バンド名が決まったら
さて、新しいバンド名が決まったわけだが他にもやるべきことがある。
「じゃあ次だ。
お前らもプロを目指すっていうんならコピー曲ばかりってわけにもいかないってことでいくつか曲を作ってきた」
「「おおっ⁈」」
オレのこの言葉に一同が驚きと期待の声を上げる。
でも、別に怪訝しいことじゃないだろうにな、これでも本格的にプロデュースすると言ってんだから。
「とりあえずは5曲だな、これだけ有れば今のところは十分だろう。
ただ、どれも結構難易度があるけど恭さん達の指導を受けたお前らなら当然大丈夫だよな?」
少し挑発的な台詞と伴に瓶子、木田、虎谷に視線を投げ掛ける。
まさかできないとは言わないだろうな。一応はライブでの実力を確認した上で作った曲なので大丈夫なはずだと思うんだけど。
「当然だろ。まあ任せておけよ。
と言ってもまだ曲を確認したわけじゃないから説得力は乏しいかも知れないけどそれでも俺達だって着々と実力を伸ばしてるんだ、あのデスペラードの指導が伊達じゃないってことをみせてやるぜ」
瓶子の頼もしい返答に木田もそうだと肯く。虎谷も……って、なんでお前は不安そうなんだよ。そこは根拠が無い空自信でもいいから示してほしいところなんだけどな。まあ、こいつの場合は性格だし仕方ないか。
とりあえずは問題無いってことで次だな。
「あとは……そうだ、そういえばあとひとりメンバーの追加を考えてるんでその時はよろしく頼むな」
飯塚さんじゃないけれどやはりメンバーの追加は必要なのかも知れない。
「ええっ⁈ それってもしかしてアキちゃんだったりするの?」
急に虎谷がテンションを上げてきた。
「いや、さすがにそれはないだろう。なんてったってあの子はデスペラードのメンバーなんだぜ、なんで今さら俺達みたいなデビューもしてないアマチュアバンドなんかに加わらなけりゃならないんだよ」
対して瓶子は冷静だ。判断理由も実に理論的 であり合理的 。成功者がまた一からやり直す理由なんてどこにも無いからな。
「でも、アキちゃんってゲスト加入で正式なメンバーじゃないんだろ、だったらうちにきてくれる可能性だって有るんじゃねえの?」
一方で木田もテンション高めで虎谷支持だ。一応は判断理由に根拠が有るので論理的 ではあるのかも知れないけれど、実質は希望的意見に過ぎない。
「お、おいお前ら、俺のボーカルじゃ不満だっていうのかよっ?」
ふたりの言葉に慌てふためく河合。こいつまだそんなことを気にしてたのかよ。
まあ、確かに己の地位を揺るがす存在ってのは脅威に思えるものだし、気持ちも解らないでもないか。
「せっかくのふたりの期待を裏切るようだけど、今のところそのつもりは無いから。だから声を掛けてみようと思っているのは別のやつだよ。
ただ、そいつがどの程度使えるかはまだ解らないし、必ずしもOKがもらえるってわけじゃない。だから剰り期待はしないでいてくれよ」
「なんだよそれ。驚かしてくれやがって」
オレの説明に胸を撫で下ろす河合。
なんとも行動が素直なやつだ。
「ねえ、それってやっぱり女の子だったりするの?」
斑目がオレに訊ねてきた。てか、やっぱりってのはどういう意味だ。
ほら、余計なことを言うから美咲ちゃんと香織ちゃんが注目してきてるじゃないか。
いや、それはふたりだけじゃなく他の連中も同様だ。ただ違うのはこいつらの場合他人事に興味津々 ってことだ。恋愛当事者の香織ちゃんやもうひとりの当事者早乙女純……といっても美咲ちゃんがそうだと決め付けているだけど、その友人を心配する美咲ちゃんとは理由が違っているわけだからな。微妙に意味合いは違うけどこっちは興味深々 ってことになるのだろうか。
なお、もうひとりの当事者である高階とその友人である奈緒子はこの場に来ていない。こいつらは今回の話には基本的に部外者なわけだし、敢えて呼ぶ理由なんて無いからな。
ただそうなると香織ちゃんや斑目達はどうなるんだって話になるのだが、最初からこの場にいる斑目達や暇さえ有ればやって来る香織ちゃんについては……まあいつものことだってことで全く気にしていなかったんだよな。よく考えたらこいつらも部外者だった。でも、そんなの今さらだよな。
とまあ、そんなことはともかくだ。
「そこは秘密だよ。まだ確定しているわけじゃないからな。
ただ、それでも言えることは有る。それはお前じゃないってことだ」
オレは余計なことを言ってくれた斑目に皮肉で返し、この場を誤魔化すことにしたのだった。
※1『理論的』『合理的』『論理的』と似たような言葉を並べて使っておりますがそれらの違いは次のとおりです。
【理論的】論理が成り立っている。
【合理的】無駄が無く道理に適っている。効率重視。
【論理的】結論までの道筋が整っている。考える過程重視。
[Google 参考]
というわけで『論理的』→『理論的』→『合理的』といった流れになるようです。
※2『興味津々』と『興味深々』はどちらも強い興味を持つという意味ですが微妙に意味合いに違いがあるようです。
『興味津々』とは『興味が湧き出してきて尽きない』という意味。一方『興味深々』は『興味が非常に深い』と文字通りの意味。『津々』が『溢れるほどに湧き出す』という意味なのを知らないと両者を同一視しやすいので要注意。
解りやすくいえば『興味津々』は『より多く』、『興味深々』は『より詳しく』ってイメージですね。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




