼女の言うとおり相手は女性なんだし。
なお、そんな彼女達は恐らくは20歳前後。女の子というには微妙な年齢だと思う。
う~ん、女性ってどのくらいまでが女の子ってことになるのだろう。オレとしては成人……否、違うな、親の比護下にある高校生くらいまでか。ともかく社会的に自立できるくらいの年齢が基準だな。
「まあ、客観的に見ればそう言われても仕方が無いかもね。
でも、私達にそんなつもりは無いからそこは安心していいよ」
まあそうだろうな。多くの女性は同年代か歳上の男性を理想としているみたいだし、歳下のオレなんかに興味を示すなんてことはないか。……ないはずだよな。
「で、結局、あんたらは何者でオレになんの用なわけ?」
悪いやつらではなさそうだけど、それだけに目的が解らない。本当、どういうつもりなんだろうな…。
※1『語弊』とは言葉使いが適切でないために起こる誤解や弊害という意味です。基本伝える側に原因が有ります。なお、『誤解』は誤った理解や解釈で基本的に原因は聞き手側に有ります。(先ほどの説明のように伝える側に問題が有る場合もありますが、それでも結局は聞き手がどう受け取るかなので)[Google 参考]
因みに作者は『語弊』を『誤弊』と書くものと間違えて覚えておりました。『言葉』による『弊害』なんだから『語弊』なんですよね。
この作品の投稿は携帯で行なっているのですが、今回はその変換機能のお陰で助けられました。誤変換に泣かされることも少なくありませんが、実はこういうことも結構あります。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




