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純、高階をデートに誘う?

 都合により次回の投稿から少し時間が掛かります。

 できるだけ早めの投稿を心掛けますので今後も引き続きよろしくお願いいたします。


→※2の蘊蓄ですが説明を片方だけしか載せてなかったため追加しました。[2024/02/29]

 明くる日の放課後、オレは高階達を訪ねて二年生の教室にやって来ていた。


「珍しいですね、男鹿先輩の方から訪ねて来るなんて。いったいどういう風の吹き回しなんですか?」


 相変わらず奈緒子の言葉は皮肉めいている。


「いや、(たま)にはいつもと違う面子でカラオケにでも行こうかと思ってな。それでお前らをと思ったんど、どうだ? 時間は空いてるんだろ?」


 とりあえずそれは置いておいて、オレは奈緒子の質問に応えるべく早速話を切り出した。


「ええっ⁈ いいんですか、私達で⁈」


 相変わらずといえば高階もそうだ。但しこの分なら問題無くOKをもらえそうだ。


「あ~、せっかくだけど私は用が有るから貴子だけで行ってきなよ」


 ただ、意外にも奈緒子からは否定の返答が返ってきた。


「ええっ、ちょっと奈緒子ったらそんなこと一言も言ってなかったじゃないっ」


 どうやら奈緒子のこの理由は嘘らしい。

 全く、随分と嫌われたものだ。


「馬鹿っ、せっかくのふたりっきりのデートチャンスじゃない。人が気を遣ってるんだから少しは察しなさいよっ」


 おい奈緒子、聞こえてるぞ。

 いかに高階の耳許で囁くとはいえそんな露骨さはないだろう。

 こいつ、絶対に(わざ)だな。オレにもそれを意識させるのが目的か。


「ええっ⁈ でも、そ、そんな……。

 ねえ、やっぱり付いて来てよ。ふたりっきりなんて心細くて堪えられないよ」


 高階も小声で奈緒子に応じているけどこっちの方もまる聞こえだ。まあ、目の前でやってるんだから当然だよな。

 それにしてもこいつら全然そのことを気にしていないんだな。


 このやり取りが聞こえていたのはオレだけだったわけでもないわけで、クラスメイトのひとりが高階に声を掛けた。


「ねえ貴子、だったら私が……」


 ただ、それは奈緒子にキツい視線を浴びせられたことにより途中で封殺させられることとなったようだ。

 いや、視線だけじゃないか。「あんた、馬に蹴られて死にたいわけ?」なんて言って諭しているし。

 恐らくはこの子、奈緒子の代わりに付いて来ようとしてたんだろうな。目的はやはりオレに(おもね)り取り入ろうってところか。最近じゃオレの正体もほぼ知れ渡ってしまってる感じだし。


