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飯塚プロデューサーとZENZAバンドの評価

 いったいなにが起こったのでしょうか、23日のPVとユニーク数が激減していました。

 まあ、元々そんなに大して人気の有る作品ではないのですが、それでも普段の数値から四割減というのはあまりそういうことを気にしないようにしているとはいえショックでした。22日には久々に自己記録10位内を記録していたというのに…。

 でもなんで……と振り返ってみれば心当たりがありました。恐らくは数日前の話で某アーティストをディスったのが原因かも。

 一応は名指しではなかったし悪気が有ったわけではないのですが、やはりこういうところはもう少し配慮が必要だったのかもしれません。

 というわけで彼らのファンの方々に改めてお詫び申し上げます。ごめんなさい。

 9月を目前に控えた金曜日、オレはライブハウス『WYVERN(ワイバーン)』へと来ていた。今日は河合達ZENZAバンド四度目のライブだ。まあ、河合は一度抜けてたことがあるので三度目なのではあるのだが。


「今日はJUNくんの手掛けてる子達も出てるんだって? 確か君の専門はアイドルだったと思ったんだけど…。

 まあせっかくだしそのお手並みを拝見させてもらうとしようか」


 今日オレの隣にいるのは同じ事務所の飯塚さんだ。彼もオレと同じ音楽プロデューサーのひとりで専門のジャンルはロック。今日の目的は自身がスカウトしたマスタードボムの実力の確認らしい。そんなわけでZENZAバンドの連中はあくまでも(つい)でだ。


「まあ、確かに手掛けてるのはアイドル主体ですけど、一応はそっち方面だって多少は手掛けてはいるんですよ。最近だって『Phantom Pain』『Engage Moons』と結構曲がヒットしてるのは知ってるでしょ」


 とは言ったものの最近はこの2曲だけで他には作っていないのだが。この忙しい中とてもじゃないけどそんな余裕なんて無い。特に最近はスランプに悩まされているんだし。


「ああ、そう言えばデスペラードってJUNくんのお兄さんがいるバンドだったっけ。

 ってそうだ、あのアキちゃんって女の子、結局は君の知り合いだったんじゃないか。既に先約が有ったってことだから仕方が無いけど、それならそれと言ってくれたら好かったのに。全く人が悪いんだから」


 ああ、そう言えば結局はデスペラードが掠め取る形になったんだっけ。

 なお一応飯塚さんへの言い訳として、あの時亜姫がZENZAバンドのボーカルを務めたのはデスペラードにゲスト加入するための試験で、結果が出るまでの間に他者からのスカウトを受けないようにするためだったってことになっている。


「まあ、亜姫のことはともかくとして、あいつらだって実力は上がってきてるわけだし見るだけの価値はあると思いますよ」


 この人、まだ亜姫に未練が有るのかよ。というかそれしか眼中に無いってか? 相変わらず癪に障る扱いだ。

 だが、それも今日まで。兄貴達の元で鍛え上げられた瓶子達と、オレの鍛えた河合の実力に驚くがいい。



 そんな風に意気込んでみたものの河合達の出番は最後の方、ライブは始まってから間も無いのでまだ当分は時間が掛かる。


 ……うん、オレも何様だな。こうして他のバンド連中を無視して本命だけを待ち侘びてるなんて飯塚さんのことを言えた立場じゃない。今はそのことは置いておいてただ楽しむことに専念するか。じゃないと他の出演者達に失礼だ。


 ステージを見れば一番手のバンドが最後の曲に入るところ…って、こいつら高階の友人連中のバンドChocolate Sundayじゃないか。

 くそっ、しくじった。そうと解ってりゃ最初からちゃんと観ていたのに…。



 Darlin' see me, call me, love me

 君のことが好き~♬

 抱きしめてよ Darlin'

 君を見つめてる~♪



 お、おい、この曲って…。


「へえ~、この子達の締めの曲は加藤香織の『Darlin' -君を追いかけて-』か。やはり人気アイドルの曲は盛り上がるよなぁ。しかもこんな可愛らしい子達が歌ってるんだからなおさらだ」


 いや、そんなことは言われなくても解ってる。しかし…。

 しかし、この曲はキツい。

 いや、この曲に限ったことじゃないけど香織ちゃんの曲ってのは歌詞が…。


「おや? やっぱりライバル事務所のアイドルの曲だと複雑かい?」


 オレの内心を知らない飯塚さんが見当違いなことを訊ねてくる。だが真相を語るわけにはいかない。最近の香織ちゃんの曲の全てがオレへのラブソングだなんて…。

 ああ、羞恥で悶絶死しそうだ。




「おっ、愈々(いよいよ)だね。

 それじゃ見せてもらおうか、JUNくんプロデュースのバンドの実力とやらを」


 飯塚さんのどこかで聞いたような言い回しにオレは正気を取り戻した。どうやら羞恥に打ち(のめ)されている間にZENZAバンドの出番となっていたようだ。結局殆どがまともに観れなかったわけだが…、まああれじゃ仕方ないよな。そんな終わったことよりも今は目の前のこいつらだ。


 今日の一曲目は『Black Magic』か。バンドのイメージを観客に理解してもらうには良い選曲といえるだろう。

 演奏の方もなかなかだ。さすがは恭さん達が仕込んだだけのことはある。こいつら随分とレベルを上げたな。

 ボーカルの河合も負けてない。まあ、こいつはノリで実力を発揮タイプだからな。

 ただ歌の方は上出来だけど、問題はMCの方だ。



「みんなっ、楽しんでくれてるかっ?

