表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
327/420

対バンとチケットノルマ

 知らないものを題材にするってのはやはり厳しいです。それでも始めたからにはそれなりにがんばってはみますが恐らくは現実と比べて随分と齟齬のあるものとなると思われます。所詮はものを知らない素人の書くものなので、まあこいつじゃ仕方がないかと笑って流してくれれば助かります。

 10月に入りSCHWARZはその活動をより本格化させた。

 本当なら先月の段階でといきたかったのだが、さすがにまだ計画を立てたばかりだったため、いきなりであまりスタジオやライブの予約が取れなかったんだからそこは仕方の無い話だ。

 本来なら今月だって普通は難しいのだが、そこは兄貴達の顔ってところか。否、オーナーがオレの正体を知ってるってこともあるかも知れない。

 まあ、どっちにしてもこうして急な予約が取れたのは兄貴達やオレに対するコネの影響があってのことだろう。


「よし、少し時間には早いけど今日はこれまでだ」


「たあ~っ、もうかよ。でももう一曲ってのには時間が足りないし仕方ないか。できればもう少しやっておきたかったんだけどな」


 オレの告げた終了の言葉に木田がこんな言葉を返してきた。

 う~ん、変われば変わるものだ。先月の段階じゃこんな余裕なんて無かったのにな。


「まあ、明日はライブだし、気持ちは解らないでもないな。

 ただ、俺としては結構良い線いってるとは思うんだけどなあ…。なあ、男鹿はどう思う?」


 少し不安そうな木田に対し河合は結構自信有りげだ。

 本番前のこいつの前向きさは正直好ましく思う。さすがはSCHWARZのムードメーカーだ。まあ、時にはスベるからムードブレーカーとしての面もあるけど。

 でも、こんなこいつにだってこいつならではの持ち味が有る。時々スベる点は問題だけどそこは仲間のフォローでなんとかすればよいだけで、それだけでこいつを否定するのはもったいない。

 実際最近のこいつは以前と比べて随分とマシになってきている。恐らくは一時期己の立場を脅かしていた亜姫に対する危機感のせいだろう。オレが新メンバーの話をした時も不安そうにしていたし。そのせいか亜姫を意識しているのが今でも時々感じられることがある。まあ、それが良い影響を与えているのだから今は気にすることもないだろう。


「ああ、まずまずってところだな。同期音源との合わせが少し大変だけど、そこまで違和感無くできてるしこれなら問題無しなんじゃないかな」


 こればっかりは仕方が無い。それを承知の上の同期音源なんだから。なのでやるべきはそれを気にさせないような演奏をするくらいのものだろう。

 その点今回は合格点をやってよい仕上がりだと思う。あとは本番でそれをどこまで再現できるかだ。


「よっしゃ~っ! これで男鹿の御墨付きだっ。明日は成功間違い無しっ」


 え?

