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オレにそんな趣味は無いはず…

 この作品って『男の娘?』『女装』のキーワードを付けたままだったんですよね。そんなわけで再びの純の女装モードですが、今回は定着させる予定はありません。…今のところはですが。でも、もう(しばら)くは再登場の可能性も。

 月曜日の昼休憩、瓶子と木田がオレの元へとやってきた。ああ、恐らくはあの話なんだろうな…。


「なあ男鹿、あのアキって子だけど何者だよ? お前とどういう関係なんだ?」


 ああ、やっぱり。こいつらあのライブの晩も携帯で執拗い程に問い詰めてきてたからな。


「ええっ⁈ ちょっと、なによ今の話⁈

 アキって女の名前よねっ⁈」


 香織ちゃんが一気に距離を詰めた。

 そりゃあそういう反応にもなるか、オレの話題で知らない女の名前が出てきたんだし。ただ、その胸元を掴んで揺す振るのはちょっとなぁ。


 オレが指摘したことで、はっと気付いたように瓶子からその手を離す香織ちゃん。


「え? なに? 男鹿くん? また新しい女の子?」


 ただ、斑目が余計なことを言うものだから……って、ああ、睨まれてるのは斑目か。

 馬鹿なやつ。そんな縮み上がるくらいなら最初から言わなければ良いのに。一言居士っていうやつだな。いや、女なんだから(だい)()というべきか?…って、死人の法名じゃないんだよな。四字熟語なんだから。でもあの香織ちゃんの視線のキツさじゃどうしてもそんな気になってくるよな…。


「ふ~ん。で、今度はなにをやらかしたわけ?」


 そんなふたりを余所に由希がオレに問い掛けてきた。


「なんだよそれは。変に決め付けてくれやがって」


 一応抗議はしてみせたけど、実際は由希の言う通りだ。でも、やらかしたはないだろう。それじゃまるでオレがなにか問題を起こしたみたいじゃないか。


「いや、実はな……」


 未だに咽び咳き込む瓶子に代わり木田が説明を始めた。内容はこの前のライブについてだ。

 今回のライブには前のライブの時と違ってこいつらは見にきてないはずだからやはり説明は必要だろう。話は急だったし、チケット代だって決して安いとはいえないし。

 だいたいあの時はオレの招待で仲間全員に無料でチケットを配ったんだ。人数が20人近くだったから結構痛かったのを覚えている。


「なによそれ。自分で物事を引き受けておいて、それを他人に押し付けるなんて、なに無責任なことしてんのよ」


 由希が呆れ加減ながらにオレを咎めてきた。


「う~ん、純くんのことだし、なにか考えが有ってのことじゃないかな」


 対する美咲ちゃんはオレへのフォローだ。

 さすがは美咲ちゃん。オレのことをよく理解している。


「ねえ、もしかしてその子って…」


 佐竹がオレの耳許で囁く。


 さすがは佐竹。オレのことをよく理解している。但しそれは嫌な意味でだ。全く、余計な詮索をしやがる。


 まあともかく、この場の様子じゃ答えないわけにはいかないだろうな。


「美咲ちゃんの言う通り、一応考えが有ってのことだよ。やっぱり無名のバンドが観客の気を引くなら男なんかより女の子だろ」


 本当はこれ以上世間に姿を晒したくないってのが本音だが、こっちも一応は理由のひとつ、だから嘘ってことにはならないはず。


「う~ん、それはそうかも知れないけど、でもそれじゃ河合くんが浮かばれない (※1)よ」


 ぶふっ、ちょっと美咲ちゃん、それじゃ河合が死んだみたいじゃないか。いや、言葉の意味としては間違ってるわけじゃないけど (※1)


「で、どうする気なの? まさか本当に河合くんと入れ替える気?」


 佐竹がオレに問い掛けてくる。

 こいつ、答えは解っているくせに。


「そんなわけないだろ。あくまでもあれはあの場だけだ。だいたい河合はオレが選んだやつなんだぞ。そんなことするわけがないじゃないか」


 だいたいだ、それはオレが考えることじゃなく…。


「それよりも、お前らこそどうするつもりなんだよ。まさか本当に河合をクビにするつもりか?

 そりゃあお前らのことだからオレがとやかく言うことじゃないけど、それは当事者の河合抜きで話すことじゃないだろ?」


 オレは本当の当事者である瓶子と木田に話を戻した。

 こいつら本当にどういうつもりなんだ?


「な、なんでそういうことになるんだよっ。俺達そんなこと一言も言ってないじゃないかっ」


 瓶子がオレの言葉を否定する。


「ああ、全くだ。そんなこと考えたこともないってのになんでそんな話になるんだよ」


 そして木田も。それどころか逆にオレに訊き返してくる。


「なに言ってんだよ、あれだけ勧誘してきといて。あれでどう言い逃れをしようってんだ」


 全く、当事者を前に誤魔化せるわけがないだろ?…って、こいつらは亜姫の正体を知らないんだった。


「「…あ」」


 ふたりが間抜けな声を漏らした。


 ……まさか、こいつら忘れてたって言うのか?


「あ~、そういうことか。

 確かに言われればそうだよな。全く考えていなかった」

「ああ、確かにな。あの時はただ、また一緒にやりたいってことしか考えてなかったしな」


 はあっ⁈

 忘れてたんじゃなくって自覚が無かったってか?


 あ、アホだ、こいつら。まさかこんな反応が返ってくるなんて…。


「まあでも河合については心配は要らねえよ。結局あの子には断わられたしな」


 あれ? いやに諦めがいいな。どういうことだ?


「だよな。

 にしてももったいない話だよなあ。あれだけ凄い子なのにどこのバンドにも入ってないなんて」


 瓶子だけでなく木田もか。ただ、こいつの方は瓶子と違って未だに未練が有りそうだが。


「あ、そうそう、結局そのアキって子と男鹿くんってどういう関係なの?」


 ここでまた話が元に戻った。せっかく逸れてたというのに。斑目のやつ、余計なことを。


「悪いけどそれは秘密だ。それが本人の要望なんでな」


 嘘は言ってない。ただその本人ってのがオレ自身ってだけだ。


 だが、思い返せば我ながら馬鹿なことをしたものだ、せっかく女の振りから解放されたっていうのに。

 まさかとは思うけどオレってあれを気にいってたんじゃないだろうな。


 ……いや、まさか…。


 うん、きっと気のせい、気の迷い。オレにそんな趣味なんて無いはずだ。


 ……目覚めてなければ良いんだけど…。

※1『浮かばれない』とは『報われない』という意味なのはご存知の通りです。ただ、『浮かばれない』は作中での指摘通り死者の無念に対して使われるのが一般的。用法には注意です。


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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