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純、結婚式に思いを巡らせる

→恭介と葉子の結婚式に純の家族が呼ばれたことになっていたため修正しました。実際には呼ばれていません。[2024/02/09]

 ライブから数日後、恭さん達の結婚式は(つつが)無く行なわれた。その披露宴にはオレや美咲ちゃん、天堂達といった芸能関係の知り合いにアマチュア時代からの知り合い、そしてなぜか河合達ZENZAバンドのメンバーまでが呼ばれていた。高々一回余興を務めただけの関係だというのに、本当に気の好い人達だ。

 うん、まあそれはよいのだけど、そういったイベントの影響は当然その後に出てくるわけで…。


「好いなあ~。結婚かあ~。私と純くんの結婚式はどんな風になるのかしら。

 ねえ、純くんは洋式と和式のどっちが好い?」


 やっぱりか…。

 結婚式翌日、いつものようにやって来た香織ちゃんが早速こんなことを言い出した。


「よしてくれよ。そういう誤解を招く発言は」


 全く香織ちゃんには困ったものだ。

 あの結婚式にはオレの友人ということで香織ちゃんも呼ばれていたのだけど、周囲にオレの恋人であるかのようにアピールし捲るし、兄貴には挨拶とかいって媚び捲るし、挙げ句は花嫁のブーケまで欲しがって手を伸ばす始末。あれは婚期の近そうな身近な友人に対して投げる物だというのに。

 幸い(あらかじ)め投げる相手を決めていたみたいなので、悪ふざけで香織ちゃんになんてことは起こらなくて済んだ。葉さんってばオレに「香織ちゃんと純ちゃん(当然だが二代目の佐竹だ)のどっちに投げてほしい?」なんて悪戯っぽく訊ねてきたから正直心配だったんだよな。あれって恐らくだけどふたりにも聞こえてたんじゃないだろうか。だから香織ちゃんも勘違いをしたのだろう。なお、式後にブーケシェアが行なわれたため香織ちゃんもすっかりとご機嫌だった。


「あ~、でも解るわぁ。女の子ならああいうのって一度は憧れるものだもんねぇ」


 ここにもご機嫌なやつがひとり。普段は人前でこんなことを口にしない由希だった。そういやこいつってこういう夢見がちなところが有ったんだよな。似合わないけど。


「で、男鹿くんとしてはどうなの? 洋式? 和式?」


 せっかく由希の発言で話が逸れるかと思っていたのに、ここでそれを戻してくれる迷惑なやつが。もちろんそんなことをするのは斑目だ。


「別にどうでもいいだろ、お前の話じゃないんだし。

 それともなに? お前、オレ相手にそんな願望が有ったわけ?」


 こういう迷惑なことをしてくるからにはそれなりのお返しをしても構わないよな。論点をそっちに向けてやる。


「ええっ? そんなの有るわけないじゃない。同じ選ぶならもう少しマシな相手を選ぶって」


 おい、さすがにこう迷わずに即答されると傷付くぞ。いくらその気が無いといってもな。てよりも、こっちの方こそお前みたいなやつはお断わりだ。


「なによあなた。純くんにそんな暴言を吐くなんて私に喧嘩でも売ってるの?」


 よし、行け、香織ちゃん。今回ばかりはオレも止めないぞ。いや、普段も止めたりはしないけど。


「私はどっちかというと洋式かな。厳かな和式も悪くないけど、やっぱり女の子なら華やかな洋式だよね。和式じゃ新郎が新婦をお姫様抱っこするなんてあり得ないもん」


 ここでこの空気の修復に入ったのは美咲ちゃんだった。いつもならここは天堂の役割なのだが、やはり話題が話題だけにこの場は美咲ちゃんってことなのだろう。

 で、その美咲ちゃんなのだが、やはり由希と同意見。


「うんうん、解る。結婚式でのお姫様抱っこは女の子にとって絶対の憧れだもんね」


 それは他の女性陣も変わらないようで向日(ひゆうが)もふたりの意見に賛同している。


「あ~、でも男鹿だと身長的に厳しくない? 新郎より新婦の方が絶対身長が高そうだし」


 ただ、朝日奈のこれは余計だ。悪かったな、身長が低くて。


 水を差すような話になるが実際の式でお姫様抱っこが行なわれることはまず無い。まあ記念の写真撮影なんかですることは結構あるみたいだけど。


 実際あれって大変みたいなんだよなぁ。ウェディングドレスって結構重量があるみたいだし、スカート等の裾も長くバランスをとるのも難しい。スカートがロングトレインだったり、ベールがロングベールだったりすると余計にそうだ。どちらも床に引き摺る程の長さが有るからなあ。

 新婦の体重? それについては言及しない。ただ、持ち上げる者の体重の四割以上だと大変だとだけ言っておく。

 ともかくそれだけ持ち上げるのは大変で、中にはバランスをとるのに失敗し花嫁にバックドロップを喰らわせる惨事になった情けない新郎もいるらしい…って、冗談だよな?

