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軽音楽部オーディション開始

 作中でいろいろと言っていますが全ては作者のはったりです。ツッコミを入れたくなるところも少なくはないでしょうが、そこは笑って流してもらえれば幸いです。

 GW(ゴールデンウィーク)がやってきた。そう、例のオーディションの日だ。

 正直気乗りはしなかった。そしてそれは今でも変わらないのだが、それでも流れで決まってしまい、そして今日に至ったからには今さら中止というわけにはいかないわけで…。

 はあ……。まあ、こうなったからにはやる以外にはないだろうな…。


 というわけで、オレとしては不本意な軽音楽部のオーディションが始まったわけだ。


「さて、それじゃあ一番手か。

 ええっと、『レッドコメット』?

 なんだ? 昭和の歌謡曲でも歌うのか?」


 オレの頭に浮かんだのはあの名曲。「森と~泉に~♪」って歌い出しのやつである。


「曲は…『○EYOND THE TIME』?

 なんだ、全く別の曲かよ…」


 いや、これも確かに一応は昭和の曲だし、有名アーティストの有名曲だけど…。

 ああ、それで『レッドコメット』か。つまり漫画の影響だったんだな。


 というわけで、一番手はアニソンバンドだったわけだ。

 実力? 問題外だな。所詮はアニメオタクだし。

 要するにこいつらは完全に趣味でやってるだけの、それで自己満足してる連中で、曲の演奏が好きなんじゃなくて、ただアニメが好きなだけの連中なわけだ。論外なのは当然だな。


「さて、気を取り直して二番手か。ええっと、今度は…」


 現れたのは『Chocolate Sunday』という女の子三人組だった。

 ただ、それとは別に女の子がふたり…って、こいつらは…。


「た、高階⁈ なんでお前がここに?」


 それは高階とその幼馴染みとかいう女の子だった。


「あ、どうも、男鹿先輩。今日は私達、この三人の付き添いでやってきたんです」


 いや、訊きたいのはそんなことじゃなくってだな…。


「いやあ、こんな偶然ってあるもんなんですねえ。まさか男鹿先輩がこの企画の主催者の芸能プロデューサーだったなんて。もうっ、なんで教えてくれなかったんですか」


 いや、訊きたいのはこんな台詞でもなかったのだが…。

 でも、この幼馴染みとか言ってた子のこの白々しい台詞で大凡(おおよそ)の察しが着いた。きっとこの噂を聞き付けて、この子達の付き添いに(かこ)つけることを思い着いたのだろう。全く、こんな持って回ったことしなくても普通に会いに来ればいいのに…。

 まあ、これも性格か。基本奥ゆかしい高階としてはなんの用も無しにってわけにはいかなかったのだろう。恐らくはこの幼馴染みに唆されたのに違い無い。


 と、それよりも、今はこのバンドの子達だった。

 曲はリトルキッスの『ららら』。去年の修学旅行で広島のアレを観たことで着想を得て作った曲だ。

 平和への願いと祈りを込めたこの曲は正直オレの柄じゃないのだけど、リトルキッスの、特に美咲ちゃんのイメージには合っているのだろう、その人気は結構高い。

 で、この曲だが、比較的リズムの早いものが多いリトルキッスの曲の中でややスローな部類に入る。

 なにが言いたいのかというと……音楽初心者でも取っ付き易い曲なわけで……要するに、こいつらも(あま)り上手な部類には入らないわけで、お世辞でも褒めるのは難しい、そんなお粗末なレベルだったわけだ。あえて褒めるとするならば、可愛らしいってことになるのだが、この企画の趣旨である演奏とは全く関係が無いわけで。これがバンドではなくアイドルとしてのオーディションなら少しは評価もできたかも知れないんだけどなぁ…。

 そんなわけでこいつらも論外。さあ次だ。


「ようっ、それじゃ今日はよろしく頼むな」


 三番手は安能達の『ウェズ』だった。

 曲はやっぱりこいつらのオリジナルの『ヒャッハー!』。

 いや、それにしても、まさかこいつらが出てくるなんて思わなかった。本人達が身の程を知っているって言っていたから、ないとばかり思ってたのに。


 とはいえど、こうして出てきたからにはオレも仕事だ。安能達に好感は有るけれど、審査に私情は(はさ)まない。そんなわけで安能の「よろしく」には応えられない。悪く思わないでくれよ。


 案外安能達の演奏はそう悪いものではなかった。今日という日に向けてしっかりと練習と調整をしてきたのがよく解る。当然ながら今日一番の評価だ。



「う~ん、軽音楽部も強ち馬鹿にできないものだな。この間観たのとは全然仕上がりが違ってるし」


 そんな期待を抱きながらその後も審査を続けていく。

 しかし、その結果はどうにも微妙。突出して優れたやつらなんて当然存在するわけもなく、精々がそこそこのレベル。それもバンド全体としてでなくあくまでもその中の個人としてだ。

 はは…、ちょっと期待が過ぎたかな。元々はそんな気なんて無かったのにな。


 そして次で(ようや)く最後。そうなると…。


「さて、どうするかなぁ。そろそろ結論を出さないといけないし…」


 はあ…。なんか溜め息が出てきそうだ。否、出てるけど。

 でも、仕方が無いよな。どうせ最後のこいつらも似たり寄ったりで今までの連中と大差なんて無いだろうし。


「おいっ、オレ達の演奏はまだだろうがっ! 勝手に結論を急いでんじゃねえっ!」


 その声に俯いた顔を上げて見ればそこには見知った姿が。


「ああ、そう言えばお前もいたんだっけ。姿を見ないからいないとばかり思っていた。

 まあでもそうだよな、あれだけ大口を叩いておいて出てこないなんてそんなことあるわけないもんな」


 いや、怪訝しいとは思ってはいたんだよな。全然姿を見なかったから。


「当たり前だっ。だいたい昔から言うだろう、真打ちは最後に出てくるもんだって」


「いや、それは関係無いだろ。順番は籤引きなんだから。

 それよりも、やるんならさっさと始めろよ。口先だけのつもりは無いんだろ?」


 馬鹿なやり取りをほどほどに切り上げ、辛島達を促す。


「ああ、見るがいい、オレ達『マスタードボム』の実力をっ」


 そんな偉そうな自信を放ち辛島達の演奏が始まった。

 曲は兄貴達デスペラードの『Fire』。それなりに売れている代表曲のひとつだ。

 作曲は葉さんだけど作詞の方は恭さんが行なっているため、悪趣味なものの少なくないデスペラードの曲の中ではまともな曲である。恐らくはそれがこの曲の人気の理由なのだろう。


 ボーカルの辛島がシャウトする。


 Burning fire! fire! fire!


 なるほど言うだけのことはある。

 だがしかし…。


 一言で言うならばボーカルの辛島がやり過ぎだ。気持ちは解るが無駄に大声で叫び捲れば良いってもんじゃない。繊細さの必要性を理解できてないのだろう。

 逆に他の連中はもう少しボーカルに負けない演奏を心掛けるべき。格好付けることを考えるのはその次だ。

 まあ、それでもこいつらは自分で言うだけのことはあり、一応のレベルには達しているようだ。と言っても所詮はアマチュアとしてはだが。本気でプロを狙うんだったら考えることは山積みだ。


 ともかくだ、これで全ての審査は終わり。

 それじゃ結果発表といくか。

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