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Young Man Can do Anything?

『Young Man Can do Anything』という今回のサブタイトルは亡き有名歌手の曲に因んだものです。あの曲のタイトルってこのフレーズを省略したものだったんですね。

 河合が教室を立って行った。この最近放課後は大抵そうだ。

 行き先は軽音楽部の部室。あれ以降もあの時のメンバーで集まってバンド活動を続けているらしい。まあ、それでオレにどうこうってことを言ってくるんでなければどうでもいい話だけど。

 うん、やっぱり言ってきたんだよな。本格的にやっていくつもりだからデビューさせてほしいみたいなこと。あの時のあれですっかりその気になってしまったようだ。そりゃあ自信を付けるのは良いことだけど、でも増長するのはいただけない。まだまだ問題点は少なくないってのに。


「本当よくやるよ。オレにはそんな気なんて無いって何度も断わっているってのに」


「だからでしょ。だいたいアンタが言ったんじゃない、がんばり次第じゃ事務所の目に留まる可能性が有るって」


 まあ、確かに由希の言う通りなんだけど。


「うん、本当にそうなったら好いよね。私も周りにそういう子が増えるのって嬉しいし」


 美咲ちゃんは肯定的な意見。随分と前向きに捉えている。恐らくは自身の成功故だろう。誰も彼もがそううまくいくってわけじゃないのに。


「でも、それって実際は厳しいんじゃない?

 美咲ちゃんは周りにそういう例が多いからそんな風に軽く考えられるんだよ」


 やはりここで斑目が水を差してきた。

 正直今回はオレも斑目のこの意見には賛成だ。実際、芸能デビューっていうのはそんな簡単な話じゃない。訓練生のやつらを見る度にそう思う。あいつら何年もがんばっているのに未だにあのまんまだもんなぁ。


「でも、やってみないことには始まらないでしょ。それに結果だってまだ決まったわけじゃないんだから」


 で、こっちもやはりでこう返す。本当由希ってば熱血だよな。

 ただ、由希のこの台詞も尤もだ。因果応報ともいうけれど蒔かぬ種は実らないのが事実。

 亡き大物歌手も歌っていた。「若いうちはやりたいこと、なんでもできるのさ」って。「青春は立ち止まるな、振り向かず進もうよ」ってわけである。まあ、当事者達は「悔しいけれどお前に夢中」状態だろうから余計な口出しは無用だろう。


「まあな。だから本人達がその気ならオレにそれを止める気は無いさ。ただ同様に関知する気も無いけどな」


 そう、あいつらがやるのは構わないけど、それとこれとは話が別。オレを捲き込むなってんだ。


 なお、現実は斑目の言う通りで厳しい。それこそ上から目線で否定されて終わることも多い。

 そういえば『やってみる』って韓国語で『ヘボダ』 (※1)なんていうんだよな。全くなんとも皮肉が利いている。


「でも、なにもそこまで頑なに嫌がらなくてもいいんじゃない?

 あ、もしかして女の子じゃないから?」


 なあっ⁈

 斑目のやつ、変な言い掛かりを付けてくれやがる。お陰で他のやつらまで疑惑の目で見てきてるじゃないか。


「んなわけ()えだろ。人聞きの悪いこと言ってんじゃねえよ。だいたいそれが違うってことはBRAINをデビューさせてることで明白だろっ」


 当然オレは否定する。正体の知られている今じゃ噂は以前以上の速さと範囲で拡がるんだ、このまま放置なんてできるわけがない。


「それじゃどういう理由なのよ。ちゃんと納得いくように説明してみせなさいよ」


 朝日奈がオレに訊ねてくる。

 お前もかよ。


 いや、それは朝日奈だけでなく、この場殆どがこんな感じで、オレに理解が有りそうなのは多分佐竹くらいだろう。こいつの思考はオレに近いところがあるからな。

 美咲ちゃんと天堂は微妙。こいつらもオレの立場は理解しているとは思うけど、恐らくは感情が優先してるのだろう。さっきからずっとオレの様子を窺っているし。

 全く、何度も説明しているはずなんだけどな…。


「納得もなにもこれ以上どう言えってんだよ。まあ、お望みというならもう一度説明するけどな。

 まず、オレにも立場が有るからこいつらを特別扱いできないってことだな。そりゃあきっかけはオレだけど、でもそれだけだ。目的だった例のライブが済んだ以上オレの出る幕もそれで終わり。それ以上は公私混同だ。だからそれ以上続けるっていうならそれは当事者達だけで勝手にやれって話だ」