 さすがにそう決め付けられると少し不安になってくる。

 だが、ここは士気を下げるようなことを言うわけにはいかない。嘘でもその姿勢を示すべきだ。


「ああ、その意気だ。明日は期待しているぜ」


 ただ、この言葉に嘘は無い。やるべきことはやったのだから明日はベストを尽くすだけ。と言っても実際にやるのはオレではなくこいつらなんだけどな。

 さて、明日のライブがどうなるか、見せてもらうことにしよう。


          ▼


 明けて月曜日の放課後、オレと河合は軽音楽部部室へとやって来ていた。


「あ、男鹿先輩、お疲れ様です。河合先輩も先週はお世話になりました」


 部室へと入ると同時にいきなり声を掛けられた。

 ええっと、確かこの子は……。


「なに言ってんだよ、Chocolate Sundayの子達だろ。高階さんの友人の子達なんだから、それくらい覚えておけよ」


「いや、それくらいは覚えているって」


 河合のやつ、失礼なことを言ってくれる。

 とはいっても、覚えているのはそこまでで個人の名前までは知らないのだが。だいたい知り合いといっても高階を通しての関係だし、そこまでの付き合いは無いからな。

 そんなわけでこいつらのことを覚えたのも最近のことで強ち河合の言うことを否定しきれなかったりするのだが、あえてそれを言うこともないだろう。


「それよりもお前がこんな風に言われるなんて、いったいこの子達になにをしたんだ?」


 オレもあの時舞台裏にいたけど、正直こいつがなにかしてたようには思えないんだけどなぁ…。


「ええっ? そんな風に考え込まないでくださいよ。私達は先輩達とご一緒できただけで十分だったんですから」


 ああ、なんだ、ただの社交辞令か。それなら納得だ。


「ええ、お陰で私達のチケットノルマもなんとか捌けたわけだし、そっち方面でも世話になったっていえるものね」

「そうよね。私達の知名度じゃ絶対にノルマ達成なんて無理だもの。

 今回それができたのも先輩達とライブが一緒だったお陰。だから先輩達には大感謝よ」


 う~ん、確かにこいつらはこの春に始めたばかりのやつらだし言ってることは確かかもな。


「さすがにそれは大袈裟過ぎだろ。

 確かに無名のやつが対バンでライブをするのは自分達だけでは足りないものを他のバンドと力を合わせて補い合うのが理由だけど、SCHWARZだってデビュー間も無いバンドなんだしそこまで気を遣うことも無いって。

 そりゃあ人気のある他のバンドに(あやか)ろうってんなら、いつまでも人気の低いままだと立場的に気を遣う必要もあるかも知れないけれど、今はこいつらもお前らも立場は全く同じなんだから対等に接すればいいんだよ」


 まあ、こいつらは二年生だけのバンドだから上級生に気を遣ってるのかも知れないけど、実力の世界にそれは無用だ。


「なにを言ってるんですか。SCHWARZは男鹿先輩、つまりJUNプロデュースのバンドなんですよ。しかもデスペラードの弟分的バンドとして認知されているわけだし、そんなバンドが私達と同じなわけないじゃないですかっ」


 諭そうとしたオレの言葉は即否定された。

 う~ん、なるほど言われてみれば、客観的視点だとそういうことになるのかも知れない。

 実際そのお陰なのだろう、ライブチケットの売り上げはノルマの20枚を上回る56枚だった。目標の36枚を20枚も上回っている。これなら週にもう1日借りることができそうだ。

 だがしかし、これってあくまでも物珍しさ故の集客でいつまでも続くわけじゃないんだよな…。


 ワンマンライブに掛かる費用は小さいところで諸費用含め1回20万円近くだという。もちろんそれは場所によって違うのだが。

 仮にキャパ数200人の会場でチケット代を2000円で売ったとする。その場合完売できたとすれば40万円の売り上げで20万円の黒字になる。但しこれはあくまでも完売できた場合の話だ。最低でも半数の100人の客を呼べないと赤字である。月5回2時間の練習をするならさらに4万円分、20人の客が必要だ。

 もし月4回のライブを行なうなら最低でも延べ500人近い客が必要なわけでそれだけのファンが必要となる。


 はあ…。相当至難な話だな。アマチュアの多くが対バンでノルマを分散させる理由がよく解る。

 今回のオレ達の例だと6組だったから1組のノルマ20枚で合計120枚の24万円。ハコ代の20万円相当はこうして(こな)されているわけだ。


「ところでお前らってどれだけチケットが売れたんだ?」


 気になったのでChocolate Sundayの子達に訊ねてみた。


「21枚です」


 嬉しそうに応えてはきたが、その数はノルマとほぼ同じ。やはりチケットを売るのは随分と厳しいようだ。


「そっか、好かったな」


 とりあえずはこう応えるべきだろう。実際始めて間も無いってことを考えれば、これは快挙というべきことなのだろうから。


「ありがとうございます」


 それは彼女達も解っているようでこんな素直な返事が返ってきた。

 なお、ここで彼女達のバンド名の由来について聞くことができた。

 それはなんとも謙虚なもので……ってバンドの現実をみれば一概にそうとも言えないのかも知れないけれど、毎回ライブ後に打ち上げでメンバー全員がチョコレートサンデーを食べられるくらいの利益を出せるようになりたいという目標が由来とのこと。

 単に甘くて可愛らしいっていうイメージ由来ではなかったんだな…。


 オレ達がこんなやり取りをしているうちに瓶子達がやって来た。


「じゃあ、メンバーも揃ったことだしオレ達はこれで失礼するよ。

 これからもお互いにがんばっていこうぜ」


 Chocolate Sundayの子達に別れを告げたところで、さあ反省会を始めるとしよう。

※作中にある蘊蓄はあくまでも作者の(にわ)かな知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