純と河合の恋愛観
GWの明けた日の朝、早速美咲ちゃん達が例のオーディションについて訊ねてきた。学校で結構な噂になった企画であるにも拘わらず仕事のため関わることができなかったためだろう。
まあ、仮に休みだったとしても美咲ちゃん達に手伝ってもらおうなんて思わないのだがな。無駄に騒ぎが大きくなるだけだから。
恐らくだけど、美咲ちゃんや天堂が手伝うとなるとオーディションを大々的に開くことになったことだろう。それに選んだやつを本気でデビューさせる流れになっていたかも知れない。それこそ辛島の思う壺だ。
「ふっ、よくぞ訊いてくれた。実は…」
「誰もあんたになんて訊いてないわよ。てか、なんであんたがそんな得意そうなのよ」
オレの代わりに応えようとした河合だったが、朝日奈によってバッサリと切り捨てられた。
まあ気持ちは解る。当然河合の方の気持ちだ。朝日奈の方ももちろん解るけど、ここは河合の方に理解を示すべき場面だ。でないと剰りに不憫過ぎる。これじゃ河合聡一じゃなくて可哀そう-いちだ。
「くっくっくっ、それはだな…」
あ、意外と打たれ強い。全く堪えてないようだ。
だが、そんな河合にさらなる追い討ちが掛かった。授業開始の予鈴である。
というわけで、この話は昼休憩に改めてということになった。
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昼休憩。例の結果を訊こうと改めて美咲ちゃん達が集まって来た。今度はいつもの香織ちゃんだけでなく鳥羽と小鳥遊のふたりもいる。なお、高階達は来ていない。さすがに学年が違うからな。まあ、恐らくあいつらはあいつらで集まって話し込んでいることだろう。例の三人組と友人同士みたいだからな。
「それじゃあ集まったことだしもういいか。ただ、説明はオレじゃなく河合からだ。もう朝からずっと話したそうにうずうずし捲ってるみたいだからな」
いや、本当鬱陶しいことこの上無しだったんだから。まあそれもこれで漸くだが。
「それよそれ。なんでコイツがこんなに浮かれてるんのよ。何かに憑かれてるんじゃないの? もしくは変な物でも食べたとか」
朝に続いてまた朝日奈だ。しかも言ってることが酷い。
まあ、変な物を食ったはともかくとして、憑かれてるってのはある意味間違いじゃないかもな。だとするとそれはきっと天狗の霊に違い無い。すっかり鼻が伸びてるから。
「馬鹿を言うのはそれくらいにして、とっとと話を進めるぞ。そうすりゃ理由も解るしな」
ということで、オレは河合を促した。
それに応えて河合がこの場の全員にこれまでのことを説明する。
なお、その台詞については省略する。その剰りに過ぎるの尊大な態度はとにかく鼻に付くからな。それこそ鼻を突くくらいに。
ただ、聞いているやつらとしてみれば、やはり驚きの方が勝るのかオレのようにウザがる余裕は無いようだ。
「うわ~、凄いね河合くん。
だって余り他人を褒めることをしない純くんがこうして直に頼み事をするくらいなんだもん」
美咲ちゃんなんて素直に河合を称賛しているし。ただ、後の台詞が余計だ。
「ああ、でも納得だね。実際カラオケで歌ってた時に随分と驚かされたものだし。歌手として芽が出なかった僕としては羨ましい限りだよ」
天堂も美咲ちゃんに続く。
ああ、そういえば天堂ってなんでも熟すハイスペック振りなくせに、なぜだかそっちじゃヒットが出なかったんだよなぁ。別に下手ってわけでもないのに。
「でも、さすがにあれは嘘でしょ。女の子にモテモテだったってのは」
「そうそう、どうしても信じられないよね」
「それってただの勘違いを誇張してるだけじゃないの?」
一方で朝日奈達は不審気味だ。
ただそれはボーカルの件のことではなく女の子達のことについて。歌の実力についてはこいつらもカラオケで知ってるしな。
まあ、いくらそれを認めているといっても、それとこれとは話が別みたいで、向日だけでなく由希までもが同調している。
「あ~、それはありそうな話だよね。男の子って、ちょっと女の子にちやほやされただけでその気になって鼻を伸ばすっていうもんねえ」
斑目の言葉に河合を除く一同が吹き出した。普段は雰囲気ぶち壊しのこいつだけど、こういう場面には沿ぐうんだよな。
「おい、なんとか言ってくれよ」
自分ひとりじゃ説得力が無いと河合がオレに助けを求める。
「ねえ、それって本当なの?」
その様子にまさかと思ったのか香織ちゃんが訊ねてきた。
「ああ、結構懐かれていたみたいだったし、それをモテていたというならばそうなるかな。
まあ、あの子達はバンドをやってる子達だからな、そういう面で受けが好かったんじゃねえの?」
そうなんだよなぁ。こいつってこんな風だけど、意外と女の子に嫌われることって無いんだよな。レナ達とも初対面で結構打ち解けてたし。まあ、だからといってそれが特別な親密さに繋がるって感じは無いのだが。
恐らくは距離感なんだろうな。日頃は女好きみたいな言動が多く男へは嫉妬を向けているけど、実際は行動が伴うことは無いし。
「あ~、なるほど。そういう面で好感を得たってわけね。
でも、本性を知ったらすぐにでも愛想を尽かすんじゃない?」
「はは、そうだよね。だって河合くんだもんね」
やはり距離感は絶妙だ。今もこうして朝日奈達に弄られてるが、その気安さはどう見ても同性の友人に対するものと変わらない。
う~ん、こいつの恋愛観ってどうなっているんだろうな。
日頃から態度がアレなため、時に女性から顰蹙を買ったりもするが、その割に嫌われているわけでもない。もしこれを狙ってやっているというのならばいったいどういう心境なのだろう。
これが恋愛に臆病という理由なら……いや、やっぱり解らないな。いくら距離を取るといったってやはり好感を持たれる方が好いはずだし、なんで微妙な嫌われ方を望むのか謎だ。
相手の印象に残りたい? だったら好感の方が好いだろうにな。
興味が無い? ならば最初っから相手にしなければ良いだけだ。
否、さすがにそれはできないか。露骨だと周囲の顰蹙を買うし…。
ああ、だからか……って、やはり違うな。それなら女好きをアピールする理由が解らないし、どう見てもあれは演技じゃない。
でもその割に詰めが甘いっていうか、どこか本気度が感じられないんだよなぁ…。
目の前では、やはり河合が女性陣に弄られている。
ただ、そんな河合の表情に不快感は見られない。それどころか寧ろ愉快そうだ。
う~ん、やっぱり解らない。こいつってば本当はどうしたいんだろう。オレの低い恋愛偏差値じゃとてもじゃないけど理解できない。
…案外なにも考えてないだけだったりして。




