純とSCHWARZの反省会
さて、メンバー達の揃ったところでこの前のライブの反省会だ。
まずはライブの内容だな。
「結構良い感じだったと思うんだけどな。観客はみんなノリノリだったし、お陰で気分良くライブができたぜ」
河合の言うとおり、客の反応は結構良かったと思う。そしてそのお陰で河合が好調だったのも本人の言うとおりだ。こいつは調子放きだからなあ。そんなわけで場の雰囲気の影響を受け、テンションが上がるのも納得だ。
「だな。お陰で俺もいつも以上のパフォーマンスができたぜ」
「いや、さすがにあれは驚いたぜ。いきなり予定に無い早弾きをアドリブで始めるんだからな」
河合に続いた木田ではあるが、瓶子じゃないけど確かにあれはなぁ。まあ無事成功したからいいんだけど。
「うん、正直心臓に悪いからああいうのは止めてほしい。お陰で手許が狂いかけたし」
あ、やっぱりあれはそうだったか。幸いさほどじゃなかったけど少しだけ気にはなったんだよな。
「固いこと言うなよ。無事結果が出たんだしいいじゃねえか。だいたいいけると思ったからやったんだし、そうじゃなきゃ端っからやらねえよ」
「でも、それならやっぱり前以て言っておいてほしかったな。そのためにリハーサルがあるんだし 」
おっ? 虎谷も言うようになってきたな。元々小心なこいつだがこのメンバーにも馴染んできたってところか。これは好い傾向だ。
「んなこと言ってもしょうがねえだろ、本番での調子ってのもあるんだから。こればっかりは実際にやってみなけりゃ解んねえって」
「ま、まあそうだけど…」
ああ~、言い負かされたか。やっぱり小心なのは変わらないようだ。否、それとも共感するところがあったのか。
まあ、なんにしてもまだまだだな。
とはいえ上級生である木田達に自分の意見を言えるようになるってのはチームワークを築く上で重要なことだ。これからもがんばってほしいものである。
「それよりもやっぱり河合だよな。今回はスベることなくMCを熟してたし。いつもこんな感じなら言うこと無しなんだけどなぁ」
とはいえ、やはり木田も決まりの悪さを覚えたのだろう、話を河合へと逸らしてきた。
「ああ、河合は当たり外れが激しいからな。
とはいえ最近は随分とマシになってきたんじゃねえか? やっぱりこういうのは場数だよな」
オレもこの瓶子の意見に賛成だ。
とはいえそう場数なんて践めるものではないのだが。
「でも、よくこんなに都合好く予定なんて取れたよな。普通は3ヶ月近く前から予約が必要だって聞くのによ」
「ああ、全くだ。さすがにそこは苦労したよ」
木田ではないがそれが普通だ。
一応オレ達は週一でライブの予定を組んではいるけどそれは『WYVERN』のオーナーに頼み込んでなんとか主催者を紹介してもらい、そこへ無理に捩じ込んでもらったってのが現実だ。
まあ、今回の場合は元が4組でどこもチケットノルマがキツかったって理由が有ったみたいだけど。
他の予定についてもだいたい似たような事情で取れたものだ。
「なに言ってんだよ。どうせプロデューサー『JUN』の名をちらつかせだだけだろ」
「だからって苦労してないわけじゃないんだよっ。
だいたい露骨にそんなことをすればそれだけの見返りを求められるものだろ。こっちは公私混同するわけにはいかないんだからギリギリの線で物事をする必要があるんだよっ」
全く、河合のやつ、軽く言ってくれやがる。
それに人聞きも悪いってんだ。
そりゃあ確かにそれっぽいことはしたけど、無理な頼み事をしたんだからそれくらいの義理はあるだろ。
具体的になにをしたかといえば『JUN』としてサイン色紙を配ったってことだろう。プロデューサー『JUN』は極力世間へは顔出しをしないってことで知られているし、それだけにそれはその分稀少価値が有るってわけだ。実際『JUN』としてのサインは初めてだった……と思う。多分だけど…。
なお、中には自分達もと曲提供やなんかを求めてくるやつらもいたりしたのだけど、さすがにそれは断わっている。ただ、それでもやはり借りは借り、きっとどこかで返す必要が出てくるんだろうなぁ…。
「まあともかく、一応は今回は巧くいったみたいで会場の客達の反応も悪くなかったみたいだけど、問題は次がどうなるかってことだよな。
今回は知り合いとかが義理で来てくれたってのが結構あったんじゃないかと思うけど、さすがに次はもうないだろ?
