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ないものねだりの I Want You

 結局、昨日の高階とのカラオケは得られるもの無しの結果に終わった。

 それどころか今朝方なんて散々あれこれと問い詰められることになってしまったし。まさか鈴木が奈緒子の姉だっただなんて思いもよらなかった。

 そんなわけでちょっとした騒ぎとなり、昼休憩は誤解を解くことに労力を費やす羽目に。

 今日香織ちゃんが来ていなかったのは果たして良かったのか悪かったのか。


 まあ、オレの身近なところで探そうと思ったわけだからそれが尽きた時点でこうなることは当然か。なによりもそんなところから簡単に見付かるなんて思ったこと自体が間違いだったのかも知れない。

 う~ん、やっぱり今までが巧くいき過ぎだったってことか。周りに優秀な人材が多かったせいで物事を甘くみ過ぎだったようだ。


 でもなあ…。

 なんだかんだいってもオレ達はみんな同じ人間なわけだし、多少の個性の差はあるにしても可能性は平等だと信じていたんだけどなあ。まさかこんな結果になるなんて思いもよらなかった。

 つまりオレは現実に夢をみがちなロマンチストだったってわけか。認めたくはないけど認めるしかない。現実は(あま)りにも無情だ。

 否、まだそうと決まったわけではない。今回のことはアプローチの仕方が悪かっただけだ。(たと)えるならば海の物を山に求めたようなもの。やはりその手のものはそういう場所で求めなければいるわけがない。

 よし、そういうことなら合唱部でも(のぞ)いてみるか。


          ▼


 というわけで放課後。それじゃあ早速行ってみよう。

 ……ところで合唱部の部室ってどこだっけ?


 仕方が無い、由希達にでも訊いてみることにしよう。



「さあ? でもそんなの合唱部の子に訊けば……って、そういえば合唱部の子って知らないわね」

「そういえば僕も知らないな。

 ねえ、陽子ちゃん達は知らないかな?」

「え? ごめんなさい。私も心当たりが無いわ」

「うん、私も」


 朝日奈や向日(ひゆうが)はともかく由希や天堂が知らないというのは意外だ。このふたりって結構顔が広いからそこに期待してたんだけどな。


「う~ん、私も知らないな」


 美咲ちゃんも知らないようだ。

 さて、こうなるとどうしたものだろう。


「てよりも、うちの学校って合唱部なんてあった?」


 意外なことを言い出したのは意外な人物……でもないか、こんなわけの解らないこと言って場を混乱させてくるのは大抵いつも斑目だし。


「あるはずだろ。こういうのって部活の定番なんだし」


 そう、だから無いなんてことはないはず。


「まあ、なんの用があるかは知らないけど、とりあえず生徒会か職員室で訊けば解るんじゃない」


「まあそうだな。それじゃそうしてみるか」


 由希の提案に従ってオレは職員室へと向かうことにした。


          ▼


「おや、男鹿くんじゃないか。今日はいったいなんの用だい?」


 オレに声を掛けてきたのは軽音楽部顧問の音無だった。

 なんてことだ、選りに選ってこの変人教師に見付かるなんて。

 とはいえど辺りには他の教師はいないみたいみたいだし、いてもそっちに声を掛けるのは彼を無視している形になるのでやはり無理。

 仕方が無い、これでも一応は教師なわけだしこの際こいつでもよいか。できれば修学旅行の時のあの引率教師が好かったんだけど。



「え? 合唱部? 残念だけどうちには無いな」


 音無の返答に唖然。まさか本当に無かったとは。


「ほら、うちって軽音楽部があるだろ、だからそういう子達ってこっちの方に流れてくるんだよね。やはり歌うならあんな堅苦しい課題曲よりも、自由に好きな曲を歌う方が好いからね。

 そんなわけでそういう子達は音源を用意してうちで歌ってるってわけさ」


 いやだからって、そんなやつばかりじゃ……ばかりなんだろうな。だからこそそういう部が無いという状況になっているわけだし。


「でも、やはり人前で歌いたいってやつもいるんじゃないですか?」


 どうしても気になるので訊いてみる。


「え? 君らしくないことを言うね。 

 そういう場合はライブハウスとかを利用すればいいじゃないか。あそこは自由に歌っていい場所なんだから。

 なによりも音楽は自由なんだし、その表現だって人それぞれで様々だ。だからなにもロックやアイドルなんてものに拘らなくたっていいはずだろ。クラシカルな合唱だってちゃんとした立派な音楽なんだし。

 実際うちの子達はそうしてるよ」


 あ……。

 言われてみれば確かにそうだ。

 音楽が自由であるべきなのは確かだ。だが、だからといってそれまでの伝統や格式を否定する必要は無い。まいったな、全く以て盲点だった。

 ……って…。


「えっ? そんなやつらもいるんですか⁈」


「もちろんいるさ。その名も森越学園合唱団。

 と言っても以前廃部寸前だった合唱部を吸収合併しただけなんだけどね。

 そんなわけでうちの軽音楽部は生徒達の音楽活動全般を取り扱っているんだよ」


 なんとも意外な話だ。

 いや、でも納得のいく話でもある。廃部寸前の部が部として活動を続けるとなれば他に方法は無いわけで、つまり苦肉の策がこの吸収統合だったわけだ。


「で、君がそんなことを言ってくるってことは、なにか考えてることが有るんだろ?

 もしかするとZENZAバンド…否、今はSCHWARZだったっけ、差し詰めそこに新メンバーを迎えようってところかな」


 う…、見抜かれてる。


「その考えが無かったわけじゃないですけど、今回は見合わせることにしますよ。恐らくは人数も多くないでしょうし、なによりもそこまで本気でやってるやつを唆して引き抜こうなんて気にはなれないですしね」


 というわけでオレは話を切り上げてその場を辞することにした。


 はあ…。これでオレの目論見は完全に潰えることとなったわけか。

 仕方が無い、別方向での梃入れを考えるとしよう。

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