今はできることをやろう
物事というものは必ずしも巧くいくことばかりとは限らない。そして流れというものもそう簡単には変わらない。この前のWISHの一件で漸くオレ達もスランプから脱却できたとばかり思ってたのに。
「またしてもあいつらか。これでBRAINの件に続いて二度目。しかもこんな形でしてやられるなんて…」
なんの話かといえば、この秋から始まるアニメ『銀河英雄戦記』のテーマ曲のことだ。
制作委員会によるとWISHの『ミーティア』が没となったのはスポンサーの意向により主題歌に選ばれた曲との兼ね合いによるとのこと。相手はまたしてもトリニティ。BRAINに煮え湯を飲ませてくれた大東プロのアイドルである。なお、その曲のタイトルは『スターダストレイン』。なるほどWISHの『ミーティア』とはまる被りだ。そんな理由でWISHのその曲はタイトルの如く流れてしまったわけである。
「全くですよ。しかも私達これで二度目ですよ。本当大東プロの連中ったら憎ったらしい」
ああ、そう言えばそうだ。望じゃないけどこいつら前にもエルダーシスターズ相手に持っていかれてるんだっけ。
幸い今のところはこいつら二組だけで、リトルキッスやフェアリーテイルまでに及んではないけど、だからといって油断はできない。特に香織ちゃんは強敵だ。二年連続人気ランキング3位ってのは伊達じゃない。他にも瑠花さんだっている。
……オレ、よくこんな中で今までやってこれたよな…。
とはいえこれを全て運だったとは言いたくはない。なんてったって美咲ちゃんやレナ達が一生懸命がんばってきた結果なんだ、まぐれなわけなんてあるものか。それは望達WISHや良昭達BRAINだって同じこと、ならばオレのやることはひとつ。
「だったらやることはひとつだな。やられたらやり返す。倍返しなんてケチなことを言わないで徹底的に蹂躙してやるだけだ。喧嘩の勝利ってのは相手の戦意を完膚なきまで折ることだからな」
いや、さすがにこれは言い過ぎか。だが目標ってのは過大なくらいで丁度よい。中途半端な目標は達成した時点で気が抜けることになるだけだし。まあ現実はどこかで妥協が必要になるものなんだから折り合いはその時に考えればよいだけだ。
「うっはぁ…。人柄は姉ちゃんから聞いてはいたけど、まさかここまでヤバいこと言う人だったなんて…」
うっ…、良昭が引いている。やはりこれは言い過ぎだったようだ。
「はは、まあ好いんじゃねえの。やはりやるなら徹底的だろ。侵略すること火の如く、激しきこと雷霆の如しっていうしな」
だが浩司の方は肯定的で乗り気な様子だ。
「まあ、獅子は兎を狩るにも全力を尽くすっていいますし、表現はともかく全力でってのには賛成です」
健次もまた浩司に続く。ただ後の台詞は余計だ。なんだよともかくってのは。
「ええ、今度こそ。三度目の正直です。…ってことで純さんよろしくお願いしますね」
かなえもまた……って思ったら、お前はオレに全面依存かよ。見れば望達ふたりも同様とばかり笑顔をオレに向けてきている。こいつら余計なところで連携ができてるし。そういうのは営業でやってくれってんだ。
「お前らなにを他力本願なこと言ってるんだよ。そんなんだから他人に遅れを取るんだよ。頼むからこの度のCMくらいちゃんと成功させてくれよ」
これでも一応はオレだってがんばっているんだ。だから今度はこいつらの番。
……問題はBRAINの方だよな。来年は受験生なんだから余り過剰なことをさせるわけにはいかないし…。
いや、それはWISHも同じなのだが、こいつらは受ける学校のレベルが違うから。
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「う~ん、WISHにBRAIN、どちらも来年は受験生か。いったいどうしたものやら…」
帰宅後もオレは頭を悩ませていた。だが、だからといって良案なんてそう都合好くなんて浮かぶわけもない。
「とりあえずはいつものパターンだな。今年の内にやれるだけやって来年はCMとかで乗り切るしかないか」
あいつらの負担を考えるのなら、結局はここに行き着く。だが、今年はあのざまで余り成果が芳しいとは言い難い。
くそっ、他にどうしろっていうんだ。
……暫く考え込んでみたがやっぱり結果は同じ、時間を無駄にしただけだった。
「仕方が無い。今はできることをやろう」
ということで、いつもの如く曲作りに勤しむことにする。少し気は早いが冬の曲だ。
う~ん、冬か…。偶にはクリスマスイメージの曲でも作ってみるか…。
ということで、一晩掛けて何曲か作り上げたわけだけど…。さて、どれをどのユニットに振り分けよう。
まずは『White Wish』。これはタイトルからいってWISHだな。
この曲は普通にホワイトクリスマスへの憧れを詠ったものでもあるけれど、穢れ無き祈りって意味合いも込められている。女の子ってのは恋愛に神聖なイメージを重ねているものだからな。ただ、実際は大抵欲望に塗れた祈りなのだが、まあ純粋なことには違い無いか。
そんな実態ではあるがとりあえずこの曲では綺麗事イメージである。アイドルってのは夢を売る商売だからな。ただ、そのアイドルが欲望塗れってのはなんとも皮肉ではあるけど。
次は『White Wind』。これはリトルキッスってところか。舞う雪と戯れるってのはありふれた定番だけどそれだけに王道ともいえる。だったらここはやはりここは美咲ちゃん達だ。
続いて『White Dream』。これはフェアリーテイルか。
……否、BRAINにしよう。同期デビューの二組だし、wishとdreamの似た意味合いで対にしてみるってことで。でも、そうなると少しそれ用に修正が必要だな。
『Innocent White』。これは……やはりリトルキッスか。じゃあさっきの『White Wind』はフェアリーテイルだな。
Innocentってのは穢れ無いって意味の言葉だけど、やはり神聖なイメージだし悪戯者イメージのフェアリーテイルには荷が思い。無邪気なら良いってものじゃないのだ。まあ、端で見てる分には好ましく微笑ましくはあるのだけど。
一方でwindは『曲がる』って意味が有るように場を荒らす『強い風』のことだ。まあ、荒らすってつもりは無いけれど、それでも雪を舞い踊らせる強さは有る。
風といえばbreezeも有るがこちらは『微風』という意味。こっちだと精々揺らす程度。
大人しく落ち着いたイメージも悪くはないが、これは浮かれて勢む心を表した曲。ならばやはりフェアリーテイルが向いている。
『Rule of White』。これはどうしよう。一応は女性の憧れで男性を縛る…元い求めるイメージの曲なんだが…。
うん、これもBRAINにするか。どうにも諸星三兄弟のトリニティってのは手強そうだし、武器は多いに越したことはない。
よし、これもそれ用に手直しだ。男性が女性をエスコートするイメージにすれば良い感じになるだろう。
「とりあえずはこんなものか。
よし、この調子で来年使う曲も作っていくか」
朝日が窓から射し込む。
それはオレ達の行く手を明るく照しているかのようだった。




