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パフォーマンスは考えて

 今回名指しこそしていませんが、とある有名バンドを否定するような内容となっております。ただ、これは作中のキャラ達の倫理観に基づいた頭の堅い考えであり、作者自体には…正直好みではありませんが一応の理解はあるつもりです。

 そんなわけで、該当アーティストに心当たりのあるファンの読者様方、ごめんなさい。

 心配していた『Chocolate Sunday』のステージは予想に反してなかなかの盛り上がりだった。

 可愛らしい女の子達が揃っているだけのバンドだったはずが、いつの間にやらレベルを上げてこうしてライブをするのに十分なレベルとなっていたとは…。


 高階の友人達だよな…。うん、覚えておくことにしよう。



「ええっと、次は『スカーレット』ね。

 ねえ、このバンドってどんな子達なの?」


 みさ姉がオレに訊ねてくる。


「知らねえよ、そんなこと。オレだってそんなに詳しくないんだから」


 だいたい知り合いの安能達のバンドについてでさえそんなによく知らないってのに、なんで他のやつらのことが解るってんだ。


「ちぇっ、使えないんだからっ」


 みさ姉が悪態で返してくる。

 オレも負けずに言い返して……やろうと思ったけどやめだ。そろそろステージが始まるからな。



『スカーレット』は女性四人組のバンドだった。

 そして名前の通り情熱的でエネルギッシュなパンクバンドだった。


 うん、なんだあれは。呆れてものが言えないとしか言えない。演奏よりもパフォーマンスよりの彼女達はとにかく滅茶苦茶だ。

 まず格好。胸と下腹部の際どい場所を何だかで辛うじて覆っているだけ。

 なんだよ、ほぼ全裸じゃねえか。これでもお前ら女だろ? 慎みってものは無いのかよっ?

 次にパフォーマンス。これもやっぱり下品に尽きる。下半身を突き出すようにして激しく振り捲るわけで……「フォーゥ!」と叫ぶあのゲイ人…じゃなくって芸人顔負けのそれを女性の身でありながらするわけだ。あり得ねえだろ?


 なんでこんな馬鹿なマネをと思ったわけだが、曲を聞いて納得した。正しくは何者のコピー曲かを知ってだが。なんでこいつらはあんな○ン○ンソックスの連中をリスペクトなんてしてるんだろう?


 もう、こいつらについては語りたくない。ただ一言言うならば…、こいつらいつか捕まるぞ、きっと。



 (ようや)く狂気的なステージが終わった。

 だがやはり、やはり零さずにはいられない。


「……な、なんだったんだよあいつらは。

 あんなのがいるから、ロックやパンクが悪の温床なんて言われるんだ。

 そりゃあ、パンクってのはそういう反骨精神が売りだからそのあり方を否定するのは難しいけれど、それでも一応は世間との折り合いはちゃんと付けているものだろ。あいつらはきっとそこを勘違いしてんだろうな」


「あ、アレは、同じ女として認めたくはないわね」


 みさ姉もオレと同じ心境なようで、呆然ながらもこんな言葉を零している。

 いや、それはみさ姉だけじゃなく他の面子もほぼ同じ。

 香織ちゃんはみさ姉と同じで呆然としているし、高階は背を向けて屈み込み、両手で顔を隠している。これが漫画なら頭がショートして煙が出ているところだろうな。

 そして奈緒子は……。


「そんなこと言って、本音じゃ喜んでるんじゃないですか? 男鹿先輩だってやっぱり男の人ですもんねぇ」


「そんなわけ…」


「そんなわけないでしょっ! 純くんをその辺の男と一緒にしないでよっ!」


 ……ないだろって言うつもりだったけど、それは香織ちゃんにとって代わられた。しかも凄い剣幕で。


「そうよっ、男鹿先輩に限ってそんなわけないでしょっ! 男鹿先輩は紳士なんだからっ!」


 そしてそれに高階が続く。

 それにしても珍しい。こいつがこんなに声を(あら)らげる (※1)なんて。

 だが、そんなふたりには申し訳無いがこれは紳士云々以前の問題だ。普通こういうやつらを見れば、大抵のやつは引くこと間違い無しだろうからな。そこに実例がふたりもいるわけだし。



 三組目は『ブラックバス』だ。

 こいつらは男性四人組のメタルバンドだった。


 まあ、こいつらについてはある程度予想は着いていた。だってこんな名前だしな。まさか釣り好きで付けた名前ってわけじゃないだろうから。

 実際、曲も『○い安息日』『○イアンマン』等。

 そしてそれらのコピー曲は本家に迫るパワープレー。執拗にリフを繰り返し、みんなで同じメロディを弾く。

 こういうと一見素人向けな感じだが、ただそれを極めようというその姿勢は本家へのリスペクトの強さを感じさせる。

 つまりこいつらの実力は本物だ。


 なるほどこの順番なわけだ。あんな酷いものを見せられたとしても、後でこういう実力派が出てくれれば雰囲気を払拭することも可能だしな。

 案外あいつらって、こいつらを際立たせるためのアクセントとして使われたのかもな。


 こうなると、この後に続く『ウェズ』に対する観客の目は厳しいものにならずにはいられないだろう。

 あいつら、この期待に応えられるのか?