デスペラードや『JUN』の影響にしても物珍しいって言われるのも最初だけ。恐らく本当の実力が問われるのは次からだ」
今回来てくれた客達がまた今週末もと考えるのは虫が良過ぎだ。仮に彼らに好評だったとしても何度も続けては無理がある。これはこいつらもライブ前日に言っていたことだし十分承知しているはず。
「嫌なこと言うなよ。せっかく良い気分になってるってのに。
まあ、取り敢えずは巧くいってんだし、次も同じでいいんじゃねえの?」
あ~、そういえば河合は例外だった。
こいつはよく解ってなかったせいか、考えが楽観的だったからな…。
まあ、変に後ろ向きな考えで全員が不安を抱えているよりも、ひとりくらいはこういう前向きなやつがいても好いか。
特にこいつはバンドの盛り上げ役だしな。ならばこいつはこれで可しだ。“良し”ではないけど“好し”だから良し。ムードメーカーとはそういうものだ。
「なるほどそれも意見だな。で、残り三人、お前らは?」
あんなのでも一応は結果を践まえてだし、否定して掛かるのは乱暴だろう。
「多少楽観的過ぎる気もしないでもねえけど、他に思い付くことも無いし、ならば河合じゃないけど今できることを今までどおりでやるしか無えねえか…」
瓶子は河合とほぼ同意見か。
ただ、それは前進できない故の現状維持。つまり前向きな現状維持なわけだ。否、微量でも前進しているんだから後ろ向きな前進とでもいうのだろうか。
保守的な考えではあるが堅実路線だともいえる。少なくとも怠惰ではない分マシだ。
「だよなぁ…。他にやれることなんて、もうあらかたやっちまった気がするし。
とはいえもう少し探してみるか。個人でだったらなんか変わった技みたいなもんがあるかも知んないしな」
木田も瓶子に近いけど、それでもこいつは積極的といえるだろう。例の早弾きのアドリブもその表れか。
といっても、残念ながら現状は頭打ちと認めたのだろう、今後を考え倦ね個人で試行錯誤といった感じだ。
「僕もなにができるか解らないけど、それでもがんばってみるよ。
練習するのはもちろんだけど、他にももう少し知り合いに声を掛けてみるとかしてみるかなぁ…」
虎谷も結構前向きだ。
解らないとか言ってる割には具体的行動を起こそうとしているところなんて、こいつ小心者なくせに随分とやる気になったものだ。
「そうだな。虎谷じゃないけど、そっち方面も必要か。
オレとしては実力さえ有ればファンなんていくらでも勝手に湧いてくると思ってたけど、なるほどバンドをプロでやろうってんなら、そっち方面も考えないとダメだったか。正直目から鱗な気分だ」
ただ、こうは言ってはみたけど、やっぱりなぁ…。
まあ、気は進まなくってもやるのだが。
……って、やるしかないんだろうなぁ…。
「おいおい、それって本気で言ってんのかよ?
まさかこれがあの敏腕プロデューサーの正体だったなんて、マジで意外だぜ…」
河合が溜め息を吐いている。瓶子達も意外そうに唖然といった様子だ。
「うるせーな。オレは元々はライターだったんだからそっち方面は得意じゃねえんだよ。
てか、オレもお前らと同じで普通の高校生に過ぎないんだから過剰な期待をしてんじゃねえよっ」
そうなんだよな。オレってばプロデューサーとはいっても、そっち方面はまるっきり教えてもらってないんだよな。その手のことはそういう部門の人間に丸投げだし。
「どこがだよっ! お前みたいな普通がいてたまるかっ!」
河合がツッコミを入れてくる。
瓶子達も同意見と揃って首を縦に振る。
こいつら……。
まあ、確かにオレの今までを考えれば普通とはいえないのかも知れない。普通の高校生ってのは望んでもこんなことはできないだろうからな。
とはいえど、これも貴重な経験か。
なによりもオレはこれでもプロだ。ならばやってやろうじゃないか。
よ~し、みてろよ。絶対にこいつらを一人前のプロにしてやる。
※1 リハーサルはあくまでも本番の準備、調整等が行なわれるだけで練習できるわけではありません。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




