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はあっ⁈ ちょっと待てよっ!

 6月も下旬となれば…というか月末となれば期末試験が行なわれる。いや、もう7月だから行なわれたか。

 今回の結果は…もちろんオレの成績に問題なんてものは無いのでこの結果とは美咲ちゃんのことだ。

 で、その結果だが今回は赤点はひとつも無しだった。実は前回の中間試験も同様で赤点無し。

 うん、やればできるんじゃないか。

 思うにレナ達が入学してきたからではないだろうか。特にミナは美咲ちゃんに心酔しているし、恐らくはふたりに幻滅されたくなかったってところか。

 他にも今年は三年生ってこともあるのかも知れない。大学へ進むためにはそろそろ成績を上げておかないとヤバいしな。

 まあ、理由なんてどっちでもいいんだけど、できるなら最初っからちゃんとやれば良いのに…。


 なにはともあれ定期試験は無事終わったわけで、残るは終業式を待つだけだ。そんなわけで美咲ちゃんは例年に無い余裕振り。そりゃあ補修や追試が無いもんな、当然か。

 で、そんな美咲ちゃんが今なにをしているかといえば、軽音楽部で河合達の見学である。


「うわあ、河合くん達、あれからまた凄くなってる」


 美咲ちゃんが感嘆の声を漏らす。

 でも、それは少し大袈裟だ。

 いや、確かに上達はしているけれど、それでも急激な成長なんてあり得ない。

 そりゃあ一定レベルまでならばそれなりに成長もするだろう。いろいろやるべきことが解るからな。でもそこまで達すればあとは自分達で課題を見付け試行錯誤で模索していくしかなくなってくる。今のこいつらはそのレベルに近くなってきているため急成長は難しいのだ。まあ、裏を返せばそれだけ上達したってことだけどな。


「はは、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、でも実際は俺達まだまだみたいなんだよな」


 河合から美咲ちゃんに返ってきた言葉は珍しく悲観的なものだった。

 でもこいつ、あれだけ尊大で自信に溢れていたっていうのにこうも覇気が失なわれるなんて、いったいなにが起きたんだ?


 聞けば納得の話だった。こいつら調子に乗ってあっちこっちの芸能事務所に売り込みを行ない見事に撃沈したらしい。

 全く、そんなの昭和で流行った手法だろ。平成時点じゃ殆ど廃れてたって聞くのに。なお、それらはその殆どが相手にされず無視されていたというのが実情だが。

 因みに一番の手法とは、当然やはりコネだろう。まあそんなことは誰しも解っているからその手の人物に近付きたがる。オレが正体を隠していた理由のひとつだ。ただ、今じゃそれもバレてしまっているからバレンタインではあんなことになってしまったけど。

 他にも地道にライブを行ない評判になるっていう手も有る。まあ最近、令和世代じゃそれに加えてネットでの動画配信なんて手も有るか。どっちにしてもそこで知名度を稼ぎ目立つことが大事である。兄貴達もそうだったしな。…実際はそう言いきるにはちょっと微妙だが。なんてったって『JUN(オレ)』のことが関係していたし…。


 ともかくそんなわけで、河合の目論見は全て失敗に終わったわけだ。


「なあ、本当にお前の力でなんとかならないわけ?」


 河合がオレに訊ねてきた。先程挙げた一番有力な手段コネである。


「悪いけど却下だ。公私混同っていうのもあるけど、やはり友人という欲目で目が曇るからな、正直お前らの実力に正しい判断を下せる自信が無い。だからどうしてもっていうんなら別のところを当たってくれ」


 オレとしては一応はそれなりになってはいると思う。思うんだけど、なんかあとひとつこれっていう決め手がなあ…。

 恐らくはそれがこれからの課題だな。なお、そのことをオレから言うつもりはない。それを見付けるのもこいつらの課題に含まれるからだ。まあ、オレ自身それが何か解ってないってのもあるけど…。


「ねえ、うちの他の人に見てもらうってわけにはいかないのかな? 例えば聖さんとか」


 美咲ちゃんがオレに問い掛けてきた。

 まあ、あんな風に言えばこう返ってくるのは当然か。


 実をいうとこいつらのことは聖さんに相談していたりする。そりゃあそうだろう。そうでなけりゃあんな企画なんてできるわけがない。ちゃんと聖さんには許可をもらっているのだ。

 そんなわけで聖さんもこいつらのことを知っているわけだが、ただこいつらの扱いについてはオレと同様な意見だ。恭さんの結婚式の時にこいつらを見掛けたことが裏目に出てしまったわけだな。


「だあ~っ。ここでもまた堅物かよっ。本当大人って面倒くせ~っ」


 オレが説明をしてみせたところ、河合の反応はこれだった。

 なんだ、思ったよりは元気そうだな。


「まさか男鹿とのコネが逆効果になるとはな。仕方がない、こうなったら地道に実績を積むしかないか」


 また、瓶子にもまだ現実を受け容れる精神的余裕が有るようだ。


「だな。でもそうなると、やっぱり俺達もライブとかすることになるのか。俺、その辺って余り詳しくはないんだよなあ」


 一応木田も大丈夫そうだ。弱音は吐いているが進むこと自体は否定していないわけだしな。


「まあそこは詳しい人に聞きながら手探りでやっていくしかないんじゃない?」


 虎谷もとりあえずはやる気のようだ。

 でも、その詳しい人ってのは誰のことだ? まさかオレのことじゃないだろうな。


「じゃあそういうことだし、頼んだぜ、プロデューサーさんよ」


 はあ⁈ ちょっと待てよっ。いつ誰が引き受けるって言ったっ。


 そんなオレの抗議を余所に話は進んでいったのだった。

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