 やるべき責任は果たしたわけだからそれ以上を求められても知らないってんだ。そりゃあ義理は有るけれど、でもそれは決して義務じゃない。


「次はオレの余裕の問題。

 リトルキッスにフェアリーテイル、WISHにBRAINと既に4つもユニットを抱えているわけだからな。

 そこに加えていろいろと他の仕事も入ってくるから、とてもじゃないけど河合達に(かま)けている暇なんて無いんだよ。

 お前らオレが高校生だってこと忘れてるんじゃないだろうな」


 まあ、これは現実的な問題だな。とてもじゃないけどこれ以上は精神的にも時間的にも厳しい。

 そりゃあやってできないこともないだろうけど、積極的にやりたいなんて思わない。なによりもいざって時に備えて余力は残しておくものだ。


 で、問題はもうひとつ。


「最後にあいつらの本来所属しているバンドの問題。

 あいつらがこっちで活動する分向こうのバンドに穴が空くわけだからな。

 実際、あいつら既に元のバンドを脱退してるみたいなんだよな。お陰でオレの元にそのバンドのメンバー達が苦情を言いに来たってのはお前らも知っているはずだろ。

 だいたいなんであいつらオレに言いに来るんだよ。自分達の問題なんだから自分達で解決しろってんだ、全く」


 要するにあいつら元のバンドのメンバー達は瓶子達に見限られることになったわけだ。

 でも、オレは関係無いよな。そんなの当事者同士の問題なわけだし。


「まあ実際、今回の企画が引き金になったわけだからオレの関与を疑いたくもなるわけで、もしオレがバンドに関わるとなると本当に引き抜きってことになるわけだ。オレにそんなつもりは無いってのにな」


 本当に困ったもんだよな。

 でもまあ済んだことは仕方ないわけで、あいつらも過去のことよりも未来を見つめるべきなんだよな。メンバー不足で困ってるってんなら同じ境遇のそいつら同士でメンバーを融通し合うとかいろいろやりようは有るはずだ。いっそ諦めて新たにバンドを組み直すってのもアリだろう。まあ、志向の違いとかが有るだろうからそう巧くいかないのかも知れないけど。


「なによ、結局は全部自分の都合なんじゃない」


 由希が呆れたように言う。

 でも、なにが悪い。本来物事ってのには優先順位ってものが有るだろ。


 そりゃあ献身さは美徳だけど、でもそれは他人に強要されるものじゃない。他人に好いように使い潰されるなんてそんなの真っ平御免だ。

 だからオレは自分に無理の無い範囲で自他ともに好い結果となる道を模索することにしている。

 で、今回は公私両面に亘って無理が有る。

 そりゃあ一応は友人なんだし、美咲ちゃんじゃないけど気持ちの上ではなんとかなってほしいと思わないでもない。

 だからオレとしては、心の中で応援することにする。…まあ、オレに面倒が掛からない限りはだが。

※1『やってみる』は韓国語で『해보다(ヘボダ)』というそうです。『보다』は『見る』を意味し、通常は『ポダ』という発音。ただ前の『해(ヘ)』と組み合わさることで『ボダ』と発音が変わるようです。…と偉そうに説明してはいますが、どういう条件でそうなるのかは作者には理解できていません。

『向き合う』という意味の『맞보다(マッポダ)』と『向かい合う』という意味の『마주보다(マジュボダ)』、『盗み見る』という意味の『엿보다(ヨッポダ)』と『覗き込む』という意味の『들여다보다(トゥリョダボダ)』。例を挙げてみましたがなんか解ったような解らなかったような…。

 話は変わりますが、韓国語には日本語に聞こえる言葉が結構有って面白いです。上記の『해보다(ヘボダ)』『맞보다(マッポダ)』以外にも『꼬라보다(ッコラボダ)』(がんをつける・がんをとばす)、『깔보다(ッカルボダ)』(見下す・馬鹿にする)なんてものも。こっちは発音が微妙に違いますが、代わりに『コラ、オラ』とか『馬鹿もんだ』といった似た意味合いの言葉に聞こえませんか?

[Google 参考]


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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