 遂に安能達『ウェズ』の登場だ。オレにとっては今日の本命である。

 曲はいきなりのオリジナル曲『ヒャッハー!』。

 まあそうは言っても、最初にオリジナル曲を持ってくるのも定番なので間違いではない。

 しかし、こいつらいきなりノッてるなあ。あの『ブラックバス』の後だってのに。

 いや、だからなのか? なんにしても雰囲気に呑まれないのは良いことだけど。



 ここは地獄の一丁目

 住めば都の極楽さ

 ああ、縛るものは何も無い

 ゆくあてなんて風任せ

 気分次第の好き放題

 ただ、虚ろな日々が続くだけ

 走り出せっ! (ヒャッハー!)

 叫び出せっ! (ヒャッハー!)

 心の全てを曝け出せっ! (ウ~ ヒャッハー!)



「ぶっ! な、なによこのチンピラ振り全開な曲。

 しかもこれ、絶対に物語序盤で死ぬやつでしょ」


 みさ姉が腹を抱え笑い出す。

 うん、オレもそう思う。

 ただそれは仕方がない。なんてったって、これはそういうコンセプトの曲なんだから。

 いや本当、安能達もよくこんな歌詞で曲を作る気になったものだ。正直この意表を突いた発想には感心させられる。普通、曲を作る時って想像するのは物語の主人公とかなんだけどなあ。


 続く曲もまたオリジナル曲の『Goblins』。

 これはもう絶対に狙っているな。

 いや、そんなことは最初っから解っているべきなのかも。なんてったってバンド名が『ウェズ』だもんなあ。格好もみんな皮鎧姿で、ボーカルの安能はモヒカンだし。殆ど世紀末なアニメのチンピラだ。

 因みに『ウェズ』の由来はそっちじゃなくて、某映画の方に出てくるチンピラの名前である。



『ウェズ』の最後の曲は兄貴達デスペラードの代表曲『Desperado』だった。結局最後までチンピラヤンキーのイメージだ。

 そう、これはイメージ戦略だ。他の連中にしてもそうだが、少しでも観客にいろんな方策を試しているわけでこれもそんなもののひとつ。まあ、中にはスカーレットみたいな馬鹿もいるわけだが、恐らくは彼女達もそういう目的だったのかも知れない。でもあんな悪目立ちじゃダメだろうにな。


「ははは、なんか面白いバンドよね。

 曲ややってることは明らかにチンピラなのに、どこか憎めない親しみを感じさせるんだから」


 みさ姉が愉快そうに笑う。


 まあ当然だろう。あいつらの売りはそれなんだから。

 あの剽悍(ひょうかん) (※2)ながらも剽軽(ひょうきん)な様は当に滑稽。脳筋ならではの能天気さの表現だ。

 というわけで、何事をも気にせず自由闊達に生きていきたいという人間の願望こそがこいつらの表現の源なわけで、みさ姉のこの反応はあいつらにとって最高の賛辞といえるだろう。


「そうですね。あの陽気さは観てる者も楽しくなってきますし」


 応じる高階からもいつもの緊張感?が失なわれている。もしかしてこの場の雰囲気に()てられたか? だとしたら安能達の目論見は見事に成功しているということだな。


 

「よ~し、場の征圧は完了だ。野郎共、引き上げるぞっ!」

「「イーーッ!」」


 そんな号令と応答の後、安能達は舞台裏へと戻って行く。

 結局最後までチンピラ節だ。否、一部ヒーロー物の悪役戦闘員みたいだったけど…。


 それにしても征圧か…。ナイスな表現ではあるが、前の連中があのブラックバスだったからなぁ。言葉通りに相手を打ち負かし場の支配をしきれたかどうかは微妙な気がする…。

※1 日頃から誤字脱字の多い本作品ですが、この『声を(あら)らげる』は正しくこのように使われるようです。『声を()らげる』ではなかったんですね。もちろん『声を(あら)げる』でもありません。

 これって結構間違えて使っている人が多いらしく、作者もそんなひとりでした。そんなわけで、今回初めて知ったということなので、これまでの投稿に間違いが有ったとしても笑って流していただければと思う次第です。


※2『剽悍(ひょうかん)』とは『俊敏にして勇猛』という意味。ただ、『浅慮な乱暴者』という意味も有り、要するに『脳筋』のイメージです。

 因みに『剽』は『軽い』、『悍』は『強い』『恐い』という意味があります。つまり『剽軽(ひょうきん)』とは『軽い』という意味の合わさった言葉だったわけです。


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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