 俺達は見てのとおりノリノリだぜっ。

 それじゃそんなご機嫌なメンバー達を紹介しようっ」


 一曲目が終わり河合によるMCが始まった。さて、それじゃ特訓の成果を見せてもらおうか。…って、これじゃ飯塚さんの真似みたいだな…。


 特にこれといった問題も無く順調にメンバー紹介が進む。ここまでは良い。だが…。


「そして最後にこの俺、ボーカルの河合様だっ。

 …って、誰だよっ、溜め息を吐いたやつは?

 悪かったな、アキじゃなくって。

 だが、そんなこと今を限りに忘れさせてやるっ。

 いくぜっ、『Heaven or Hell』!」


 おおっ⁈ 巧いことやるじゃないか。

 自虐的なネタを軽くやったかと思えば、それを払拭してやるという流れで自然に次の曲に入る。

 なかなか考えたものだ。恐らくはいつものアドリブじゃなく、前以てメンバーで打ち合わせでもしてたのだろうな。



 君は高嶺のBeauty Lady

 俺は底辺、Dirty Boy

 風に揺られる気ままな君を

 いくぜ、この手にGet on with you!

 Heaven or Hell,Heaven or Hell,Heaven or Hell

 勝負を懸けろ!



 河合の歌声が瓶子達の演奏に乗り会場に響き渡る。観客達もそれに乗り活気付き盛り上がりを見せている。

 うん、どうやら河合のMCは巧くいったようだ。まあ、一部から不満の声が漏れ聞こえるがこればっかりは仕方が無い。これは実力以前の問題で河合の落ち度じゃないんだし。

 でも、それだけにこの曲の歌詞は皮肉だよな。まるで河合が亜姫を望んでいるようにも聞こえるし。

 だが、そうはいっても場を盛り上げることを考えればこの選曲も仕方が無いか…。


「へえ、なかなかやるもんだね。

 でも、それだけにボーカルがアキちゃんじゃなくあの子ってのが痛いかな。きっと彼女ならもっと盛り上がってたこと間違い無いだろうからね」


 飯塚さんの反応は相変わらず。

 この人、どれだけ河合を低くみてるんだよ。これだけがんばってるっていうのに。


「やけに拘りますね。なにもあいつだけがボーカルってわけでもないでしょうに。実際こいつだって結構がんばっているじゃないですか。

 それに売れてるアーティストって、女性ボーカルよりも男性ボーカルが多いんだから変に拘ることも無いと思うんですけどね。まあ、アイドルってんならまた話は変わってきますけど」


 実際の対比は男性ボーカルのバンドが80~85%、女性ボーカルのバンド15~20%で男性ボーカルが圧倒的に多い。まあ売れてるのがこれだけってだけなのかも知れないけれど、恐らくはアマチュアを含めこの割合は変わらないだろう。

 思うに芸能界を目指すなら女性ならバンドをやるよりもアイドルとしての方が手軽ってことがあるのだろう。男性と女性じゃ需要の割合が違うからな。それに音楽をするとなると機材に金が掛かるってのもあるだろう。練習に時間を取られるってのもある。オシャレやなんかに拘る女性にはそういう余裕は無いのかも。


「ははっ、まあね。でも、僕としては女性にもこっちでがんばってほしいと思ってるからどうしても有望そうな子を見るとね」


 なるほど、そういうことだったわけか……って…。


「ちょっと待ってくださいよ。危うく納得しそうになりましたけど、それとこれとは話が別ですよね。なんでこいつが駄目であいつなのかその説明になってませんって」


 恐らくは詭弁で煙に巻くってつもりは無く、ただ本音を語っただけだろうけど、でもそれじゃ説明になってない。


「いや、確かにそうだけど…。

 まあ、より優れたものを見るとそれより劣るものに興味がいかなくなるってことかな、ははは」


 うぐっ、納得はいかないが納得がいく。

 いや、変なことを言っているのは解っているけど他になんといったものか。とにかく認めるのは癪だけど理に適っているだけに納得してしまう。

 くそっ、本人に悪気は無いんだろうけどそれだけに余計に腹が立つ。笑ってんじゃねえよちくしょー。


 まあ、そういう理由なら仕方が無い。この人になにを求めても無駄だ。


「でも、先入観無しに冷静にみてみれば実力は申し分無いかな。だから後は実績を積むだけだ。そうでなけりゃさすがに君でも上を納得させることはできないだろ?」


 え? 意外な言葉が返ってきた?

 この人、一応は評価してくれてたんだ。


 でも、実績か…。まあそこは地道に積んでいくしかないだろう。幸い今この場の連中の反応は悪くない。後はこの状態を維持し支持してくれるファンが出てくるのを待つだけだ。否、もっと攻勢を掛けるべきだな。

 よし、こいつらにもう一曲くらい作ってみるか。

※この作中にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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