 まあ、そこまで極端な例はまず無いとしても、そんなことになれば高い衣装の破損なんてリスクも加わるわけだ。借り物の衣装で式を挙げているふたりには少しつらいことになるだろう。


 そんなリスクの有るお姫様抱っこだが、恭さんは見事やってみせた。しかも記念撮影の場面だけでなく、新郎新婦の退場という最も印象に残る重要な場面でだ。

 そんな映画の一場面みたいなことをやってみせたのだから、それを直に目の前にした美咲ちゃんや由希が憧憬(しょうけい)(いだ)くのも納得だ。オレから見てもあの時の恭さんは格好良く見えたしな。

 まあ、その影響で(しばら)くは新郎のお務めが果たせなくなったなんて下品な後日談を兄貴から聞かされたのには苦笑する以外になかったけど…。

 

「あ~、相手が高階さんだと余計にそうだよね。新郎より新婦の方が圧倒的に高いから。

 多分30cmくらい違うんじゃない? あの子180cmはありそうだし」


「それなら24cmだろっ。人聞きの悪いこと言うんじゃねえよっ」


 斑目のやつ、失礼な。オレの身長は156.4㎝だ。


「大差無いでしょ、どっちにしても言ってることは同じなんだから。アンタ、自分で言ってて虚しくならないわけ?」


 うぐっ、由希のやつ…。

 だが、これでも以前よりは0.2㎝は伸びてるんだ。だからきっと、そのうちに…。


「それはおいておくとしても、純くんの場合は和式イメージかな。ほら、なんか厳かな感じが似合いそうだし」


 天堂が話を逸らしに入ってきた。


「ああ、堅物の男鹿だとそんなイメージかな。それだと同じイメージの有る高階なんかとも合いそうだ」


 それに河合も乗ってくる。

 珍しいな。こいつのことだからてっきり一緒になってオレを揶揄(からか)ってくるとばかり思ってたのに。


 でも、う~ん、オレの結婚式か…。なるほどオレだと和式の方がしっくりときそうな気がする。

 相手も高階だとこっちイメージだな。あの奥ゆかしさだと絶対こっちだ。

 ただ、和式だとあの高身長に合う物ってそうそう無いんだよな。恐らくは殆どの物がオーダーメイドになりそうだ。


 香織ちゃんだと……こっちも和式のイメージか?

 洋式も悪くはなさそうだけど、なんだかんだで結局は相手に合わせてくれるあの性格はやはり日本人気質だよな。だからやっぱり和式だな。


 ……って、なんでオレはこんなことを考えているんだ。ふたりを受け容れたわけじゃないのに。

 だったら他の身近なところで美咲ちゃんか?

 美咲ちゃんだと……あ、美咲ちゃんだと洋式イメージしか湧かないや。

 まあ無理もないか、あの天真爛漫な天然さじゃ和式のイメージに合わないもんな。あの陽気さは絶対洋式で決まりだ。


 由希は……無いな。絶対に貰い手なんているわけが無い。それでも敢えてっていうのなら…。

 やはり和式か。しかもなんかアレなイメージだ。

 結婚式なのになぜか黒いスーツがうようよ群がっていそうなそんな恐いイメージ。本来めでたい席のはずなのに…。


「ねえ、あなた変なこと考えているでしょ?」


 天堂の切り出しに河合が乗ってきたのを皮切りに、当事者だったオレを他所にあれやこれや話が進む。そんな中佐竹が話掛けてきた。

 ただ、この指摘は的外れだ。


「別に変なことなんて考えてねえよ。こいつらと同じでオレも素直にそういうことを想像していただけだ」


 全く、なんだよ変なことって。


 ああ、そういえば佐竹の場合どうなんだろう。

 というわけで佐竹についても想像してみる。


 …………いや、なんだよそれっ。あり得ない。なんでオレはこんなことを想像した。

 …まさかオレと佐竹の結婚式だなんて…。

 いや、正しくはオレと早乙女純の結婚式。

 あり得ない。考えるだけで悪夢だ。


 なぜかオレの脳内では早乙女純は佐竹じゃなくて、オレの演じる初代早乙女純。

 うげぇ、気持ち悪い。自分と女装した自分。こんなの絶対あり得ない。


「どうしたの、純くん?」


 オレの異変に気付いた香織ちゃんが問い掛けてくる。でも、とてもじゃないけど言えるわけがない。


「いや、ちょっとな。あり得ない相手とのシチュエーションを想像して気持ち悪くなっただけだ」


 あ、言っちまった。

 オレって余程ショックだったんだな…。


「なによそれ? 純くんがそんな風になるだなんて、それって余程の相手なのね」


 香織ちゃんがオレに同情してか慰めてくる。恐らくは自分のこととは思ってもいないためだろう。まあ、確かにその通りなんだけど。


「やっぱり変なこと考えてんじゃない」


 佐竹が呆れたように言う。


 全く、誰のせいだよ。

 そう返してやりたいところだったんだけど、今はそんな気力も無い。

 オレは近場の机に突っ伏した。

※この作中にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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