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河合の帰還とZENZAバンド

 身の程知らずにも『ESN大賞6』に挑戦してみました。正直無謀とは思ってますが、枯れ木も山の賑わいということで…。

 ただ、やり方がよく解ってないため無事できているかは不明です。

 河合が退院して戻ってきた。

 これに伴いZENZAバンドも(ようや)く活動を再開することとなった……のではあるが…。


「おい、なんだよこの扱いは? せっかく超絶スーパーグレートゴッドウルトラカリスマボーカルの河合聡一様が無事帰還したってのに」


 うん、ウザい。だいたいなんだよ、その超絶え~と、なんだっけ? とにかく無駄に長いんだよ、その不必要に並び立てた修飾語が。


「いや、お前ってウザいんだよ。久々に接して改めて実感したぜ」


 木田のやつもオレと同意見か。まあ帰ってきて早々にこれじゃあな。本人としてはいつもの冗談のつもりだろうけど、やっぱりいつものようにスベってコケてだ。


「あ~、その点アキちゃんは好かったなぁ。自信家なのは同じだけどここまで執拗く鼻につくアピールは無かったし、なによりも凄く可愛かったしなぁ」


 虎谷も木田に追随する。

 てかなに? それでこういう反応なわけ?

 こいつらまだアキのこと諦めてなかったのかよ。


「まだ言ってんのかよ。

 そりゃああの子は良い子だったけど、あくまでも臨時の加入だろ。お前らいつまでも未練を引き摺り過ぎだって。まあ、気持ちは解らないでもないけどな」


 ただ、瓶子の方は違ってるようで、ふたりを宥め諭している。

 そういやこいつって河合と結構気が合ってたもんな。


「ちょっと待てよ、お前らなんの話だよ?」


 結果おいてきぼりになった河合が三人の話に割って入る。そりゃあ当初河合の話だったはずなのが別の人間にその中心に変わったわけだから当然か。


「ああ、この前のライブの話だよ。お前が入院した翌日の」

「そうそ。そのアキって子がお前の代わりを務めたんだよ」


 瓶子と木田が河合に応えた。


「うん、あれは凄かったね。僕達とは初めてのはずなのにあれだけ完璧に合わせてくるなんて。さすがライブ経験者は違うよね」


 そこに虎谷が追い討ちで感想を述べる。

 だが虎谷、恐らくだけど普通はそんなの無理だぞ。だからリハーサルってのをやるんだし。


「はあっ⁈ なんだよそれ⁈ 代役は男鹿って話じゃなかったのか⁈」


 ああ、河合への説明はこれが初めてだもんな。寝耳に水に違いない。当に休養中の不意討ちだもんな。


「文句が有るなら男鹿に言えよ。あの子を寄越したのは男鹿なんだから」


 河合のこの質問に応えたのは瓶子だった。やはりこの中では一番河合と気が合うからだろうか、話の調停者的な立場となりつつある。

 否、調停ってのとは少し違うか、今みたいなことを言ってくれるわけだし。でも、誰に味方するって感じではなく中立なのには違い無い。


「ま、でも男鹿の目に狂いは無かったってのは確かだけどな」

「うん、凄い歌唱力だったもんね。それにMCにしたって誰かみたいにスベったりしないし」


 うん、やっぱり不意討ちだ。なんてったって自分の知らないうちにこんなことになってんだから。


「お、おい、まさかお前ら、俺をクビにしてその子を代わりに迎えようってんじゃ…」


 はは、河合のやつ、不安がってやがる。

 まあ、木田達のこの反応じゃ無理もないか。


「ぶっ。なんだよ、らしくねえな。

 心配しなくてもそんなことしねえって。それにその子にもその気は無いみたいだしな」


 河合の様子に瓶子が苦笑しながら応えた。

 確かに河合らしくないもんな。


 …って、そんなこともないか。最近なんとなく解ってきたけど、こいつの普段のあのふざけ振りはどうにも虚勢みたいだからな。因みに妬みの方も演技っぽい。恐らくはこいつの中の一般的男子像を演じているのだろう。

 つまりこいつの正体は上辺だけの小心者で、自己暗示による勢い任せで物事をするタイプだな。

 この手のタイプは調子に乗れば確かに強い。だけど逆に失敗すれば引き摺るって欠点も有るんだよな。

 まあ、幸いこいつはそういう点は心配無さそうなのだが…。

 無いんだよな? 少し心配になってきた…。


「ああ~、でも、せめて河合にあの子の半分でもいいから会話でスベらないセンスが有りゃあなぁ…」


 オレが思考に耽っている間も話は進んでいたのだが……なんか話題の雲行きが怪しい。


「それにやっぱり女の子がいるといないとじゃバンドの雰囲気も変わるもんね。もう一度アキちゃんと一緒にやる機会って無いもんかなぁ…」


 木田に続いて虎谷もこんなことを言ってるし。


「それならいっそのこと河合に女装でもさせてみるか?」


「「ぶふぉっ‼」」


 な、なんだよそのナナメ上の発想は。

 そう思ったのはオレだけでなく、この場の全員が同じ反応だ。


「じ、冗談じゃねえ。そんな馬鹿なマネできるかって」


 当然河合は否定する。


 …悪かったな、馬鹿なマネで。

 くそ、佐竹のやつなんてオレの方を見て苦笑してるし。


「ま、まあ、部外者がとやかく言うのはなんだけど、僕からの客観的な意見だと今まで通りで良いと思うよ。初めての時だってそれで好評だったんだから」


 ここまで遠慮していた天堂が見かねて意見を口にした。もちろんこの可笑しな…じゃなくて可怪しな空気の修復のためだ。


「う~ん、私も天堂くんの言う通りだと思う。

 でも、ちょっと河合くんの女装は気になるかな」


 美咲ちゃんも天堂に賛同する。

 …けど、女装については否定をしないんだな…。


「もうっ、美咲ちゃんったら。

 でも、私も美咲ちゃんと同意見ね。まあ、素人の意見に過ぎないけど」


 由希も美咲ちゃんに続く。…って、まさかその同意見ってのに女装のことも入ってるんだろうか?


「で、純くんの意見は?」


 こうオレに訊ねてきたのは香織ちゃんだ。

 この言葉に一同がオレに注目してくる。

 やはりオレがプロのプロデューサーってことでだろう。余り積極的に関わるような真似はしたくないんだけどな…。


「正直好きにすればいいと思う。

 ただそれでもって言うんなら、こんなやつでも一応はオレが選んだボーカルだってことかな。

 まあ、オレから言えるのはこれくらいだ。あとはこいつらが決めること。オレの目と河合を信じるも信じないもこいつら次第だ」


 これは本人達の問題なんだからオレがとやかく言うことじゃない。当事者間で決めることだ。


「ふ~ん。じゃあアキって子と交代ってことになったらどうすんの?」


 こう訊ねてきたのは奈緒子だった。…って、高階達も来てたんだな。


「ならねえよ。話は聞いていたはずだろ」


 全く、横からしゃしゃり出て余計なことを言うんじゃないってんだ。



 まあともかく、オレには関係の無い話だ。こいつらの好きにすればいいさ。

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