 まあ、そんなわけで結局は高階とふたりでということになったわけだ。

 なんか背後から「貴子、しっかり~」なんて声が聞こえるような気がするが気にしないことにする。全く、奈緒子のやつめ。


「じゃ、じゃあ行くか」


 気まずそうにしている高階を促しオレはそそくさとその場を離れることにしたのだった。


 一応言っておくけど、決してデートじゃないからな。


          ▼


 高階とふたり、学校を出ていつもの行き付けのカラオケボックスへと向かう。……のだが…。


「あの…、どうかされたんですか?」


 不審がる高階を差し置いてオレは周囲の様子を窺い探る。

 自分で言っておいてなんだけど、客観的に見れば確かに不審な行動に違い無い。


 右よし、左よし、右よし。


 幼い小学生が横断歩道を渡るかのような錯覚を起こす表現だが、できればスパイみたいと言ってほしい。

 ……否、これも撤回だ。ただ、それでも今のオレの心境はそれに近い。なんてったって尾行を探っているわけだからな。


「ちっ、やっぱり()けてきていたか」


「えっ?」


「ほら、そこの店の陰を見てみろよ」


 不思議そうにしている高階を促す。


「ええっ⁈ 奈緒子⁈」


 他にもふたりの女子がその後ろに控えてこちらの様子を窺っている。ひとりは奈緒子に咎められていた子のようだ。


「全く、なんでこう女の子ってのは他人事を詮索したがるかな」


 あいつらには、これはデートって認識みたいだから明らかに出歯亀 (※1)だ。といってもオレにはあいつらが期待するようなことに及ぶ気なんてさらさら皆無なのだが。


「もうっ、奈緒子ったらっ」


 羞恥に身悶えする高階。


 ああ、こっちもか。

 デートのつもりは無いっていうのに、あいつらのお陰で変に意識させてしまったじゃないか。


 というわけで、奈緒子達の元へと出向くオレ。

 そして一言言ってやる。


「お前ら、そうやってこそこそ…と()けて……」


「「いや~っ!」」


 蜘蛛の子を散らすよう (※2)に逃げ去る奈緒子達。まだ声を掛けてる途中だというのに…。

 しかも蜂の巣をつついたよう (※2)な騒々しさ。

 これじゃまるでオレが怪しいやつか何かじゃないか。全く失礼なやつらだ。


「あ…、行っちゃいましたね…」


 はは、どうやら高階のやつ未だに心細かったようだな。奈緒子達を未練そうに見ているし。


「ああ、せっかく誘い直してやろうと思ってたのに」


 建前ではなくこれは本音だ。

 なんてったってオレとふたりじゃ高階が固くなりそうだしな。だから緊張を(ほど)くにはあいつらがいてくれた方が都合が良かったんだけど。


「まあ、行っちまったもんは仕方ない。

 それじゃオレ達も行くとするか」


 高階を促し先を進む。


 ああ、これでまたふたりきりか。

 この客観的にみればデートって形はいろいろとまずいんだよな。オレにはそんなつもりなんて無いのに。


 高階との雰囲気の気まずさもある。まあこれは意識しないことでなんとか誤魔化せばいいか。


 ただ、別にもうひとつ問題が存在する。今のオレは正体が割れているわけだし、これが世間に知られればやはりスキャンダルってことになるんだろうか。

 これが香織ちゃんの耳に入ったりしたら……って、まず間違い無く入るだろうな。奈緒子や友人達が()けてきてたし。それに人の噂に戸は立てられないっていうからな。

 あと美咲ちゃんなんかも面倒そうだ。未だに早乙女純とオレをくっ付けようなんて考えてるみたいだし。


 まあ、今は考えないことにしよう。まずは目の前の高階とのデートだ。

 ……じゃねえよ。なにを認めてるんだオレは。

 そう、これはデートじゃない。仮令(たとえ)世間的にそうだとしても、あくまでも実態はそうじゃない。

 なんてったってオレには別に目的が有るんだから。

※1 最近ではあまり使われることのなくなりつつあるこの『出歯亀』という言葉の意味は『他人の恥ずかしいところ(主に性的に)を覗く行為』のこと。作中のように他人の恋愛沙汰を覗く行為にも使われたりもしています。読み物なんかだと大抵は当事者達がコトに及ぼうってところで見つかって台無しに(もちろん双方にとって)なるのがお約束的展開です。

 さて、この言葉の由来となったのは実は『出歯亀事件』と呼ばれた明治時代の悲惨な事件だったりします。簡単に説明するとすればよくある変質者によるレイプ殺人事件です。で、その内容はというと、池田亀太郎という容疑者が風呂屋で覗きをした後そこで見かけた女性を()けていき、人気の無い空き地へ連れ込みコトに及んだとのこと。その際当然被害者は悲鳴を上げるわけですが、そこで濡れ手拭を口中に突っ込まれそれが原因で窒息死した模様。なにが悲惨かっていうと、その被害者女性って結婚一周年を翌日に控えた妊娠5ヶ月の新婚さんだったってこと。いや、新婚でなくても女性としてみれば悲惨ですが、これに加えて幸せの最中での凶事ですからね…。

 なお、被告弁護人によると冤罪の可能性があるとのこと。なんでも証拠が怪しいらしいです。他にも警察の拷問により虚偽の供述をとられたとも証言しています。但し裁判の結果は有罪でした。果たして真相はどうだったのか。まあ日頃から覗き行為とかをしていたというので嫌疑は自業自得ではあるのですが。

 で、『出歯亀』という言葉の由来ですが、この容疑者の池田亀太郎の渾名です。彼が出歯だったことからこの事件は『出歯亀事件』と呼ばれるようになり、世間に覗き魔が『出歯亀』と呼ばれるようになったとのことらしいです。

[Google 参考]


※2『蜘蛛の子を散らすよう』とは『群衆が散り散りになって逃げ去る様子』を喩えた言葉。実際孵化間もない蜘蛛の子達は集まって団居(まどい)と呼ばれる小さな玉を形成するらしいのですが、これに指先で触れたり風に吹かれたりすると驚いた子蜘蛛達が散り散り逃げていくわけで…、これが『蜘蛛の子を散らすよう』というわけです。なおこの子蜘蛛達は少しすると再び集まってまた団子状態となるそうです。

 因みに辞書等の説明では卵嚢の方を破いているらしいです。これって結構丈夫なので少しばかり力が必要なんだとか。恐らくは先ほどの説明に『些細なことで』と付くのが正しい意味だと思うのでなんだかこっちは微妙に思えます。

 一方『蜂の巣をつついたよう』とは『手に負えない程の大騒ぎの様子』を喩えた言葉。こちらは危険なので蜘蛛の子のように試さないでください。

 なお、作中ではネタとして敢えて両者を対比させておりますが、蜂の方は巣を守るべくその場に留まるので、同じ大騒ぎでも逃げ去る場面で使うのは不適切だったかも知れません。


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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